その79 当面の目的
翌日の朝。朝食を食べ終えた一行は王都のとある場所へと向かう為に、馬車へと乗り込もうとしていた。
「いやあ悪いね。泊めさせてもらった上に、また馬車で運んでもらって」
「いえいえ、私の本業はこちらですから」
ハオの言葉に御者が答える。そして四人は見送りに出ていた御者の奥さんに一宿一飯のお礼を述べてから馬車へと乗り、御者も御者台へと乗って、馬車は走り出す。
手を振る御者の奥さんに、四人は窓越しに手を振り返す。やがて奥さんの姿が見えなくなった頃、ハオが口を開いた。
「さて、と。つーわけでこれからここの修道会に行くわけだが、その前に俺達の目的を再確認しておこうか。この中なら御者のおっさんにも聞こえないしな」
「「はい」」
返事をするケイとサキ。サキはケイのことをちらりと見る、昨夜のことを気に掛けているのかもしれない。白髪の少女は相変わらず無言で窓の外を眺めていた。
「まず俺とアスの目的だが、アスの村を滅ぼした『チート能力を創るチート能力者』を倒すこと。少年の目的は『黒髪ちゃんの呪いを解くこと』。んで、黒髪ちゃんの目的が、『少年を元の世界に帰すこと』。だったな」
「はい」「……はい」
サキの返事はどことなく元気がなかったが、青年は気付いていないようだった。
「俺とアスの目的の手掛かりは、もしかしたらそいつが王都にいるかもしれないということ。これ以上の手掛かりはいまのところねえから、とりあえずは後回しでいいだろ。王都にいれば見つかるかもしれねえからな」
「「…………」」
「次に黒髪ちゃんの目的だが、返還魔法の使い手の具体的な居場所はまだ分かってねえ。王都にいるかもしれねえし、さらに先の場所にいるかもしれねえ」
そこでサキが口を挟む。
「またわたしが調べれば、分かるかもしれません。この前みたいに……」
「サキさん、でも……」
少年が言おうとするが、青年もまた彼女を制した。
「おっと、それはいまはやめとこうか。黒髪ちゃんの呪いは、その力を使えば使うほど症状が強まって進行しちまう。呪いを解こうとして使い過ぎちまって、そのせいで死んじまったら本末転倒だからな。なるべく使わないに越したことはないんだ」
「それは……」
「ま、この前は俺が言っといてあれなんだけどよ。やっぱり考え直したってことで。とにかく、まずは自力で探してみて、それでも見つからなかったら使うってことにしようや。そういうことで」
サキの返事も聞かず、青年はそう決定する。多少強引にでも決めつけないと、黒髪の少女は命を縮め続けてしまうと思っているのだろう。自身の目的である人物の捜索を頼まないのも、それが理由だった。
そして最後に青年は少年のほうを見る。
「んで、いまんところはっきりと次の手掛かりがあるのは、少年の目的に関してだな。この街に隠居してるっていう修道会の元司祭長に会いに行く。だが具体的な居場所が分からねえから、とりあえずは修道会に行って聞くってわけだ」
「「……はい」」
ケイとサキはうなずく。修道会に行って居場所を聞き、それからそこに向かって元司祭長からサトリの呪いに関して過去に判明したことを聞き出す。それが当面の目的だった。