その74 完全に『外』の状況
イブは閃いた考えを進めていく。それはただの憶測に過ぎない。確たる証拠のない、ただの想像。でもいまはこれを推し進めることこそが、正解へと辿り着く直感があった。
(いえ、多分一緒にここに来て、それから自宅に行ったんだと思う……そっちのほうが効率的だし、命の恩人を自宅に残したままじゃあ、失礼だと思って……)
当事者の気持ちになって考える。もし自分がその立場ならどうするかと。
(それなら、ここに来るまでと自宅に向かうまでの移動手段は……? どれくらいの距離かは分からないけど、四人を無駄に疲れさせたくはないはず……なら、御者なら……)
そしてイブはその結論へと到達する。
(馬車を使うはず)
「……馬車を使うはず……ですよね……」
イブの考えと不意の声がシンクロした。ハッと彼女が声の方に振り向くと、そこには建物の影に溶け込むようにして立つ一人の女性の姿があった。
「……ユウナさん……っ⁉」
それはイブと同じシスターの服装に身を包んだ女性……ユウナだった。イブの街の修道会の修道長を襲った人物とともに去り、しかし修道長の命を救った人物。
果たして彼女は敵なのか味方なのか、何を考え、どんな目的を持って行動しているのか。それは分からない。
だがしかし。とりあえずいま分かることは、彼女は友好的な雰囲気を醸してはいないということだった。
「……貴方は聡明な女性ですから、いずれその結論に辿り着く筈ですよね……」
「ユウナさん、貴方、心も読めたんですか……?」
問いながら、イブは身構える。何が起きてもすぐに対応出来るように。
「……いいえ……ただイブさんの考えていることを、私も考えただけですよ……」
相手の思考していることを、思考する。それ自体はイブもある程度は出来る。相手の考えていることを予想して発言したり行動するのは、日常生活でおこなわれていることだからだ。
だがしかし。だとしても。あそこまで完璧にシンクロするものだろうか。偶然だとしても、あまりにも不気味な偶然の一致だった。
「……イブさんがここにいるということは、修道長は無事に助かったということですね……」
「……貴方のおかげでね。それに関してはお礼を言うべきかしら……?」
ユウナは敵の仲間であることは確かだ。しかし修道長を助けたのもまた確か。だからこそ、イブはどう接すればいいのか、完全には決められずにいる。
いまの自分ではユウナに勝てないことは分かっていたが、それでもすぐに逃げ出そうとしないのは、それが理由だった。もしも彼女に話し合いの余地があるならば……。
「……礼ならいりません。彼はまだ必要だったからです……今後の展開の為に……」
「それは、ジャセイのことを言ってるの? あいつが万が一復活した時の為に、って……」
「…………」
ユウナはそれには答えなかった。代わりに紡いだ言葉は。
「……貴方が到着するのは、早くても明日の朝方の筈でした……これは完全に『外』の状況です……いったい貴方に何が起きたのか、いえ、何が手助けしてくれたのですか……」
「……? いったい何を言っているの……?」
イブにはユウナが言っていることが分からない。