その五十 ……あの斬り裂き魔の能力の成長には本当に驚かされますね……
屋内スポーツができそうなくらいに広い部屋のなか。
直径数センチほど……まるで道端に転がっている石ころほどの大きさの、表面が渦巻いている球体がその室内にいくつも浮かんでいる。
「これはサトリを仕留め損ねた処分であると同時に、あなたのチート能力を底上げするためでもあります、ミョウジン」
球体が浮かぶ部屋の一方にいるフードの人物が、もう一方にいるミョウジンに言う。ミョウジンは床に手と膝をつき、息はゼエハアと荒く、身体のところどころにある傷から血が滲んでいた。
自身の周りにさらなる球体をいくつも浮かび上がらせながら、フードの人物は続ける。
「先ほども言いましたが、私のこの攻撃はいま威力を抑え、命中した物にダメージを与えたあと消滅するように調整しています。これ以上傷を負いたくなければ、あなたの絶対命中でこれらの攻撃を防いでください」
「……あなたも……知っているでしょう……絶対命中とその派生技のマーキングは……私が触れたものにしか適用されないのを……」
息を荒げながら途切れ途切れに言うミョウジンに、フードの人物は言った。
「だからですよ。現状のあなたの絶対命中は、対象に触れられなければそこまで脅威にはならない。それでは戦力として不充分なのですよ」
「く……」
「それではもう一度行きますよ」
室内に浮かんでいたいくつもの渦巻く球体が、ミョウジンへと襲いかかっていった。
…………。
フードの人物の視界の先で、身体のあちこちから血を流しているミョウジンが倒れている。ヒューヒューという、虫の息のような呼吸音が聞こえてくることから、まだミョウジンは生きているらしい。
「……。いまはこのくらいにしておきましょう」
フードの人物がそうつぶやいたとき、部屋の片隅の陰になっているところから、修道服を着た女性が音もなく姿を現した。気が付いたフードの人物が尋ねる。
「どうでしたかユウナさん、サトリはやってきましたか?」
「……はい」
「では、サトリはいまどこに?」
「それは確かめていません」
彼女の返答に、フードの人物がフードの奥で目をすがめた。
「……どういうことですか?」
「……サトリおよび彼女の仲間のもとに、ジャックが現れたからです」
「…………」
フードの人物がまとう雰囲気が、緊張感のあるものへと変化する。
「……ジャックは手錠と足枷で拘束し、厳重な鍵の掛かった部屋に閉じ込めておいたはずです。ナイフなども隠し持っていないか、念入りに検査したはずですが」
「彼の【絶対斬撃】はあらゆるものを斬り裂く力です。おそらく歯で手錠を噛み斬り、それから手の爪で足枷や部屋を斬って脱出したのでしょう。そしてその後、どこからかナイフを調達したのだと思われます」
「…………。……なるほど……また強くなったということですか……あの斬り裂き魔の能力の成長には本当に驚かされますね……」
フードの人物の言葉に修道女もうなずいた。