その五十七 彼女の父親が、彼のチート能力の人柱になったのでしたね……
一方、そのころ。ジーン王都内の王宮にて。
屋内スポーツができそうなほどに広い部屋のなか、片膝を立てて床に座り込むミョウジンに、影の薄い修道女が言う。
「……怪我は治しましたが、気分はどうですか……? まだどこか不調はありますか……?」
「ふん……ない。おかげさまでな」
「……それは何よりです……」
ぶっきらぼうに答えるミョウジンに、特に気分を害した様子もなく、修道女は平生と同じ調子で応じる。そんな彼女にミョウジンは言った。
「さっきのジャックとかいうやつ、私がノドルの街に行く前まではいなかったはずだ。……また召喚したのか?」
「……あなたたち三人のサトリの殺害が、一向に果たせなかったので……」
「ふん……ということは、またチート能力の人柱に死刑囚を使ったのか。あるいは死期の近い……」
「……あなたには関係のないことです……」
「……。……それで手に負えなくなるかもしれないやつを作ってるのだからな……」
「…………」
そのとき、二人のそばの空間に、空間転移のための黒い縦長の穴が開き、そこからフードの人物が現れる。そのフードの人物に修道女は尋ねた。
「……ソニアさまは?」
「いまは部屋で休んでいます。お忍びで外出するための魔法具も壊れたようですし、しばらくは退治屋ごっこもできないでしょう。それはそうと……」
ちらりと、フードの人物は壁にかかっていた時計を見て、
「そろそろ、近くの町に使いに出したフーラが王都に戻ってくる頃ですね」
「……彼女一人で行かせたのですか……?」
尋ねた修道女にフードの人物は答える。
「ええ。彼女も魔導士の端くれですし、何より彼女自身が一人で行けると言ったので。こちらとしても、これくらいできないようでは困りますしね」
「……そうですか……」
二人の話を、
「…………」
と、黙ったまま聞いていたミョウジンが、立ち上がりながら言った。
「ずっと部屋のなかにいたせいか、少し外の空気を吸いたくなってきました。ちょっとそこら辺を歩いてきます」
部屋のドアへと向かう彼に、フードの人物が尋ねる。
「フーラを迎えに行くのであれば、外壁の門まで送りますよ」
「それには及びません。いま言ったように外の空気を吸ってくるだけですし、たとえ彼女を迎えに行くとしても、その程度のことであなたを煩わせるわけにはいきませんから」
そう答えて、ミョウジンは部屋の外へと出ていった。
閉じられたドアを見ながら、修道女が言う。
「……確か、彼女の父親が、彼のチート能力の人柱になったのでしたね……」
それに対して、フードの人物も口を開いた。
「ええ。彼女の父親は死期が近く、どうせ死ぬならということで」
「……そうですか……」
察したように、修道女はつぶやいた。