その六十三 せめてもの償い、か……
「それじゃあ、あたしはもう行きます。フーラさん、ミョウジンさん、本当にありがとうございました」
そう言う金髪の少女に、フーラが応じる。
「どういたしまして。夜道は暗いので、転ばないように気を付けてくださいね」
「はいっ」
そして金髪の少女はフーラたちに背を向けると、レンガが敷き詰められているメインストリートを小走りで去っていった。
その背中を見つめながら、ミョウジンが小さくつぶやく。
「せめてもの償い、か……」
「……? 何か言いましたか、ミョウジンさん?」
「いや、なんでもない」
気を取り直したように、ミョウジンがフーラに言う。
「それはそうと、通行証のルールの間隙については、あとで報告しておく必要があるだろうな。なるべく早く改正しておかないと、通行証を確認すること自体が形骸化してしまう可能性があるだろう」
「そうですね」
真面目な顔でうなずくフーラを、ミョウジンは見返して、
「ところできみはどうして通行証なんか発行したんだ? 王宮魔導士なら、なくても通れるはずだが」
「ぎくりっ」
フーラが視線を逸らす。その顔をミョウジンが覗き込むようにすると、彼女はへたくそな口笛でスースーとかすれた音を出した。
ミョウジンがため息をついた。
「なるほど。いつものドジで、うっかり発行してしまったのか」
「うっ……」
図星を突かれて、フーラは慌てたように、
「で、でも、ちゃんと頼まれたことはしましたし、時間にも間に合いましたよ……! それに通行証を発行したおかげで、イブさんを助けることもできましたし……!」
「それはあくまで結果論だろう」
「うう……それはそうですけど……」
フーラが落ち込むように肩を落とす。
彼女のその様子を見て、ミョウジンはやれやれと小さく息をついた。
「まあいい。確かにきみの言う通り、きみのドジのおかげであのシスターを助けることができたわけだしな。今回のことは黙っておくことにする」
「ミョ、ミョウジンさん……っ」
うるうるとした目で見てくるフーラに、ミョウジンは釘を刺すように言った。
「ただし、これからは気を付けるんだぞ。今回みたく、いつも上手くいくとは限らないわけだからな」
「はいっ。気を付けますっ」
フーラがそう返事をしたとき、二人に女性の声がかけられる。
「……やはりここにいたのですね、ミョウジン。それにフーラさんも」
声がしたほうに二人が顔を向けると、道路に沿うようにして植えられている街路樹の影から出てくるようにして、修道服を着たユウナが姿を現した。