その98 白髪の少女と似ていた
唐突に硬直した老人を見て、白髪の少女以外の三人が不思議に思う。ハオが老人へと聞いた。
「どうした、じいさん? こいつはアスってんだが、子供なのに白髪なのが珍しいのか?」
「…………」
しかし老人は依然固まったままであり……数秒の時間差を置いてから、ようやく口を開いた。サキにした時と同じように、あるいは彼女の時よりも雰囲気を落ち込ませた様子でかぶりを振りながら。
「……失礼……その……いまはもう亡くなってしまった知り合いに似ていたものじゃから……」
その反応は、もしかしたらサキが自己紹介した時よりも大きなものだった。老人が言う知り合いとは、余程白髪の少女と似ていたということなのだろうか……サキとケイは疑問に思う。
そしてまた、老人の返答に反応を示したのはハオと……それから珍しいことに白髪の少女もまた、それぞれの反応を示していた。
ハオはびっくりしたような顔を、白髪の少女は僅かに睨むような目つきを。
ハオがテーブルを両手で叩く。テーブルに置かれたお茶碗が微かに宙に浮いて、また元の位置に戻る中、彼は老人へと迫るように言った。
「知り合いだと……⁉ そいつは誰だ……⁉ 名前は……⁉ もしかしたら……」
その気迫にサキとケイの方もびっくりしてしまうが、しかし老人は首を横に振るだけだった。
「……いや、すまんの、儂の勘違いのようじゃ……」
「……勘違い、だと……?」
老人は青年に瞳を返す。そこには先程のような戸惑いは見られなかった。
「……それよりいまは、サトリの呪いについて話そうじゃないか……お主達はそれが目的でここまで来たのじゃろう?」
「…………」
青年は強い目で老人を見返す。その青年に、白髪の少女が静かな声を掛けた。彼女の声にも目つきにも、もうついさっきのような睨む雰囲気は消え失せていた。
「……ハオ……そのおじいさんの言う通り……」
「だが……アスの……」
振り返る青年に、白髪の少女は冷静に言う。ここにいる他の誰よりも沈着な雰囲気で。
「……わたし達のいまの目的は、サトリの呪いについて知ること……それを忘れないで……」
「…………」
まだ何か言いたそうな顔つきだったが、青年は身を引いてまた床にあぐらで座り込む。内心の不満を表すように、自分の足に肘をついて、その手に無愛想な顎を乗せた格好をしていたが。
そんな彼に、ケイとサキは戸惑いの視線を向けていた。いったいどういうことなのか……聞いておきたい気持ちはあったが、いまはそれが出来る雰囲気や状況ではなかった。
白髪の少女も、もはやもう終わったことだというように、平生と同様の無感情の顔を前に向けているだけだった。
そんな彼らに、老人が口を開く。たったいま起きた心と場の動揺を鎮めた口調で。
「……それでは話しましょうか……かつて私が知り得たサトリについて……。あるいは、貴方達が既に知っている内容と被っている部分が多々あるかもしれんが……」
厳密には、白髪の少女の自己紹介は成されていない。青年が名前を告げただけだ。
しかしそれでも老人が主目的の話を始めたのは……あるいはあえてその話題に触れないようにしたからかもしれない。もしかしたら表出されてしまう事柄を、少なくともいまこの時は避ける為に。
彼らの主目的を達成する邪魔にならないようにする為に。