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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】
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その三十五 早朝の車窓の景色


 少年たちが早朝のノドルの街を出てすぐ、少年と黒髪の少女の向かいに座っていた青年があくびをしながら言う。


「ふああ……朝早いせいで俺はまだ眠いんだ、悪いけどしばらく寝かせてもらうぜ。おまえらも眠かったら我慢しないで寝たほうがいいぞ。じゃあ、おやすみー」


 そのまま青年は瞳を閉じて座席に深く身を沈めると、横の壁に頭をもたれさせて静かな寝息を立て始めた。


「寝ちゃった……」

「そうですね……」


 小刻みに揺れる馬車のなかで眠る青年を見て、少年と黒髪の少女がつぶやく。黒髪の少女は隣に座る少年に視線を向けると、


「ケイさんも眠かったら、遠慮せずに寝ていいですよ」

「うーん……いや、俺は外の景色を見てるよ。馬車に乗るのって初めてだし、この世界に来てまだ二日しか経ってないから、もっとこの世界のことを見てみたいんだ」

「そうですか、なら、もし聞きたいことがあったら聞いてくださいね。説明しますから」

「うん、ありがとう」


 そこで黒髪の少女は青年の隣に座る白髪の少女のことが気にかかったようで、おずおずといった調子で話しかける。


「え、えっと、アスさんはどうしますか……? やっぱり眠いですか……?」

「…………」


 白髪の少女は黒髪の少女のことを見つめる。ちょっとの間、それが続いて、


「あ、あの、アスさん、答えたくなかったら、べつに……」


 彼女の無言の視線に耐えられなくなって、黒髪の少女が弁明するように言おうとしたとき、おもむろに白髪の少女が口を開いた。相変わらずの興味のなさそうな表情と声音で、


「……わたしのことなら、気にしなくていいから……」


 そう言って、彼女は車窓の外に顔を向けると、ガタゴトと流れていく景色を眺め始める。


 黒髪の少女と少年は顔を見合わせると、もう一度白髪の少女のほうを見て……それから彼女と同じように、流れゆく早朝の景色に視線を注ぎ始めた。


 車窓の外の草むらには巣穴から出てきた野ウサギが動き回っていて、朝日で明るくなってきている空には白い雲がたなびき、ときおり鳥のさえずりが聞こえてくることもある。


 のどかに時間が流れているその道で他の馬車とすれ違ったときは、


「馬車だね。俺たちがいた街に向かってるのかな」

「わたしたちと同じで旅をしているのかもしれませんね。もしくはノドルの街にいる知り合いに会いに行ってるのかもしれません」


 また旅人らしい格好の数人の男女が歩いているのを見かけたときは、


「あの人たちも旅をしてるのかな?」

「歩きということは、近くにある森や洞窟に行く途中か、その帰りかもしれません」

「森や洞窟に?」

「はい。ギルドで受けられるクエストのなかには、森の木の実や洞窟の鉱石の採取を依頼されたりしますから。他にも人々を襲っている盗賊や魔獣の討伐を頼まれることもあります」

「討伐って……やっぱり殺すの……?」


 不穏な言葉に、少年の表情が曇る。黒髪の少女は気まずそうに視線を逸らすと、


「……放っておいたら、人々に危害がおよんでしまいますので……」

「……そっか……」


 陰の差した顔をうつむける彼に、彼女は慌てて補足するように、


「で、でも、絶対に殺すというわけじゃありませんから……盗賊の場合は村や街の警察に引き渡したり、魔獣の場合も、人語を解する魔獣は結構いますので、人はもう襲わないように説得したり、人のいない場所まで移動してもらうという解決法もあります……!」

「…………」

「殺すというのは、本当の本当にどうしようもないときの選択肢で……そのはずです……」


 自信をなくしていくように最後のほうは小さな声になってしまう。そんな彼女に、少年は顔を向けると、


「……ありがとう、サキさん。気を遣ってくれて……」

「……ケイさん……」


 そして黒髪の少女に少年は笑いかけると、再び車窓の外に視線を注ぎ始めた。


 そうやって、しばらくの間、馬車の外の景色を眺めたり会話をしていると、車窓の向こうに小さな村があるのが見えてきて、その村のそばで馬車が停まり、客室のドアが開けられる。そこに立っていた御者が少年たちに、


「旦那がた、最初の休憩です。この村に小さな食堂があるので、朝食がまだだったら食べてきてください。私も馬たちを休ませておきますので。三十分くらいしたら戻ってきてくださいね」

「あ、はい、分かりました」


 少年がそう答えると、御者は馬のほうに戻っていって世話をし始めた。少年が眠っていた青年の肩を揺する。


「ハオさん、起きてください」

「ん-、むにゃむにゃ、もう着いたのか?」

「休憩時間です。朝ごはん食べに行きましょう」

「おー、メシかー。……ふああ……」


 大きなあくびをしながら青年が目をごしごしと擦る。そして彼らは馬車から降りると、村にある食堂へと向かっていった。




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