その84 わたし自身の記憶
「いいえ、残念ながら、わたし達は紹介状を受け取っていません」
「なら、他のものということですか……?」
紹介状以外のものとなると何があるだろうかと司祭長は思う。ノドルの修道長が身につけていた物……ノドルの修道会に置かれていた物……あるいは物事を記録出来る魔法具での証明などか……。
しかし、彼女の返答は司祭長及び修道士にとっては意外なものだった。
「……わたし自身の記憶です。必要とあれば、わたしが身につけている物やわたしの仲間である彼らの記憶も、お見せします」
修道士と司祭長は困惑の声を出した。
「いったい何を言っているんだ?」
「貴方達の記憶……? そのような魔法具をお持ちということですか?」
黒髪の少女は答えた。
「いいえ。違います」
そしてそれまで被っていた黒ローブのフードをパサリと取る。明らかになった彼女の顔を見て、司祭長と修道士は思わず、
「「あ……」」
と声を漏らした。彼女の顔には見覚えがある。街の掲示板や手配書などに描かれている顔だったからだ。
驚愕している二人に、サキは言った。
「わたしはサトリのサキです。わたしのこの呪いを使って、わたし達の証明をしてみせます」
「「…………っ⁉」」
いまからおこなわれることを察して、彼女の後ろにいたケイが心配そうな声を掛ける。
「サキさん、でもそれを使ったら呪いが進行して……」
サキは振り返り、彼及び他の二人を不安にさせないように微笑みながら。
「使いすぎないようにコントロールしてみせます。それに、いま使わないと手掛かりを得られませんから」
「…………っ」
彼女の返答に、少年は青年を見た。青年からも何か言ってほしくて。先の馬車の中では、なるべく使わない方がいいと言っていたのだから。
しかし、ハオは仕方なしというように首を横に振る。
「……確かにさっきはなるべく使わない方がいいって言ったがな……いまは使わないと、いけない時かもしんねえ。いま手掛かりを得られなかったら、もう得られないかもしんねえし、得られたとしてもいつになるか分かんねえからな」
「…………っ」
そう言いながらも、青年は黒髪の少女へと尋ねるように言う。
「だが黒髪ちゃん、二人に正体を明かして良かったのか? 黒髪ちゃんの呪いなら、二人に証明する為に見せなくても、普通にこの修道会の建物の記憶を探れば良かったんじゃねえか?」
サキは首を横に振った。
「それだと、どのくらいの時間を遡ればいいのか分かりませんから、サトリの負担が大きくなってしまいます」
「……なるほどな」