その93 昔からの幼馴染みのよう
修道会から外に出ると、青年は待機していた馬車の御者に、目的地は近いから自分達は徒歩で向かうことを告げて、御者の返事も聞かずにそれまでの代金を払うと背を向けて歩き出していった。
御者は僅かに戸惑っていたが、それはケイとサキも同じであり、ケイ達は青年の後を追いながら尋ねる。
「どうして馬車に乗らないんですか?」
馬車の方が早く到着出来るのにと少年は思うのだが……青年は前を歩きながら彼に答えた。
「御者のおっさんを巻き込まないようにする為だ」
「「……あ……」」
青年の言葉にケイとサキもまた気付いたようだ。ローブのフードを再びかぶり、通行人に顔を見られないようにしているサキがつぶやくように言った。
「そうですよね……いつ、わたしを狙ってくる人が現れるか分からないんですから……」
「ああ。勝手に決めて悪いがな。歩きで疲れるだろうが我慢してくれ」
「いえ……わたしなら大丈夫です。ケイさんは……」
サキは少年に目を向ける。少年もまたうなずいた。
「俺も大丈夫。無関係の御者のおじさんをこれ以上巻き込むわけにはいかないし」
自分達に反対はない、ケイとサキは黙ったままついてくる白髪の少女を見やるが……青年が彼女に変わって答えた。
「アスなら心配しなくていい。こいつは反対する時ははっきり言葉と行動で示すからな。黙ってついてくること自体が、同意の意志だ」
「「はあ……」」
ケイとサキは二人揃って声を漏らす。それからケイがつぶやいた。
「なんだか、互いに分かり合ってる感じがしますよね、ハオさんとアスさんって」
彼らと出会ってからいままでに、彼らが言葉を交わしている場面は少ない。にもかかわらず、二人は互いに互いを理解している感じがした。
ケイだけでなくサキもまたそう思っていたようで、彼のつぶやきにうなずいている。
二人の反応に白髪の少女は、
「…………」
依然無言を貫いていたが、青年はというとひょうひょうとした雰囲気を取り戻したように答えた。
「別にそんなんじゃねえよ。むしろ分からねえことだらけだ。ただこいつとはそれなりに一緒にいたからな」
それからふと気付いたように。
「あっ⁉ もしかして俺がロリコンじゃねーかって疑ってんのか⁉ 違うからな!」
「いえ、言ってませんけど……」
答える少年に彼は続けて。
「そういう二人も、俺からしたらそう見えるけどな。息ぴったりって感じだ」
「「え……」」
「まるで昔からの幼馴染みのようだな。本当に数日前に出会ったばかりとは思えねえくらいだ」
「「…………」」