その六十五 やっと追いついた
フーラたちと別れてから、金髪の少女は王都のメインストリートを駆けながら考えていた。
(サキたちが着いたのは陽が落ちてからだろうから、まず宿屋に向かうはず。門に一番近い宿屋にいてくれればいいけど……)
その宿屋はこのメインストリートを進んだ先にあるらしい。そこに向かっている途中、何人かの人だかりができているのを見つける。
先ほどフーラたちから聞いた通り魔事件のことを思い出し、またサトリである黒髪の少女の命が悪人に狙われていることも頭によぎって、金髪の少女は足を止めた。
その人だかりに近付いて、人々の隙間から首を伸ばして覗いてみる。人だかりの向こうには、官憲と思しき制服を着た数人が、道路の上を調べたり周囲の人に聞き込みをしているようだった。
すぐ近くにいた年配の男に、金髪の少女は尋ねる。
「もしかして、通り魔事件ですか?」
「ん、ああ、そうらしいな。でもその通り魔は旅の冒険者に倒されて、いまはどっか別のところに捕まってるらしいぜ」
「通り魔を倒したっていう、その冒険者って誰だったんですか?」
「いや、そこまでは知らないなあ」
「それじゃ、その冒険者って何人組だったんですか?」
「さあ、それも分からないなあ」
「そうですか……」
黒髪の少女のサトリの力はどちらかというとサポートタイプで、少年のチートレイザーはチート能力は無効化できるものの普通の通り魔相手には無意味だろう……青年の口振りから白髪の少女には何かあるらしいが、戦えるのかどうか詳しいことは分からない。
となると、金髪の少女が知っている限りでは、あの四人のなかで最も普遍的な戦闘能力が高いのは、青年ということになる。
(ムカつくけど、あのハオってバカなら通り魔くらい簡単に倒せるだろうとは思うけど)
しかし、通り魔を倒したのが本当に青年だったのか、その確証が得られない。
とはいえ、一応金髪の少女は尋ねる。
「その冒険者たちって、そのあとどこに向かったのか分かりますか?」
「いや、それも……」
年配の男が分からない旨を答えようとしたとき、そばで彼らの会話を聞いていた年配の女性が口を挟んできた。
「それなら、近くの宿屋に行ったんじゃないかい。というか、こんな時間に冒険者の人が向かうところなんて、宿屋くらいのもんでしょ」
その言葉に対して、近くにいた別の男が言う。
「いやいや、分からないぜ。もしかしたら水商売の店に行ってるかもよ」
「女かもしれないじゃないか、その冒険者は。まったく、これだから男ってやつは」
「そういうけどよ、最近は女向けの水商売もあったりするんだぜ」
「はいはい、私は行かないけどね」
そんな会話を始める彼らに、金髪の少女は言った。
「あの、ありがとうございます」
そしてその場から離れて、再びメインストリートを小走りに駆け出していく。
(あの変態はともかく、さすがにサキたちが変なお店に行くはずないから……やっぱり近くの宿屋にいるはず)
そんなことを考えながら走り続け、そろそろ息も切れてきたころ、視界の先に宿屋の看板が見えてきた。その宿屋の前で立ち止まり、切れた息を整える。
(サキ、ケイ、アスちゃん……やっと追いついた)
宿屋の入り口を見つめたあと、金髪の少女はその入り口のドアを開けてなかに足を踏み込んだ。