その100 サトリの最終段階
少年と青年の口から発せられる単語に、サキは聞き覚えがない。思わず疑問が口から出てしまう。
「……映像……? 動画……? それにテレビやビデオというのは……?」
「俺やハオさんがいた世界にそういうのがあったんだ。この世界ではまだないみたいだけど……」
「……そうなんですか……」
少年の言葉にサキは応答するが、理解は未だに追いついていない。『映像』を実際に目にしていない為、まだよくイメージがつかないのだ。
だが少年と青年の言葉に対して、老人もまた目を丸くしていた。老人は少しく驚いた声を出す。
「『映像』をご存じでしたか……まさしくゼントもそう言っていました。これは事象を『映像』として記録したものだと。『文章』よりも分かりやすく、想像しやすく、そして一目見て全体像を把握出来ると」
しかし老人の驚きはすぐに潜まり、沈鬱な雰囲気へと戻る。
「ゼント自身、その『映像』という言葉は先代の継承者から聞いたと言っていました。それと同時にこうも……これが発現した以上、最終段階が近付いている、と」
「「「……最終段階……」」」
そこで老人は首を横に振る。
「申し訳ありませんが、第三段階目以降や最終段階については、私は知り得ておりません。私が知る前に、ゼントは我々修道会の前から姿を消してしまいましたから。第三段階目に到達した以上、これ以上修道会に迷惑を掛けることは出来ない……と。そう言って」
「「「…………」」」
その場に沈黙と静寂が訪れる。それぞれがそれぞれの思惑を抱いている時間。ややあって、少年が黒髪の少女をちらりと見た。
「……サキさん……」
「……分かっています……」
「……え……?」
小声でつぶやいた彼の言葉に、サキは答え、そしてだからこそ少年は疑問の声を漏らしてしまう。
分かっている……? いったい何を分かっているのだろうか? ……と。
「……少なくとも、わたしはサトリの最終段階について、実際にこの目で見ました」
「……あ……」
少年は思い出す。以前、彼女は自身の母親からサトリを継承したことを告げた。その時、自身の母親がどうなったかも言っていたのだ。
「……わたしの母は、いまのわたしの顔にある、この鎖のような紋様が全身に浮かび上がって……そして全身をサトリのメッセージウィンドウに覆われて……亡くなりました。……それが、それこそが……サトリの最終段階です……」
「…………っ」「「…………」」
少年が我が事のように悲痛の顔を浮かべ、青年と老人が静かな顔で彼女の話を聞く。
サトリの最終段階について初めて知る青年と老人、及び白髪の少女が至って冷静に見えるのに対して……聞くのが二度目であるはずの少年の方が動揺していた。