その六十 フーラさんから譲ってもらったの
王都の外壁付近にある警備兵の詰め所へと、二人の人物を乗せた馬が近寄っていく。馬の手綱を握るのは、金糸で施された魔導士の刺繍のある外套を着た若い女性で、その後ろに金髪をサイドテールにした少女が乗っていた。
二人は馬から降り、若い女性が詰め所の小窓をコンコンとたたく。カラカラと小窓が開いて、なかにいた警備兵の一人が彼女に尋ねた。
「はい、なんでしょうか?」
「こんばんは、王宮魔導士のフーラです。門を開けてくれませんか」
「ああ、フーラさん、こんばんは。……そちらは……」
フーラのそばにいる金髪の少女に気が付いたその警備兵に、フーラが言う。
「こちらはイブさんです。さっきそこで知り合ったんです」
「…………」
警備兵は無言で金髪の少女を見たあと、詰め所の奥にいた同僚……さっき金髪の少女の応対をした者に振り返った。その同僚が小窓のほうに近寄ってくる。
「先ほどの方ですよね。先ほども言いましたが、一般の方がここを通るには通行証が必要なんですよ」
「はいこれ」
「…………」
金髪の少女が差し出した通行証を見て、警備兵が黙り込む。訝しむ様子でじっと見てくる警備兵に、金髪の少女が言った。
「通してくれるわよね」
「……通行証を確認します」
彼女が通行証を渡すと、警備兵は念入りにチェックし始めた。通行証を発行している町まで行って戻ってきたとしても、さすがにさっきのいまでは早すぎる。それにそもそも、こんな夜では通行証を発行している建物は閉まっているはずだ。
ならば考えられる可能性は、この通行証が偽物かもしれないこと。
警備兵がそう考えていることを察して、金髪の少女は口を開いた。
「言っとくけど、本物だから。フーラさんから譲ってもらったの」
「…………」
フーラのほうに目を向ける警備兵に、金髪の少女は続けて言った。
「問題はないはずよね。通行証は本物なんだから。有効期限だって過ぎてないし」
「…………」
詰め所のなかにいた警備兵たちが目を見合わせる。そのとき、詰め所のテーブルに置かれていた小さな箱が光り、ベルのような音を響かせた。光る小さな魔法陣を発しているその小箱へと、警備兵の一人が近寄っていく。
「こちら王都外壁門前、外部詰め所……はい……はい……フーラさんですか? フーラさんなら、いま詰め所の前に戻ってきていますよ……え? ……はい……はい……分かりました」
小箱の光と魔法陣が消え、話していた警備兵がフーラのほうに顔を向けて言った。
「フーラさん、お出迎えです」
「え?」
フーラが疑問の声を漏らしたとき、鈍く重い音を響かせながら外壁門が開き始めていき……その向こうに立っている男の姿を徐々に現していく。
ミョウジンだった。