その五十一 ……ついに彼を見つけたのですね……
フードの人物が修道女に言う。
「サトリの居場所も重要ですが、いまはジャックのほうを優先しましょう。ジャックはいまどこに?」
「サトリたちのもとに仮面をつけた剣士の姿のソニアさまが現れ、ジャックをここではない異空間へと閉じ込めました。その際に、ソニアさまが身に付けていた空間魔法の魔法具は壊れてしまったようです」
「…………。……まったく、ソニアさまにも困ったものですね……」
やれやれと言いたそうにフードの人物はつぶやいたあと、
「とにかく、いまはジャックのほうを優先しましょう。私にも手に負えなくなる前に」
フードの人物は目の前の空間に手をかざし、そこに下方向に向いた縦長の黒い穴を作り出す。その穴から、先ほどまで少年たちが戦っていた斬り裂き魔が落下してきた。
「イッテーなクソがッ! いったい何なんだ……ん? ここは……」
斬り裂き魔が周囲の状況を把握するよりも早く、
「ジャックを石化させなさい。一切の身動きができないように」
フードの人物が命令し、斬り裂き魔の身体に無数の石がまとわりついていく。
「テメーは、ドゥ⁉ クソがッ、せっかく出られたのにまた捕まってたまるかよ!」
斬り裂き魔がフードの人物に気が付いてすぐさま逃げ出そうとするが、まとわりつく石によって足は地面に固定されてしまっていて、その場から一歩も動くことができない。
「クソがッ!」
ならばこれらの石を斬り裂こうと斬り裂き魔がナイフを振りかざすが、それを持つ手に石の一つが命中し、ナイフを落とされてしまう。
「クソがアアッ……!」
室内に響き渡る断末魔を残して、斬り裂き魔の身体は完全に石に飲み込まれていった。
まるで植物が地面から生えてくるように、フードの人物のそばの床から、土でできた人型のようなものが現れる。それはいわゆるゴーレムというやつなのだろう、人間の顔にあたる部分には、目と口を示すかのような小さな穴があいていた。
「ご苦労さまです。生かさず殺さず、決して逃がさないように。特に口と手足は絶対に動かせないように注意してください」
「…………」
フードの人物の言葉に、ゴーレムはうなずく。そしてゴーレムは石化させた斬り裂き魔と共に、まるで水のなかに潜るように、床の表面には穴などの一切の痕跡を残さずに床の下へと沈んでいった。
「ジャックについては彼に任せておけば、ひとまずは大丈夫でしょう」
フードの人物がそう言い、修道女はゴーレムの消えた場所を見つめていた。
修道女がフードに人物に顔を向けて言う。
「……ついに彼を見つけたのですね……」
「ええ。時間は掛かりましたが、ユウナさんの言っていた地域をしらみつぶしに探して見つけました」
「……そうですか……」
「これで残るは、サトリを殺すことだけです。……それはそうと」
フードの人物は部屋の向こうに倒れたままのミョウジンに目を向けながら、
「ユウナさんは彼の手当てを頼みます。私はソニアさまを出迎えに行かなければ」
「……分かりました……」
フードの人物の姿が一瞬にして消えたあと、修道女は床に倒れているミョウジンの元まで近付いていき、彼へと手をかざした。ミョウジンの身体が治癒の光に包まれるなか、修道女は静かに言葉を紡いでいく。
「……あなたの『絶対命中』は対象に絶対に命中する能力……疑問に思ったことはありませんか……その『絶対命中』の特性と、絶対命中の派生スキルであるはずの『マーキング』は、効力が重複していることに……」
「…………」
聞こえてはいる。しかし疲労と負傷によって摩耗したいまの意識では、ミョウジンは返事をすることができない。
修道女は続けて口を開ける。
「……私から言えるのは以上です……これより先はあなた次第です……」
疲労はまだ残っているものの怪我が回復したことによって、ようやくミョウジンは言葉を発することができるようになり、途切れ途切れではあるが彼女に問い返した。
「……おまえは……いったい何なんだ……?」
「…………」
影が薄く表情に乏しい修道女は答えなかった。