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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】
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その二十二 ……行き過ぎた『傲慢』は身を滅ぼすだけ……


 突如発生した高温の蒸気がギルド内に充満し、少年はとっさに頭部を守るように両腕を身構えさせる。それ自体は無意識の動作だったが、少年の周囲を取り囲んだ高温の蒸気が、彼に触れた途端に消滅する。


 消えたのはあくまで少年の周囲の蒸気であり、それによって彼の周囲だけ、まるでドーナツリングのような安全地帯が出来上がっていた。


 そして少年の周囲の蒸気が消えたということは、彼のみならず、彼の近くにいた金髪の少女たちもまた、高温の蒸気による火傷を免れたということ。


(俺の能力で蒸気がなくなって……そうか……! だから、ハオさんは俺に動くなって……)


 このときになって少年は青年の思惑に気が付いた。


 この高温の蒸気は青年が生み出した水の塊が、赤髪の男の炎に触れたことで発生したもので……つまりは、元々は青年のチート能力の産物に他ならず、少年の能力によって消せるということ。


「グフォア……ッ!」


 少年たちの横を、ものすごいスピードで何かが通り過ぎていった。いや、それは通り過ぎたというよりは、蒸気の衝撃波によって吹き飛ばされたといったほうが正しいかもしれない。


 その何者かの影は、ギルドの焼けた入り口から外に飛び出ると、砂ぼこりを上げながら地面を転がった。ピクリとも動かないその姿は、赤髪の男だった。


 ギルド内に満ちていた高温の蒸気が消え、少年たちの視界に青年の姿が再び見えてくる。青年は立ち上がっていて、腹部の傷口を押さえながら少年たちへと歩いてくる。


「おーいてー、少年少年、ちっとこの傷の炎を消してくれねーか。応急処置はしたんだが、俺の能力じゃ消せなくてよ」

「あ、はい」


 少年が青年に慌てて近寄って、その傷口に触れる。その瞬間、氷の膜から透けて見えていた傷口の炎が、跡形もなく消え去った。氷の膜と超回復の光も同時に消失する。少年が触れたのだから当然といえば当然なのだが……。


「…………」


 それらの様子を、青年は押し黙った顔で見つめていた。


 不思議に思った少年が声をかける。


「……? どうかしたんですか、ハオさん……?」

「あ、いや……」


 気を取り直した青年が、奥歯にものが挟まったように、


「ちょっとな……」

「……?」


 青年が言葉を濁したとき、ギルドの主人を治療中だった金髪の少女が声をかけてくる。


「こっちに来なさい。もうすぐこの男の治療が終わるから、そしたらその怪我を治すから」

「はいはい、分かってますよ。俺のあのチート能力は他人に見えるように使うなってこったろ」

「分かってるなら早くする」


 少年と青年が金髪の少女へと向かっていく。その途中、


「あ」


 と気が付いたように、少年が言った。


「外に飛ばされたあいつがまた攻撃してくるかも……!」

「おお、そういやそうだったな、気絶しててくれてるとありがたいんだが」


 青年たちがギルドの外側を見ると、依然倒れたままの赤髪の男の姿があった。いつの間に移動していたのか、その近くには白髪の少女がいて、男の様子を見るともなく見ていた。さらにその彼らの周囲を、騒ぎを聞きつけた多くの野次馬たちが取り巻いている。


「おーい、アス、どうだ?」

「…………」


 青年が呼び掛けると、白髪の少女は一度彼のほうを見て、また赤髪の男に視線を戻す。


「どうやら大丈夫みてーだな。しっかし、あの一発で気絶したのはラッキーだったぜ。それとも実は打たれ弱えのかな」


 青年のその言葉に少年はふと思い出す。昨夜、赤髪の男に襲われたときも、男は少年のパンチ一発で気絶していた。当たりどころが悪かったといえばそうなるのだろうが、赤髪の男にとってはつくづく運が悪いといえる。


