その六十一 責任なら俺が持つ
「ミョウジンさん……」
男の姿を認めたフーラがつぶやくのと同時に、ミョウジンが彼女たちのほうへと歩いていく。
「近くを通ったから、戻ってきてないか来てみた。お使いはできたみたいだな」
「当たり前ですっ。もう子供じゃないんですからっ」
すねたように言うフーラに、ミョウジンがかすかな笑みを漏らす。そこでミョウジンは彼女の隣にいる金髪の少女に気が付いて、
「そちらは?」
「イブさんです。ノドルの街のシスターさんとのことです。ね?」
フーラが確かめるように金髪の少女を見ると、金髪の少女は、
「ええ」
とうなずいた。
二人のやり取りに、ミョウジンが目を少しだけ見開く。
(……ノドルの街の、シスターだと……⁉)
ミョウジンのその様子には気付かないで、フーラが今度はミョウジンのことを金髪の少女に紹介する。
「イブさん、この人はミョウジンさんです。私と同じ王宮に仕えている人なんですよ」
ミョウジンが着ている外套の胸元には、フーラのものと同じ魔導士をあしらった金糸の刺繍が施されていた。それを認めた金髪の少女がミョウジンに軽く会釈する。
「どうも……よろしくお願いします」
「ああ……こちらこそ」
気を取り直したミョウジンも会釈を返すが……その胸中はかすかにざわついていた。
(まさか……ノドルの修道会の修道長のことを、王都の修道会に伝えに来たのか……)
修道長を直接手にかけたのは自分ではない……しかし……。
ミョウジンの心に渦巻く思いなど露知らず、金髪の少女は詰め所の窓口にもう一度顔を向けると、そこにいる警備兵に言った。
「通行証の確認は済んだの? 早く王都に入りたいんだけど」
警備兵は答える。
「確かにこれは本物です。有効期限も切れていません」
「じゃあ……」
「いやしかし……フーラさんからもらったとはいえ、他人から譲渡された通行証というのは……」
「なにか問題でもあるの?」
「いや、その……」
返答に窮して、その警備兵は口ごもってしまう。助けを求めるようにそばにいた同僚の警備兵に顔を向けるが、その同僚も困ったような顔をしていた。
煮え切らない態度の彼らを見かねて金髪の少女が何か言おうとしたとき、横合いからミョウジンが口を挟んだ。
「通してやれ」
『え……』
顔を向ける警備兵や金髪の少女たちに、ミョウジンは続ける。
「この国の制度では、王都の外壁を通る際に必要なのは通行証だ。彼女はそれを持っていて、偽物でもないし有効期限も切れていない。ルールには反していないはずだ」
「そ、それはそうですが……」
困ったように言う警備兵に、ミョウジンはなおも言った。
「もしかしたら、いままでにも同じようなことがあったかもしれない。バレていないだけで、他人から譲渡された通行証や拾ったもの、最悪の場合、盗んだものを使ってこの門を通った輩も少なからずいたかもしれないだろうな」
「そ、それは……」
警備兵は言葉に詰まってしまう。
ミョウジンは警備兵から金髪の少女へと視線を移して、
「彼女はそのルールの隙を突いた。それだけのことだ。他人から譲ってもらったものだと正直に言っただけ、まだマシかもな」
金髪の少女は眉を少しだけ動かして言う。
「初対面の人にこう言うのもなんですけど、あたしを悪者みたいに言うのか褒めてるのか分からないんですけど」
「……俺は思ったことを言っただけですよ」
「……」
金髪の少女は複雑な表情を浮かべる。またミョウジンの話を聞いて、フーラも戸惑ったように、
「あの~、ミョウジンさんの言い方だと、私もなんだか共犯者っぽいというか……」
「きみはむしろ主犯かもしれないがな」
「が~ん……っ」
ショックを受ける様子のフーラには構わずに、ミョウジンはもう一度警備兵へと顔を向ける。
「とにかく通してやれ。責任なら俺が持つ」
「……分かりました。ミョウジンさんがそう言うのなら……」
渋々ながらも警備兵はうなずいた。