その83 これ以上ない方法で……
もし証明出来るのなら、彼らを信じることは容易いだろう。ノドルの修道長の知り合いなら、自分の知り合いも同然だと思って。
果たして、サキは身につけていたウエストポーチを外して、司祭長へと差し出して見せた。
「これはノドルの修道長さんからいただいた物です。ノドルから王都へと旅立つ餞別として、いただきました。司祭長さんの仰る証明になるかは分かりませんが……。わたしの仲間もいただきました」
「……ふむ……」
しかし司祭長は手に取って見ようとはせず、考えている顔をポーチに向けるだけだった。
彼女が嘘をついているようには見えない。むしろ個人的には本当のことを言っていると思っている。
だが……彼女が見せてくるポーチは、魔法具店で売っているものと同じものでしかない。それをノドルの修道長から貰ったものだと証明すること自体が難しそうだった。
司祭長は残念そうに首を横に振る。
「申し訳ありませんが、それだけでは足りないようです。せめて、そうですね……ノドルの修道長からの紹介状のようなものがあれば別なのですが……」
司祭長はノドルの修道長の筆跡を覚えている。また修道長の紹介状であれば、その紹介状には修道会の封蝋が使われる。
封蝋がなされている紹介状があれば、証明としては充分なのだが……。
けれど、黒髪の少女は目を伏せて首を横に振るしかなかった。非常に残念なことに、紹介状は受け取っていなかったからだ。
少し後ろでやり取りを見ていた青年が、肩をすくめながらぼやいた。
「こんな面倒なことになるなら、あのおっさんにその紹介状とやらを書いといてもらってりゃ良かったな」
彼の言葉に、修道士が眉をひそめる。修道長をおっさん呼ばわりしたのだから当然だろう。
だがしかし、やはり司祭長としては青年のぼやきもまた、嘘とも演技とも思えなかった。いまそんな失礼なおっさん呼びをしたところで、反感しか買わないのだから。
奥にいた修道士が声を上げて言ってきた。
「証明出来ないのなら、やはり元司祭長様の隠居場所を教えることは出来ない。司祭長様に免じて官憲への通報は見逃してやるから、さっさとここから出ていってもらおうか」
「……っ」
黒髪の少女はハッとした顔になる。司祭長もまた修道士のほうをちらりと見たが、諌めるような言葉は言わなかった。
……彼らは証明に失敗したのだ。ならば、修道士の言う通り引き下がってもらうしかない。
司祭長自身も残念な気持ちではあったが、いまはそうするしかなさそうだった。司祭長が再び彼らに向き直って、口を開こうとした時……黒髪の少女が決意と覚悟を宿した声音で言った。
「……証明なら出来ます。これ以上ない方法で……」
「それは、ノドルの修道長の紹介状をお持ちということですか?」
司祭長の問いに、黒髪の少女は首を横に振る。