その88 通信魔法具が置かれている部屋
青年が司祭長に食いぎみに言う。
「そんじゃあ、早速教えてくれねえか? 黒髪ちゃんの呪いを解くヒントを得る為に、元司祭長の力が必要なんだよ」
司祭長もうなずきながら。
「もちろんです。教えましょう。元司祭長様はいま……」
ようやく隠居場所を知ることが出来る……彼らがそう期待を抱いた時、しかし礼拝堂の奥にあった扉が開かれて、姿を見せた一人のシスターが司祭長を見つけて言った。
「司祭長様、ここにいらしたんですね。探しましたよ」
「どうかしましたか? いまは彼らと大事な話をしているのですが」
「それは申し訳ありません。しかしこちらも大事な用件でありまして、ノドルの修道会の修道長様から、通信が入りました」
「……っ……そうですか、ノドルの修道長から……」
司祭長は四人へと顔を向ける。アス以外の三人がうなずきを返す。
聞かずとも、用件は察しがついた。いまサトリによって示された、ジャセイの事柄についての連絡だろう。
司祭長は四人に言う。
「申し訳ありませんが、しばし彼と話しても構いませんか? 貴方達の問いにも必ず答えますので」
ケイとサキとハオは顔を見合わせて、それからハオが司祭長に答える。
「まあ、しょーがねーか。ついでに俺達もおっさんと話していいか? 無事にここまで来たことを報告してーしな」
そして司祭長と四人はシスターの案内の元、通信魔法具が置かれている部屋へとやってきた。先程の修道士にはとりあえず、朝にやるべきことの続きをするように言いつけていた。
その部屋の片隅に置かれている平たい箱がそれであり、そこに小さな魔法陣が展開されていた。すぐに通信を再開出来るようにする為だろう。
案内してくれたシスターを室外に下げさせてから、司祭長がその前の椅子に座り、他の者達は彼の周囲に立つ。司祭長が通信魔法具へと声を掛けた。
「こちら王都の司祭長です。ただいま通信を受け取りました」
司祭長とノドルの修道長は旧知の仲だと聞いていたが、かしこまった口調なのは周りにいる者達への配慮なのだろう。
彼の応答を聞いて、箱の向こうから声が返ってくる。昨日別れたばかりのノドルの修道長の声に違いなかった。
『……おお、司祭長様ですか。お久しぶりですな。こちらはノドルの修道長でございます』
そのやり取りを見て、青年が小声で少年に言う。
「……電話みたいだな。知ってるか、少年は?」
「……はい。俺の世界にもありました。電話とは形は違いますけど、どことなく似ていますね」
二人の世界にある電話には受話器やプッシュする数字の押しボタンなどがあるが、この通信魔法具にはそれらは見当たらない。また魔法陣を展開していることから、電力ではなく魔力を稼働エネルギーとしているのだろう。