その五十六 もしかして、何かお困りごとですか……?
王都の外壁からいくらか離れた草原のなかで、金髪の少女は立ち止まり、壁のほうへと振り返る。
「どうしたもんかしらね。明日の朝までなんて待ってられないわよ……」
こうしている間も、友人たちは命を狙われているのだ。悠長にはしていられなかった。とはいえ、強行突破はできる限りしたくなかった。
彼女についてきていたかしらが言う。
「オレたちが一暴れしてくるか? その騒ぎに紛れて侵入するとか」
「それはやめて」
金髪の少女は言下に否定した。
「あたしは騒ぎを起こすために来たんじゃないの。それにそんな騒ぎなんか起こしたら、たとえ王都に入れたとしてもお尋ね者になっちゃうじゃない」
「……ごもっともで」
「少なくとも、もし万が一強行突破をするとしても、それは他の方法が全然ダメだったときの最後の手段よ」
「うーむ……」
かしらは息をつく。いつもの癖で強引なやり口をつい考えてしまったことを反省する。
そこで金髪の少女は気が付いたように、かしらたちに言った。
「というか、これ以上あなたたちを付き合わせたら悪いわ。あたしが頼んだのはここまで送ってくれることなんだから。本当にありがとう、あなたたちのおかげでここまですぐに来れた」
『…………』
少女の言葉に、かしらたち三人と白ネズミは互いに顔を見合わせて、それから彼らを代表するようにかしらが彼女に言う。
「いやいや、シスターさんがあの門を通れる算段がつくまでは、ご一緒させてもらうぜ。そうしねーと、なんか気持ちがすっきりしねーからな」
かしらのその言葉に、若い女と白ネズミが賛同するようにうなずいた。また若い男も、自分たちは盗賊なのになあ、と複雑な心境ながらも空気を読んで首を縦に振っていた。
そしてかしらは握った拳で自分の胸を叩く。
「心配すんなって。泥船に乗ったつもりでいてくれ」
「……大船、ね。泥の船じゃ沈んじゃうじゃない」
「そうだったか? まあ細かいことは気にすんな、なっはっは」
「……はあ……」
金髪の少女は呆れたように嘆息する。しかしながら、その口元はわずかにほころんでいて。
「でも、ありがとう」
見ず知らずの自分のためにここまで動いてくれる彼らに、内心嬉しくなる。まるで、サキやケイの姿を重ね合わせるようだった。
そんな彼女の心境には気付かない様子で、かしらが言う。
「いいってことよ。それで、どうやってあの門を通る?」
「正攻法で行くなら、近くの町まで戻って、なんとかして通行証を発行してもらうしかないわよね」
「んじゃあ、またネズ公にでっかくなってもらって乗るか」
「そうね……手間をかけさせてすまないけど、お願いす……」
金髪の少女が言い終わる直前、彼らに声をかける者がいた。
「あの……もしかして、何かお困りごとですか……?」
少女たちがそちらのほうに顔を向けると、そこには栗毛色の馬に乗り、防寒用の外套に身を包んだ若い女性がいた。