その86 後悔の念
そうしてサキは静かに目を閉じて、軽く手を前にかざす。その場の全員が息を飲んで見守る中、その手のひらに意識を集中し始めて……やがて司祭長の前に一つのメッセージウィンドウが出現した。
サキは目を開けて、司祭長に言う。
「いまからわたしの記憶の情報を表示させます」
「その前にちょっといいですか」
「なんですか?」
彼女のしようとすることを一旦止めて、司祭長は礼拝堂の奥にいた修道士に声を掛けた。
「貴方も来て、いまから流れる情報を見なさい。彼女の言うことが嘘かどうか確かめる為に」
「し、しかし……もしかしたら私達のことも表示されてしまうかも……」
「貴方には知られて困る悪事でもあるのですか?」
「い、いえ! そのようなことは決して!」
「なら来て、一緒に見なさい。貴方の主張を確かめる為にも。それにサキさんには、私達を盗み見る気はないのでしょう?」
最後のはサキへと問うた言葉だった。サキは強くうなずく。
「はい。わたしがこれから見せるのは、わたしの記憶です」
その言葉に司祭長もうなずきを返してから、修道士へと顔を向ける。だから大丈夫だという顔つきで。
司祭長のその仕草に、修道士は内心の怖れを表しながらも、意を決して答えた。
「……っ……わ、分かりました……! 私も確かめましょう……!」
そして修道士が司祭長のそばまでやってきて、二人及びサキ達もまたウィンドウに表示される情報を目にしていった。無意識のうちにだろう、司祭長はそれらの文章を声に出して読み上げていた……。
【……ノドルの修道会にはジャセイというチート能力者が存在し……】
……。…………。……………………。
「……まさか……そんなことが……」
「……っ」
サトリによる情報を読み終えて、司祭長と修道士は各々動揺と驚愕の反応を示していた。
サキがウィンドウを閉じて、青年が彼ら二人に尋ねる。
「あんたらは知らなかったのか? こっちの修道会に連絡とかはなかったのかよ」
「……ジャセイという者がノドルの修道会の運営に協力してくれているというのは聞いていました……しかし、まさか、チート能力者であり、乗っ取られているなどとは……」
「……あのおっさんのことだから、あんたらに心配掛けないようにしてたのかもな……」
「……っ」
青年の言葉に司祭長はうつむいてしまう。いままで何度か連絡は取り合ってはいた。
あるいは声音や言葉遣いに何かしらの違和感や兆候はあったのかもしれない。だがしかし……気付けなかった。
そのことに対して、いままでのノドルの修道長との連絡を思い出して、司祭長は後悔の念を抱いていた。……どうして気付けなかったのだ……⁉ と。