その91 逃げません
『おそらくですが、今日にでもイブはそちらに到着するはずです。遅くても今日の夕方くらいまでには』
昨日、ケイ達四人は朝にノドルを出発して、日没後に王都へと到着した。ノドルから王都までは約一日掛かることになり、イブが出発したのが昨日の夕方だとすれば、確かに修道長の言うくらいの頃に到着する筈だろう。
『イブを信じてください。彼女は強い子ですから。私ですら恐怖したジャセイに、貴方達とともに立ち向かった彼女なら、絶対に無事に貴方達へと追いつきます』
「……分かりました」
ケイが答え、彼に目を向けられたサキもうなずく。
その時、青年が修道長へと言った。話の中の細かい部分を明らかにするように。
「おっさんが昨日じゃなくて、いま頃連絡してきたのはそいつらに負わされた怪我のせいで体力や気力を消耗していたから……それは分かった。だが、どうしてユウナさんはおっさんを助けたんだ? ジャセイの仲間だったんだろ?」
『イブにも聞かれましたが、私の答えとしては分からないとしか言えません。ユウナさんにとってはリスクしかなかった筈ですから』
「…………」
もし万が一にもフードの人物やミョウジンに感付かれていれば、ユウナ自身が窮地に立たされただろう。何故そんな危険を冒してまで、彼女は修道長を助けたのか……。
修道長自身には分からなかった。いくら考えても、自分を生かす理由が見つからないのだ。
青年が続けて修道長に言う。
「分かった、そのことは一旦保留にしとこう。ユウナさんにまた会うことがあった時に、ユウナさん自身から聞くさ。いまはそれよりも……」
『彼らの目的、ですね』
「ああ。黒髪ちゃんを殺そうとしている……で確かなんだな?」
『はい。彼らは確かにそう言っていました。ジャセイと同じく、サトリの力を手に入れることが目的なのでしょう』
「…………」
そこで青年は黙り込む。何かを考えている様子であったが……彼に代わって、少年が口を開いた。サキへと言う。
「サキさん、この王都から離れた方がいいんじゃ……? ジャセイと同じくらい強い奴がサキさんの命を狙っているのなら……」
しかしサキは静かに首を横に振る。決意している強い目で答える。
「……わたしは逃げません。いま逃げたら、皆さんの目的もわたしの目的も果たせなくなります」
「……サキさん……」
「それに、命を狙われているのは昔からのことで、もう慣れています。皆さんがご心配するほどのことではありません」
サキはケイに微笑みながらそう言った。強がった笑みだと少年は察してしまうが、だからこそ、彼は言葉を続けられなくなる。