 倒れたままピクリとも動かない赤髪の男を見下ろしながら、白髪の少女はつぶやいていた。


「……あなたの敗因は、ハオたちを見くびったこと……行き過ぎた『傲慢』は身を滅ぼすだけ……」


 そして白髪の少女は口を閉ざして、赤髪の男を見るともなく見続ける。観察するように、あるいは監視するように……。


 そばに来た青年の傷を治しながら、金髪の少女が言う。


「さっきの蒸気って、もしかして水蒸気爆発?」

「お、よく知ってるな。やつの『炎』に俺の『水』をぶつけて、その超高熱で水蒸気爆発を起こして一発逆転、ってわけさ」

「だから、それに巻き込まれないように他の人たちがいるときは使わないでいて、あたしたちを守れるようにケイをここに残らせて消させたのね」

「そういうこと。さすがの俺でも、急発生する大量の蒸気の精密なコントロールはできそうになかったからな。ギルドをぶっ壊さないようにするのが精一杯だったぜ」

「…………」


 ひょうひょうとした調子で言う青年のことを、金髪の少女はにらみつけるように見ている。


 そんな様子の彼女に、少年が聞いた。


「どうしたの?」

「べつに。実際に守ってくれたのはケイだけど、そう仕向けたのがこいつってことに、なんとなくムカついただけ」


 青年は頭の後ろに手をあてながら、


「いやー、それほどでもー」

「てゆーか、べつに炎にぶつけて水蒸気爆発を起こす必要なんてないじゃない。普通に霧で相手の視界を遮って、普通に攻撃して気絶させれば済む話でしょ。他の方法だって、あんたくらいの強さならいくらでもあるんじゃないの?」


 その指摘に少年もいま気が付いたというように、


「そういえば、そうだよね……」


 と、つぶやく。


 詰問するような鋭い目の金髪の少女が青年をにらみ、少年もまた、どういうことなのかという疑問の瞳を向ける。そんな二人の視線に、青年はひょうひょうとした態度を崩さずに、ちっちっちっ、と人差し指を左右に振った。


「分かってねーなー、お二人さん。いまにも負けそうな超絶ピンチなときに、その場の状況や相手の能力を逆に利用して、起死回生の一発逆転で勝利する……そういうのがメチャクチャ燃えるんじゃねーか……!」

「「はあ……?」」


 少年と金髪の少女がいまいちよく分からないというような顔で、青年のことを見る。


 金髪の少女が言った。


「あほらし。そのせいで他の人や自分を危険な目に遭わせてたら意味ないじゃない」

「いやー、この怪我は予想外だったもんで、それに関しては面目ない。まあ、実際問題、あいつ結構強くてさ、苦戦してたのはホントさ。いま言われたみてーに霧で視界を塞いだりしたら、『絶対焼滅』の炎を辺り一面に撒き散らすかもしんねーし、そしたらいくら俺と少年がいても守り切れねーし」

「…………」

「つーわけで、相手の不意を突いた強力な一撃ってことで思いついたのが、あれだったわけ、ってことさ」

「……。ふん……っ、終わったわよ」


 青年の思い通りに事が運んだのが気に入らないのか、金髪の少女は彼のわき腹をバシンッとたたく。


「あいたっ……やれやれ、乱暴なヒーラーだこと」


 青年はギルドの外にいる白髪の少女へと歩き始め、焼けた入り口のところで手を上げながら、


「おつかれさん、アス。よしよしまだ気絶してんな、そんじゃあ早いとこ……」


 呼び掛けてきた青年の声に、白髪の少女が彼のほうに視線を向けた……そのとき。それまでピクリとも動かなかったはずの赤髪の男が突如として立ち上がった。


 一瞬早く気が付いた青年が、


「アス……っ!」


 白髪の少女へと声を飛ばすも……それよりも早く、赤髪の男が激情をみなぎらせた顔で、


「このクソガキを殺されたくなかったら動くんじゃねえ!!」


 白髪の少女に手をかざしながら怒声を上げた。




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