その85 ちゃんと知ってほしい
この呪いは長時間使えば使うほど、過去を遡れば遡るほど、本人への負担が大きくなるのだろう。そして負担が増えるということは、呪いの進行度が進みやすくなるということになる。
続けてサキは仲間に言葉を紡ぐ。
「それに、彼らにはわたしのことをちゃんと知ってほしいと思ったから、というのもあります。ノドルの修道長さんとイブさんと、ユウナさんはわたしのことを知って、理解して、受け入れてくれましたから」
「……黒髪ちゃん……」「……サキさん……」
青年と少年は声を漏らす。また彼女の言葉を聞いて、司祭長と修道士はさらに驚きを大きくしていた。
思わずといった口調で、司祭長が彼女に言う。
「すみませんが、ノドルの修道長が貴方のことを知りながら、修道会に招き入れたというのは本当ですか……⁉」
まさかと思ったのだ。サトリのサキといえば重大指名手配者であり、誰もが怖れ、あるいはその命と力を数多くの者達が狙っているのだから。
そんな者を知っていながら匿えば、果たしてどのような事態に陥るか。ノドルの修道長も分かっていない筈がないからだ。
だがしかし、黒髪の少女は首を縦に振る。その顔に不安や憂いを垣間見せながら。
「はい……本当のことです……。もちろんそれには理由があったのですが……ノドルの修道長さん達には本当に感謝しています。いずれご恩をお返ししたいと思っています」
「「……っ……⁉」」
当然のことながら司祭長と修道士はいままで以上に驚愕する。思わず修道士が口を開いて、糾弾するように言った。
「嘘だ! 嘘を言うな! 司祭長様、騙されてはいけません! こいつはノドルの修道長様と修道会を陥れる為に根も葉もないことを……!」
「静かにしなさい……!」
「……っ⁉」
その時初めて司祭長は平静を破った声で修道士を叱りつけた。その声音には黒髪の少女達も驚いてしまう。
しかし司祭長はすぐに落ち着きを取り戻した声に戻って続ける。
「嘘かどうか、そんなことはすぐに分かります。彼女はサトリのサキなのですから」
その通りだった。彼女はサトリのサキ……彼女にはあらゆる嘘も欺瞞も通用しない。それは他者や物質だけに留まらず、彼女自身の記憶にも当てはまる。
司祭長は改めてサキに向き直ると、居住まいを正した礼儀正しい態度で口を開く。例え相手が何者であろうと、修道会本部の司祭長としての威厳を崩してはいけないという思いのもと、言う。
「サキさん、理由があると仰いましたね。その理由を、貴方の呪いで見せてください。それが貴方達と、そしてノドルの修道会の潔白の証明に繋がります」
その言葉に、サキもまた重々しくうなずきを返した。
「……分かっています。だからこそ、わたしは自分の正体を明かしたのですから」