その97 自己紹介
青年と少年と黒髪の少女は顔を見交わす。それから老人へと顔を戻すと、まず青年が口を開いた。
「俺はハオだ。この世界の覇王になる奴の名前だ。しっかり頭に叩き込んどけよ」
「ふぉっふぉっ、それは頼もしいのう。貴方が作る新しい世界がどんなものになるか、私はこの世にいるかあの世にいるか分からないが楽しみにさせてもらいますよ」
青年が口上した覇王の下りは言わなくても構わないことではあった。しかし老人は心底楽しみにしているように笑顔を返したのだった。
青年に続いて、次は少年が口を開く。
「俺はケイです。その、自己紹介出来るようなことはないんですけど……一応こことは別の世界から来ました」
「ほう、別の世界から……つまり異世界の民ですか。今度、もっとお時間がある時にでも詳しい話を聞いてみたいですなあ」
「はあ……」
老人は本当に興味をそそられたらしい、探求心溢れる学者や子供のようにきらきらと瞳を輝かせた。
少年の次に口を開いたのは黒髪の少女だ。彼女は自身のフードを外すと、やや緊張した面持ちで自己紹介した。
「わたしはサキです。わたしには母から継承したサトリの呪いがあります。本日は、元司祭長様がかつて出会ったわたしの祖父……ゼントとともに元司祭長様が探り出した、この呪いに関することをお聞きしたいと思って訪ねて来た次第です」
「…………」
今日の来訪の中心人物である黒髪の少女が緊張しているのは仕方のないことだったが……その彼女の露わになった顔を、老人はじっと見つめた。
先の二人に対しては自己紹介への応答があったのに、自分にはそれがない。見つめるだけの視線に彼女は若干困惑してしまう。
「あ、あの……?」
「……いや、こりゃ失礼……」
詫びを言ってから、老人は言い訳をするように言う。
「いまの司祭長から話は聞いていたが、いざ対面してみると、こう、感慨深いものがあっての。貴方がゼントのお孫さんか……ふぉふぉ、あやつの面影は全然見えんのう」
「はあ……」
「むしろ……どうやら貴方は祖母似のようじゃ」
「わたしの祖母を知っているのですか?」
少し驚きながらサキは尋ねる。しかし老人の返答は。
「知っているといえば知っているし、知らないといえば知らないといえるだろう」
「……? どういうことですか……?」
曖昧な返事をする老人にサキは問いを重ねるが、しかし老人はかぶりを振った。
「……いまはそれを話している時間はないじゃろう。それもまた今度、時間がある時にしようじゃないか」
「…………」
「いまは貴方の呪いについて話す時……まあ、最後に残ったその子の自己紹介がまだ済んで……」
そこで白髪の少女に目を向けた老人は、はたりとその動きと顔つきを固まらせた。いま初めてその存在に気付いたというように……目を丸くしたといってもいい。