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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】
118/325

その三十八 三人と一匹の盗賊団


 場面は変わる。


 草原のとある場所に広がっている林のなか。木立から差し込む昼近くの陽光を受けながら、数人のものたちがその場に座り込んで、人目を忍ぶように話し合っていた。


「しっかし、どうしてこんな面倒なことするんですか、おかしら? 俺たちがこの先の小さな町を襲って、金目のものを巻き上げてる最中に、おかしらがそれを追い払いにくるなんてさあ」


 そう言うのは若い男だった。何日も洗濯をしていないのか、土やほこりなどで汚れた服を着ている。


 その男の言葉を受けて、同じく汚れた上着とズボンに身を包み、襟もとまで髪を伸ばしている、おかしらと呼ばれたものが片膝を立てる。肩に白い小さなネズミをのせていて、汚れてはいるものの端正な顔立ちをしており、片目を髪で隠しているかしらが言い聞かせるように男に話した。


「分かってねえな。いいかもう一度説明するぞ。金目のものを奪っている最中のおまえらを、オレが追い払う。だが追い払うとはいっても、奪ったもの自体は持ち帰れるだけおまえらが持ち帰るんだ。で、オレはというと盗賊を追い払った功績を認められて、町のやつらからお礼をされるって寸法さ」

「だからなんでそんな二度手間みたいなことするんすか? 普通に俺ら全員で襲えば済む話じゃないっすか?」


 文句を言う男に、今度はそばに座っていた若い女が口を開く。


「ほんと、あんたは飲み込みが遅いわねえ。おかしらの作戦なら、私たちが奪った金品と、おかしらが受け取るお礼の品で、二重に儲かるってわけ」


 かしらはうなずいた。


「その通り。襲っているおまえらを追い払うという建前上、ある程度は戦っているフリをする必要はあるが、あくまでフリだけだ。適当な頃合いを見て、おまえらは逃げるんだぞ」


 女も首肯する。


「分かってますって。それにしても、おかしらってばやっぱり頭いいですよねえ。この作戦なら金を稼げるうえに、おかしらも町の人たちから称賛されるんですから。すごいです」

「なっはっは、オレはほめられるのが好きなんだ。もっとほめろ、オレをたたえろ」

「きゃー、おかしらってば素敵ー」

「なっはっは」


 盛り上がっている二人とは対照的に、若い男は腕を組みながら、まだよく飲み込めていないのか首を傾げている。


「とりあえず儲かるってことっすね。それは分かりましたけど、町のやつらが抵抗してきたらどうします? 殺しちゃいますか?」

「バッカ!」


 かしらが若い男の頭をたたいた。


「いった!」

「いいか、誰も殺すんじゃねえぞ! やつらを殺しちまったら、誰が金を貯め込むんだ? これからも、やつらが金を貯め込んだ頃を見計らって、また奪いに行くんだからよ」

「そ、そんなの、別の町や村を襲えば済む話じゃないっすか」


 思いのほか痛かったのか、それとも実は小心者なのか涙目になりながら反論する男に、かしらは叱りつけるように言った。


「いいから誰も殺すんじゃねえ! あと傷付けることもなるべくするなよ。オレは血を見てえわけじゃねえんだからな。オレの言うことが聞けねえってんならぶっ殺す」

「わ、分かりましたよう……っていうか、俺のことはぶっ殺してもいいんですかあ……」

「うるせえ!」

「ひいっ」


 痛む頭を押さえながら男が答える。


 そのとき、かしらの肩にのっていたネズミが、


「チュウ」


 と、かしらへと鳴き声を発した。かしらがその小動物に応じる。


「おう、話は聞いてたな。おまえも誰も殺すんじゃねえぞ」

「チュウ!」


 そんなことは当たり前だというように、そのネズミが頭をうなずかせた。


 その様子を見ていた女が、男に視線を向けながらぼやく。


「まったく……あんたより、こっちのネズミのほうが頭がいいんだからねえ」

「うう……別にそいつは普通のネズミじゃあねえだろお」


 そんなこんなで作戦を決めた彼らが林のなかから草原に出ると、目の前を一台の馬車が通り過ぎていく。客車のガラス窓からちらりと、四人組の若い男女が見えた。とはいっても、そのうちの一人はフードをかぶっていたせいで、顔はよく分からなかったが。


 男がぼやく。


「馬車かあ。いいなあ。歩くのって疲れるんすよね」


 それに対して女が、


「今回の仕事が終わればいつでも乗れるわよ。それより結構いい男乗ってなかった?」

「少年のほうっすか?」

「私、年下は趣味じゃないの。二十歳くらいのほうよ。まあ、おかしらのほうがもっと素敵だけどね」


 とりとめのない会話をする二人に、かしらが言った。


「いいからこの先の町に向かうぞ。いまの馬車もそっち方面だったから、もし町にいたらついでに金を巻き上げていけよ」

「りょーかーい」

「了解っす」

「チュウ!」


 そして三人と一匹の盗賊団は、道の先にある小さな町へと向かっていった。




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