その101 このままでは……
「……そうでしたか……」
老人が声を出す。表面的には冷静に見えたが、その実、声音には確かに悲しみの響きが込もっていた。
締めくくるように、老人が言葉を紡いだ。
「……私から話せることは以上です。申し訳ありません。この程度のことしか、当時の私達には分かりませんでした。これだけの情報では……サトリの呪いを解くことは難しいでしょう」
それは現在に至るまでの結果が示している。もし老人やゼントが得た情報によって呪いが解けているのなら、いまここにサキは訪れていないのだ。
サトリのサキが存在すること自体が、呪いが解けなかったことを証左しているのだから。
しかし、それでも、少年は諦めたくはなかった。老人へと尋ねる。
「あの……元司祭長さん」
「そういえば、私の自己紹介がまだでしたな。私はピーツと申します。もはや司祭長を辞していますので、ピーツでよろしいですよ」
「……ピーツさん、一つ、聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
ここまでの手掛かりでは、呪いを解くことは出来ない。だから……新たな手掛かりを、手掛かりへと至る為のヒントを得る必要がある。
「ゼントさんは、サキさんのおじいさんは、修道会を出たあとにどこに向かったんですか?」
「ゼントの行き先、ですか……?」
「はい。サキさんのおじいさんが向かった場所が分かれば、そこでさらなる手掛かりを得ることが出来るかもしれませんから」
「……確かに、そうですね……しかし、これも申し訳ないのですが……」
三度目の謝罪。老人は本当に知らないらしい。言い訳のように言う。
「ゼントが修道会を去る直前、サトリの呪いに脅威を抱いた者達によって、修道会は暴動に巻き込まれてしまいました。ゼントはその暴動から逃れる形で、修道会から去っていったのです」
数日前、ノドルの修道長もそのようなことを言っていた。それから先のゼントの行方や動向については不明であり、現在は既に死亡していることが分かっているのだと。
「その時は、私達も暴動を鎮めたり修道会にいる者達を避難させるのに必死でして……ゼントがその後どうなったかについては分からないのです。……お力になれず、本当に申し訳ありません……」
「「「…………」」」
こうして、修道会の元司祭長であるピーツとの話は終わりを告げる。
いま得られる手掛かりは潰えた。いままで得られた手掛かりでは、呪いを解くことは非常に困難を極める。
このままでは……。
その後、少年達四人は老人の家から外に出る。玄関には見送りの老人が立っていた。