その六十九 王都の馬車組合
(いえ、あのバカがいる以上、ちょっとやそっとのトラブルくらいなら簡単に片付けるだろうし、そもそもここに来るまでの間にそんなトラブルがあったっていう話は聞かなかったし。通り魔事件はあったけど、あれはもう解決したみたいだし)
通りの向こうから紳士とその夫人らしき二人組が歩いてくる。他愛のない会話をしている彼らは宿屋に入るらしく、通行の邪魔になってはいけないと、金髪の少女は横にどいて道を開けた。
(本当に道に迷って、サキの力も使えなくなっているっていう可能性も、絶対とは言えないけど低いと思う。万が一そうだったとしても、さすがに四人もいてずっと道に迷っているなんてこと……もう夜で人通りは少ないとはいえ、近くの人やお店で道を聞けばいいんだから)
ということはやはり、地図の宿屋とは別の場所に向かったということなのだろうか。
横を通り過ぎていく二人を流し見しながらも考えを進めるが、そこで壁にぶつかってしまう。
(だとしたら、サキたちはいったいどこに行ったの? 宿屋以外に、いったいどこに?)
ここで手掛かりが途切れてしまうのだ。黒髪の少女や白髪の少女は以前王都に来たことがあるのかは分からないが、少なくとも少年と青年は初めて来るはずで、しかも夜のことだから、なおのこと宿屋以外に向かう場所というのが思い当たらない。
(せめて、誰か、サキたちがどうするか話を聞いていた人がいれば……)
そう思ったとき、どこからか馬の鳴き声が聞こえてきた。おそらく近くに馬小屋か、もしくは馬車組合の建物があるのかもしれない。
(馬……そうだ……!)
金髪の少女の頭に閃きが走った。
(サキたちを乗せた馬車の御者なら、なにか知っているかも⁉ 王都の馬車組合に行って、その御者に話を聞けば……!)
仕事が終わった馬車の御者は自宅や寮に帰ったり、あるいは馬車組合の建物に泊りこんだりする。またいまの時間帯は夜中であり、馬車組合の建物自体がすでに閉館している可能性が高かったが……それでもいまは、それに頼るしかなかった。
金髪の少女は目の前の宿屋に一度戻って馬車組合の場所を聞くと、すぐさまそこへと向かって夜の道を駆けていった。