その82 説明する機会
意見を求められた白髪の少女は、相変わらず平生と同じように無視を決め込んでいた。青年は息を一つつく。
「ま、お前はそうだよな」
いつも通りの反応だからか、青年はそれで済ませた。むしろいつも通りだからこそ、安心だとも思えたからだ。彼女が平静さをなくしている時は、総じて相当やばい状況だからである。
「どうかしましたか? 早く話してください」
一向に説明を始めない彼らに、司祭長は声を掛ける。せっかく説明する機会を得られたのに、このままではまた怪しまれて終わりになってしまうかもしれない。
だとしても、どう話を切り出したらいいのかが、青年や少年には見当がつかなかった。思わず青年は小声でぼやいてしまう。
「……くそっ、こういう時、俺の頭がもうちょい良けりゃあな……」
司祭長を説得出来、なおかつ黒髪の少女の呪いについても言及を避けられる、上手い言い訳が思いつくのにと。だがいまそれを恨んでも仕方がない、何とかして、ない知恵を振り絞らないと……。
その時、不意に黒髪の少女が一歩前に出て、意を決したように口を開いた。
「司祭長さん、どうか取り乱さずに、落ち着いて話を聞いてください」
その場の全員の視線が彼女に注がれる。
……サキさん、いったい何を……? 少年がそう思うのと時を同じくして、司祭長が真面目な顔でうなずいた。
「分かっておりますよ。ですので、どうか安心して話してください」
それは彼らを安心させる気遣いだった。そうしなければ本当の理由を聞けないだろうと判断しての。
そのことは四人もまた分かっている。そしてサキは緊張をほぐすように呼吸を一つすると、覚悟を決めた顔と声で言った。
「わたし達は昨日まで、ここ王都から離れた街……ノドルの街の修道会にお世話になっていました」
「おお、ノドルの修道会ですか。あそこの修道長とは昔のよしみでしてね。彼は元気にしていましたか?」
司祭長の顔が明るくなる。目の前の彼らが修道会に関わっていたことを知って、思わず朗らかになってしまったのだろう。
サキはうなずきを返した。声音は真面目なままで。
「はい。ノドルの修道長さんには大変お世話になりました。いつか機会があれば、お礼をしたいと思っています」
「そうですかそうですか。彼もきっと喜ぶでしょう。もちろん、貴方達が無病息災で元気に過ごすことが、彼への一番のお礼になりますけどね」
我が事のように、本当に嬉しそうに司祭長はそう言う。しかし空気が和やかになりかけた時、奥にいた修道士が警戒心を解いていない口調で口を挟んでくる。
「司祭長様、油断してはいけません。それが本当かは分からないのですから。司祭長様や私を騙す為の嘘かもしれません」
「……これ。そういうことを言うものではありません」
修道士のほうを一瞥して、司祭長は言う。だがしかし、彼の言うことももっともかもしれない……司祭長はサキのほうへ向き直って聞いた。
「失礼ですが、いま仰ったことを証明出来る物はありますか? いえ、無茶な注文だということは分かっているのですが……」