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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】
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その三十六 村での朝食


 村の食堂に着くと、少年たちと同じく朝食を食べに来たのであろうと思われる人々がいた。少年たちが四人掛けのテーブル席に座ると、女性の店員が注文を取りに来て……戸惑ったような表情を浮かべる。


「……?」


 少年が疑問符を浮かべた直後、女性店員は気を取り直したように注文を聞いて、そしてカウンターのほうへと戻っていった。


「どうしたんだろう……?」


 女性店員の背中を見ながら、彼女の対応に少年が首を傾げていると、店内で食事をしていた人々から奇異の視線を向けられていることに気付く。


「え……?」


 少年が声を漏らすのと同時に、青年が、


「なんか用か、おっさんたち? メシならおごらねえぞ」


 そう声をかけると、彼らは視線を逸らして食事を再開した。少年が、


「なんだったんでしょう?」


 そう言うと……少年の隣に座る黒髪の少女が慌てたように外套のフードをかぶる。それを見た少年が、


「あ……」


 と察した声を出した。


 店内の人々が気にしていたのは黒髪の少女で……もしかして彼女はサトリではないかと思って、視線を向けていたのだ。


 申し訳なさそうに黒髪の少女が言う。


「すみません……ついうっかり、フードをかぶるのを忘れてしまっていました……」


 その言葉に、少年たちは彼女を見つめた。彼女は続ける。


「普段ならちゃんとフードをかぶるようにしているのですが……いままでみなさんといて、みなさんが気にせずに接していてくれたから……わたしも気が緩んでしまっていました。これからは気を付けますので……」


 周囲に顔が見えないようにうつむく彼女の手に、少年がそっと自分の手をのせた。


「サキさん……謝らなくていいよ。……俺はサキさんの味方だからね」

「ケイさん……」


 黒髪の少女が少年を見つめると、少年の言葉に続けて青年も明るい声で言う。


「少年だけじゃなくて俺だって黒髪ちゃんの味方だぜ。もちろんアスもな」


 青年が白髪の少女に顔を向けるも、相変わらず彼女は無表情だ。しかし青年の言葉を否定はしていない。


 そんな彼らに首を巡らせて、


「ありがとうございます、みなさん……」


 黒髪の少女はそうお礼を述べた。


 そうこうしているうちに、彼らがいるテーブルに注文した食事が運ばれてくる。ライスにハムエッグ、チーズをのせたブレッドやスープといったこの国の朝食が並んでいった。


 それらを並べた女性店員が去り、


「そんじゃ、いっただきまーす」


 と青年がハムエッグを頬張るのを合図にして、彼らは食事を始める。ハムエッグの次にブレッドをかじり始めた青年が、スープを口に運んでいる少年に、


「そういや、少年はこっちの世界の金は持ってんのか?」


 スプーンを置いた少年は申し訳なさそうに答えた。


「いえ……」

「そうか。まあ、一昨日の夜に来たばっかなんだから、そりゃ持ってなくて当たり前だわな。そういうことじゃ、しゃーねーから、ここは俺が払っといてやんよ。ついでに黒髪ちゃんとアスの分もな」

「「あ、ありがとうございます」」


 少年だけでなく黒髪の少女もお礼を口にしたとき、ブレッドを飲み込んだ青年がちょっと待てというように少年に手のひらを向ける。


「言っとくが、少年の分はおごりじゃなくて貸しだからな。金が入ったときにきちんと返してもらうぜ。あ、黒髪ちゃんとアスのはおごりだから気にしなくていいからな」

「「は、はあ……」」


 少年と黒髪の少女が口をそろえて声を漏らした。皿にあるハムエッグの残りを口のなかに入れる青年を見ながら、少年はふと思う。


(もしここにイブさんがいたら、ハオさんのことなんて言うかな……?)


 女の敵だの、みみっちいやつだの、器の小さい男だの、そんな散々なことを言うのだろうか……そう想像していたら、青年の隣に座っていた白髪の少女が、


「……器が小さくてドケチで女好きな超ド級のアホ……」


 ぼそっと、そうつぶやいた。


 もしかして白髪の少女は金髪の少女の影響を受けてしまったのだろうか……そんなことがふと脳裏をよぎったのか、少年と黒髪の少女は目を見合わせる。また青年も白髪の少女にショックを受けたような視線を向けて、


「アス……おごってやるって言ってんのに、そんな言いかたすんなよな。いくら俺でも傷付くぜ……ったく、誰の影響だか……」

「…………」


 白髪の少女はそれを完全に無視してスープを飲み続けている。


 慌てて話題を変えようとして、少年は黒髪の少女に尋ねた。


「みんなにずっと迷惑かけるわけにもいかないし、お金を稼ぐっていったら、やっぱり仕事するしかないよね。俺でもできる仕事ってあるかな?」

「わたしが知っている限りではいくつかありますが……せっかくパーティーを組んでいるのですから、みんなでギルドに登録して、クエストを紹介してもらうのがいいと思います。ギルドでは個人や団体などからいろいろな条件のクエストが紹介されていて、クエストを達成することで達成報酬を受け取ることができます」

「へえー。俺の世界でいうところのなんでも屋さんとか派遣とかに近いのかな?」


 少年がそうつぶやいたとき、朝食をあらかた食べ終わってガラスのコップに入った水を飲んでいた青年が彼に言った。


「まあ、詳しいことは実際にギルドでクエストを受けるときに説明するさ。何を隠そう、俺とアスの専らの収入源も、そのギルドのクエスト達成報酬なんだからな。つーか、早くメシ食えよ、そんなちんたら食ってたら王都に着くのがもっと遅くなっちまうぜ。ただでさえ時間が掛かるってのに」

「「は、はい」」


 青年に急かされて、少年と黒髪の少女は慌てて食事を再開した。




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