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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】
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その三十二 友人のことを大切に想うのは


 青年が立方体をしまい、金髪の少女が通路に出ていた修道女を部屋に呼び戻す。部屋のなかに入ってきた修道女は彼らを見渡したあと、


「先ほど、そちらのかたの痛がる声が聞こえてきましたが……」


 青年に視線を向けながら尋ねる。特に気にする様子もなく、金髪の少女が答えた。


「べつになんでもないですよ。ただあの変態がアスちゃんに足を踏まれただけです」

「そうですか……」


 納得した様子で修道女がうなずく。彼女の心のなかでも特に何でもない出来事だと思っているのか、心配しているような節は見られない。そのことに青年は少なからずショックを受けたようで、


「ユウナさん……そこは納得するだけじゃなくて少しは心配してほしかったです……」

「……それはそうと……」

「それはそうとって……」


 ガーンという擬音が聞こえてきそうなほど青年は落ち込むが、それには構わず、修道女は言葉を続ける。


「王都には明日向かうことに決まったのでしょう? ならば今日はもう夕食まで休まれるのですか? 夕食が出来上がるのはもうしばらく先になりますが……」


 少年たちは顔を見合わせる。最初に口を開いたのは修道長だった。


「サキさんは今日一日は安静にしていたほうが良いでしょうし、イブとユウナさんには彼女の看病をお願いします」

「分かりました」


 金髪の少女が答え、修道女も静かにうなずく。修道長は少年に顔を向けて、


「ケイさんはどうしますか? 部屋に戻りますか?」


 そう問われて、少しの間考える素振りをしたあと、少年は答えた。


「いえ……俺はもう一度ギルドに行きます」

「ギルドに……? もう返還魔法の使い手については聞いたはずでは……?」


 首を傾げる修道長に少年は言う。


「さっき紅蓮のショウが襲ってきたときに、ギルドの入り口とかがあいつに燃やされちゃったんですけど……たぶん、いまその修理とかしてて大変だと思うんです。だから……俺もできる限り手伝いたいなって……せめて夕食の時間までは……」

「そうですか……あとで修道会の者も何人か手伝いに向かわせましょうか?」

「あ、ありがとうございます……!」


 少年は頭を下げてから、


「それじゃ、俺、行ってきます。夕食時には戻りますから……!」


 そう言って、部屋の外へと出ていった。


 一同が彼の姿を見送っていると、青年が頭をかきながら、


「やれやれ、殊勝だねえ、少年は……。ったく、ギルドをメチャクチャにしたうちの半分くらいは俺のせいでもあるんだから、あんなこと言われちまったら、俺も手伝わねえと後味が悪りいじゃねーか」


 そう言いながら、部屋のドアへと歩いていく。部屋にいる者たちに背中を向けながら手を振って、


「つーわけで、俺もギルドに行ってくるわ」


 部屋の外へと出ていく。白髪の少女もまた無言のまま、青年とともに出ていった。


 吐息を一つついて、金髪の少女がつぶやくように言う。


「ケイとアスちゃんは真面目ね。変態のほうは仕方ないなって感じだったけど」


 それに応じるように、修道長が口を開いた。


「責任感が強いのだろう」


 そして黒髪の少女もまた、


「……それがみなさんのいいところだと、わたしは思います……」


 彼らが消えたドアのほうを見つめながら、そう言った。


 穏やかな雰囲気のなか、少しの間ドアのほうを見つめていた彼らだったが……ふと金髪の少女が修道長に声をかける。


「修道長、ちょっと、いいですか」

「なんだ?」


 金髪の少女は修道女にちらりと視線を向けてから、


「話があるのですが、ここではなんなので、通路のほうで……」

「……? ああ、構わないが……?」


 部屋の外に出てから、金髪の少女は修道長に言う。


「さきほどサキからお願いされたのですが、明日の発表のとき、ケイの名前や能力については公表しないでもらえませんか」

「……ふむ……」


 口元に手をあてて、修道長は考える素振りをする。金髪の少女は後押しするように、


「彼らの旅の安全を考えて、あたしからもお願いします」

「……ふふ……」

「修道長……?」


 珍しく微笑を漏らす修道長に、金髪の少女は怪訝そうな視線を向ける。それに気付いて、修道長は微笑ましそうに、


「いや、すまない。ケイさんからもお願いされたのでな。サキさんの安全のために、彼女のことは他言しないようにと」

「それって……」

「ふふ……彼らは互いに信頼し合っていると同時に、その身を気遣ってもいる。それが微笑ましくて、つい、な……そしてどうやら、イブ、おまえもその一人のようだな」

「…………。二人はあたしの友人です。友人のことを大切に想うのは、当たり前でしょう」

「ああ、そうだな」


 毅然としたように言う金髪の少女に、修道長は微笑を返した。




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