その三十 パーティー結成
少年の言葉に黒髪の少女は困惑したように口を開く。
「あ、あの、そう言ってもらえるのはとてもうれしいのですが……わたしのことでケイさんに負担をかけるわけには……ケイさんには元の世界に戻ってほしいですし……」
「俺のことは後回しでいいんだ」
これだけは絶対に引き下がるつもりはないというように、少年は続ける。
「俺はべつにこっちの世界でも生きていけるけど、サキさんの呪いは解かないと死んじゃうんだから。サキさんの命のほうが大事に決まってる」
「……!」
黒髪の少女は目を開いて、そのあとうつむきながら、
「あ、ありがとうございます……」
ぼそりとつぶやく。
少年は、
「気にしないで。これは俺がやりたいことなんだから」
そう応じたあと、青年へと振り返って、
「ハオさん。ハオさんたちはたしか、『能力を創る能力』を持っている人を探しているんでしたよね」
「ああ、そうだが……まさか、少年……」
「確証はありませんけど、もしかしたら、その『能力を創る能力』ならサキさんの呪いを解ける能力を創れるんじゃないかと思うんです」
「ちょっと待て。それは俺とアスにやつを倒すなってことか? やつに協力してもらうように頼めって……」
「違います」
少年は首を横に振る。
「ハオさんは相手のチート能力をコピーできるんですよね。だから、ハオさんにはその『能力を創る能力』をコピーして、サキさんの呪いを解く能力を創ってほしいんです」
「ああ……そういうことか」
ほっとしたように青年はそばにいる白髪の少女に視線を向ける。しかしそんな彼らに少年は、
「ただ確認しておきたいことがあるんですけど……その相手を倒すっていうのは……殺すっていうことですか……?」
「「…………」」
不安そうに尋ねる少年の問いに、青年と白髪の少女は無言で返し、また白髪の少女の瞳は心持ち鋭くなったようにも見えた。それでも白髪の少女は何も言おうとはしない。少しの間その沈黙が続いて、代表するように青年が答える。
「それは……はっきりしたことはそのときにならないと分からねえが、いまはまだ殺すって決めたわけじゃねえ……」
少年はほっとしたようだった。
「そうですか、良かった……なら、できる限り、命までは奪わないようにしてくれませんか……俺が言えた義理じゃ、ありませんけど」
「…………」
青年はそれ以上答えない。そんな青年のことを白髪の少女は無言で見つめ、彼もまた彼女にかすかなうなずきを返しただけだった。
彼ら二人の無言のやり取りに気付いた様子もなく、少年は彼らに言う。
「そこでお願いがあるんですけど、俺をハオさんたちの旅に同行させてくれませんか?」
「少年を?」
「ハオさんたちの手伝いをすることがサキさんの呪いを解くことにつながりますし、もしかしたら旅をしている途中で呪いを解く他の方法も思い浮かぶかもしれませんから……お願いします……!」
少年がそう言ったとき、話を聞いていた黒髪の少女もまた口を開いた。
「あ、あの、それならわたしも同行させてください……!」
「え?」と、少年が彼女に振り返る。
黒髪の少女は少年に視線を返しながら、
「わたしのサトリの力があれば、みなさんのお役に立てると思います。それに呪いを解くために旅をするというのなら、その方法が見つかったときにすぐに実行できるように、わたしも一緒にいたほうがいいと思うんです」
「サキさん、でも、なにが起こるか分からないし……」
心配する少年に、
「ケイさんがわたしのために頑張ってくれているのに、わたしは大人しく待っていることなんてできません。それに……逆に聞きますが、返還魔法の使い手は見つかりましたか?」
「え、いや、いなかったけど……」
「なら、この旅はケイさんを元の世界に帰すための、返還魔法の使い手を探す旅でもあるんです。わたしは絶対にケイさんを元の世界に帰したいんですから……! 反対されても、わたしはついていきますからね……!」
強い意志を持って言う黒髪の少女のことを見つめたあと、
「サキさん……分かったよ」
少年はうなずいた。心配はもちろんある……だが、彼女の意志を汲み取って、少年はそれ以上反対しようとはしなかった。
彼ら二人の主張を聞き終わった青年が、
「よっしゃ! 決まりだな!」
と握った拳をもう片方の手のひらに打ち付けながら、
「二人とも、俺たちと一緒に旅をしようぜ! あ、でもパーティーのリーダーは俺だからな、そこんとこよろしく」
少年と黒髪の少女は互いに顔を見合わせてから、
「「ありがとうございます!」」
声を合わせて、そうお礼を述べた。