その81 信じている心
一行のリーダー格と思われる青年はいまにも逃げ出せる身構えをしている。しかし他の三人は……。
白髪の少女には心的動揺が全く見られない。自身のおこないが自身の正義に基づいていると確信しているかのように。
少年は動揺こそしているが、逃げ出そうとはしていない。もしかしたら捕まるかもしれないという恐怖も垣間見えはするが、同時に話せば分かってもらえる筈だという、修道会に対する信じる気持ちが窺えた。
そして最後に残ったフードをかぶり顔を隠す人物……背格好から見て少女と思われる人物は……少年と同様に修道会への、及び広く人間に対する希望のようなものが感じられた。
人間には悪い者もいる……しかし善い人間もいる筈だという……そして自分が共にする者達は善い人間だと信じている心。
「…………」
司祭長は自身の直感を信じることにした。修道士には反対されるだろうが。
司祭長は四人にうなずきを返した。
「話してみてください。元司祭長様の隠居先を知りたい理由を」
「司祭長様⁉」
声を上げる修道士を司祭長は落ち着いた声で制する。
「まあまあ、落ち着きなさい。官憲に通報するのは話を聞いてからでも遅くはないはずだ。それに……」
司祭長は四人をまた見やりながら。
「私には彼らが悪人には見えんのでな」
「……っ……⁉」
修道士は驚愕と困惑の顔を浮かべるが、それ以上反対の声を上げようとはしなかった。司祭長は修道会において多大な力を持っているから……。
そうして司祭長はその礼拝堂の長椅子の一ヶ所に座り込み、四人へと話を促した。
「話してください。元司祭長様の隠居先を教えるかはそれから判断しましょう」
四人は互いに顔を見交わした。とりあえずは話し合いの場を設けられたと安堵して。
とはいえ、先程の修道士は奥へと続くドアのそばにいて、いつでもすぐに他の修道士の助けを呼べるようにしていたが。
青年が近くにいる少年に耳打ちする。司祭長に聞こえないように小さな声で。
「だがどうするよ? 元司祭長に会う為には黒髪ちゃんのことを話さなくちゃならねえ。だけどそうすりゃ、教えてもらうどころか追い出されちまうかもしれねえぞ?」
「でも……他に良い考えでもあるんですか? サキさんのことを隠したまま、元司祭長さんの隠居場所を聞き出す上手い口実が……?」
同じく小さな声で聞くケイに、ハオは首を横に振るだけだった。観念したように。
「うんにゃ、駄目だ、俺には思いつかねえ」
それから青年は白髪の少女へと聞く。
「おいアス、お前は良い考えあるか?」
「…………」