その80 ……馬鹿すぎ……
そして約二十分後、彼らはまず修道会に到着する。御者に戻ってくるまで待っているように言ってから、彼らは修道会へと入っていき、とりあえず手近にいた年配の男の修道士にハオが聞いた。
「ちょいといいかい?」
「何ですか? 礼拝の時間ならまだ……」
「いやいやそうじゃなくてね、実は以前ここにいたっていう元司祭長に会いたいんだがよ、いまどこにいるか知ってるか?」
「…………」
その修道士は訝しげな目をハオと三人に向けた。そのうちの一人は少年の背後に隠れるようにし、フードも目深にかぶって顔がよく分からない。
怪しむのは当然かもしれない。
「申し訳ありませんが、どのような目的があってそのようなことを?」
「あー、それはだな……」
ハオは内心まずったなと思っていた。すぐに聞き出せると思って、説得力のある言い訳を考えてなかったからだ。
ぼそりと、そばにいた白髪の少女が悪態をついた。
「……ハオは楽観的な馬鹿だから……当然の反応……」
「分かってたんなら言えよ! そうすりゃ上手い言い訳を考えてたんだからよ!」
「……馬鹿すぎ……」
「……あ」
しまったという分かりやすい顔を浮かべて、思わず青年は修道士の方を見る。修道士は不審が確信に変わったようで、険しい顔つきになっていた。
「に、逃げ……」
捕まったら元も子もない、青年は逃げようとするが、そんな彼をサキが引き止めた。
「待ってください! 修道士さんも話せば分かってくれるはずです」
「いや、だけどよ……」
白髪の少女も青年につぶやく。
「……逃げても何も分からない、何も変わらない……」
「だけど聞くならああするしかなかっただろ⁉ 結局怪しまれて終わりじゃねえか⁉」
「……ハオに難しい策略は無理……ブレインが足りない……」
「うっせーよ! 小難しく馬鹿って言うな!」
無駄に騒ぐ彼らに修道士は一層警戒心を強めたようで、すぐに修道会の奥に走り出せるように身構えながら。
「に、逃げてもすぐに官憲を呼んで捕まえてもらうからな! 怪しい奴らめ!」
「ま、待ってください! 俺達はただ、どうしても知りたいことがあるだけで……!」
ケイもまた何とか修道士を説得しようと言った時……修道会の奥の方から老年の男が姿を見せた。
「何じゃ、朝から騒がしいな。早朝礼拝の片付けをしているだけじゃろう?」
「司祭長様……!」
白い髭を生やしたその人物は現在の司祭長だったようで、修道士はすぐさま状況を説明した。
「こいつら元司祭長様の隠居場所を尋ねに来た怪しい奴らです! いますぐ官憲を呼びましょう!」
「ふむ……」
現司祭長は四人を見やる。修道士の言葉を疑っているわけではない。だがあくまで自身の目で見て、自身の長年培われた人生経験による直感で判断する……それが現司祭長たる自分の取るべき振る舞いだと、常日頃から律しているからだ。