その五十四 乗せて
声をかけてきたかしらを見て、御者が訝しげな声を出す。
「誰ですか、あなたたち」
「名乗るほどのもんじゃねーよ。ただの通りがかりの三バカプラス一匹だ」
「はあ……?」
御者が一層訝しげな表情をするなか、かしらの隣にいた若い男が小さな声で呼ぶ。
「ちょ、ちょっとおかしら……⁉」
そしてかしらの腕を引っ張り、御者と金髪の少女に背を向けてひそひそ声で言った。
「いきなり何言ってんすか⁉ 俺たちさっき牢屋から逃げ出してきたばっかりじゃないっすか!」
「はあ? だからどうしたってんだ?」
「いやあのですね……それに俺たち仮にも盗賊団ですし、盗賊団が人助けとか……」
「バッカ!」
かしらが若い男の頭をひっぱたく。
「いった!」
「そんなの関係ねえ。困ってるやつがいたら助ける。そいつが気に食わねえやつじゃなけりゃあ、の話だがな」
「盗賊がそれ言っちゃいます⁉」
「とにかくオレはそういう性分なんだよ」
「ええええ……」
若い男が困惑した顔をするも、
「あたしはおかしらについていきますからね!」
「チュウ!」
ひそひそ話を聞いていた若い女と白ネズミは賛同の声を上げた。
と、かしらたちがそうしていると、金髪の少女が言ってくる。
「連れていくって、空間魔法でも使えるの? 馬とかないみたいだけど」
「ん? ああ、違う違う」
振り返ったかしらはそう言いながら、肩に乗っていた白ネズミに目を向けて、
「ネズ公、頼む」
「チュウ!」
張り切った声を出した白ネズミはかしらの肩から飛び降りると、彼らから少しだけ離れてから、身体を巨大化させた。
いきなり大きくなった白ネズミを見て、御者は腰を抜かしてしまう。
「ま、魔獣……⁉」
「安心しろって。こいつは無闇に人を襲ったりしねーから」
かしらがそう言う。隣にいた若い男はボソッとした声で、
「昼間思いっきり町襲ってましたけどね……」
そうつぶやいた若い男の頭をかしらがひっぱたいた。
「いった!」
「それで、シスターさん。乗ってくかい? 乗り心地は保証しねえけど」
言ってくるかしらと、目の前にいる巨大な白ネズミを交互に見て……金髪の少女はうなずいた。
「頼むわ」
そしてかしらたちへと近付いていく金髪の少女に、御者は腰を抜かしたまま慌てた声で、
「ちょ、ちょっとシスターさん、あ、危ないですよ!」
「大丈夫よ。あたし、攻撃魔法使えるし。いざとなったら丸焼きにするだけだから」
御者にそう答えてから、金髪の少女はかしらに言う。
「乗せて」
「おうよ。落っこちねえように気を付けて乗れよ」
金髪の少女と、かしらたちは巨大白ネズミに乗ると、
「よし、ネズ公、出発だ!」
「ヂュウ!」
腰を抜かしたままの御者をあとに残して、王都へ向けて星空が照らす草原を駆け抜けていった。