その六十二 その冒険者って誰だったんですか?
馬を引き連れて歩くフーラとミョウジンの二人とともに、金髪の少女は外壁の門を通り王都へと入る。
レンガが敷き詰められた道に、アパートメントなどの住居。等間隔に並ぶ街灯に照らされるそれらの街並みには、夜ということもあってか、人通りは少なかった。
外壁の門の前で、フーラが金髪の少女に言う。
「王都の修道会はこのメインストリートを進んだ先にありますよ。もしよろしければご案内しましょうか?」
「いえ、一人で大丈夫です……ちなみに、ここから一番近い宿屋ってどこですか?」
「それもこのメインストリートをまっすぐ進んだ先にありますよ」
「ありがとうございます」
「あ、でも最近は通り魔事件も多発してますし、やっぱり近くまで送りますよ」
「通り魔……?」
金髪の少女が疑問の声を出したとき、フーラの隣にいたミョウジンが口を挟んだ。
「それならもう大丈夫だ」
その言葉にフーラが聞き返す。
「えっ、どういうことですか?」
「旅の冒険者によって倒されたらしい。いまは隔離された場所に幽閉されている」
「はえ~、私がいない間に、そんなことがあったんですね」
ミョウジンとフーラのその会話を、金髪の少女は真剣な顔で聞いていた。その様子に気が付いたフーラが彼女に尋ねる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……」
金髪の少女は言葉を濁したあと、ミョウジンに顔を向けて、
「……あの、その冒険者って誰だったんですか?」
その質問に、フーラもミョウジンを見る。
ミョウジンはフードの人物に従っている身であり、無関係の者に話せる内容は限られたものになる。
(ユウナの報告で、冒険者のうちの一人はサトリだということは分かっているが……サトリを敬遠している者は多い。このシスターを無闇に不安にさせる必要はないだろう)
そう考えて、ミョウジンは口を開いた。
「一人は退治屋と呼ばれている仮面の剣士らしい。他にも何人かいたようだが、さすがに彼らについては俺も分からない」
ミョウジンの話を聞いて、
「……そうですか……」
金髪の少女はそうつぶやく。その表情は心なしか、不安そうな、何かしら気掛かりそうな感じだった。
しかし彼女はすぐに気を取り直したように、二人に向き直ると、
「フーラさん、ミョウジンさん、通行証のこと、ありがとうございます」
頭を下げた。そして顔を上げて、自分のポーチに手を伸ばし、
「あの、助けてもらったお礼なんですけど……」
「あ、っと、ストップですよ、イブさん」
財布を取り出そうとする金髪の少女を、フーラが制止する。
「さっきの人たちも言ってましたけど、私はお金が欲しくてあなたを助けたわけじゃありません。お礼なら、あなたの気持ちと言葉で充分ですよ」
「でも……」
「イブさんだって、見返りが欲しくてシスターさんになったわけじゃないでしょう?」
金髪の少女はハッとした表情を浮かべた。
「……! ……はい……そうでした……」
「それと同じですよ。私は困っている方を助けたいから王宮魔導士になりました。もしイブさんがそれでもどうしてもお礼がしたいというのなら、その気持ちを持って、私ではない他の困っている方の助けとなってください」
「……はい……本当にありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
もう一度頭を下げる金髪の少女に、フーラはにこやかな笑顔を向けるのだった。