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第九話 勝者と敗者

 正午。ついに予選が始まった。

 コロシアムの中央には四十弱の画面が一気に表示される。

 本来であれば見ることのない他世界の英雄同士の戦い。しかし観客はコロシアムにいる遠矢ただ一人。


 画面には英雄たちの白熱した試合が繰り広げ、られない。


「……まあ、定石で行くならそうなるか」


 画面に映るのは英雄の姿ではなく小規模な砦ばかり。それもそのはず、自エリアという有利なエリアがあるのに、何故に不利な相手エリアに足を突っ込まねばならないのか。

 攻めると言うことは砦を攻める攻城戦。相手は砦の防衛設備を十分に使い、対してこちらは単身で挑まなければならない。

 それは鎧を付けた相手に裸で挑むようなもの。


 故に最初に行われるのは相手の鎧を破壊すること。

 要は攻城兵器の撃ち合い。バリスタが、投石が、魔法による攻撃が、飛び交う戦場。


 しかし遠矢が見たかったのはこんな定石通りの戦闘ではない。相手の裏をかき、低コストで弱者が強者を一撃で仕留められるような叡智に溢れた戦闘が見たかった。

 しかし現実は砦から攻城兵器を放って相手の砦を壊す堅実な策。


 堅実な策では遠矢は勝てない。今は初日なためポイントに差がなく、使えるポイントもほぼ同じ。しかし時間が経つにつれ、ダンジョンに潜って手に入れたポイントの差が出てくる。

 初日よりも二日目か、二日目よりも三日目が派手になることは確実。

 最終日では遠矢とリザの間にどれだけのポイント差があるだろうか。


 だからこそ、遠矢は常識外れの戦闘を期待してコロシアムにやってきていた。

 そんな願いを叶えるかのように、誰もが堅実な戦いをしている中、遠矢は常識外れな対戦をしている画面を見つけた。


 相手はオーソドックスな石造りの砦を築いている。それに対して常識外れ側は空堀と石垣だけという中々に斬新な防衛設備を築いていた。

 どう見ても作りかけ。城を作ろうとしてポイントが尽きたようにしか見えない。


 ただそれはあまり問題ではない。驚くのは石垣を壊されるのを嫌ったのか、三メートル近い身長で内から青い炎を漏らす武者が一人で相手の砦に突撃していた。

 ペアはどこかと探せば、石垣の上でちょこんと座っている。


 武者は攻城兵器をその鎧で弾き、自らの身長よりも長い大太刀で砦を斬った。


 後はそのまま水が上から下に流れるように。一度傾いた形勢はどうしようもなく、相手の一人を斬り、逃げようとした相手のペアも斬って終わった。


 まさしく常識外れ。当たり前のように有利を捨てて、不利の中で当然のように勝つ。英雄に、化け物にしか出来ない常識外れな戦い方。

 何の参考にもならない。遠矢が望んだ、真反対の常識外れ。


 戦いが終わった画面は即座に消え。僅かに他の画面が大きくなる。

 そして。


「どうだ。拙者の言った通り、どうにかなっただろう!」


「……はあ。もう少し考えませんか? あんな滅茶苦茶な」


 コロシアムの中央。底の見えない穴から先程の勝利した三メートルの武者と、その武者の半分ほどの身長で、顔が見えないほど長い髪の和服の女性が現れた。しかし負けた二人は出てくる様子はない。

 状況を理解した遠矢は勝った二人に向けて拍手をしておく。


 輝天祭の勝者は、コロシアムの中央から出てきて観客から賞賛を浴びる。しかしここには遠矢一人しか観客がいなかったため遠矢一人の賞賛のみ。


 武者と和服の女性はここが自エリアではないと気付き、状況を理解してそうな遠矢へと近づく。


「すみません、ここはどこでしょう?」


「共有エリアのコロシアム。昨日来たんじゃないのか? ……雰囲気が違うか。明るいし、人もいない。勝者はここから出てくる仕組みなんだろうな」


 和服の女性の問いに答える。遠矢はすでに一日目の予選を見る気はなくなっていた。誰もが定石通りで、常識外れの戦いをしたのは目の前の化け物だけ。どちらも参考にならない。


「なるほど。しかし拙者の勇姿を見たのがそなた一人だけか。他の者は何をしているのやら」


「そりゃダンジョンだろう? みんなポイントが欲しいからな」


「確かに、当然か。ならばそなたは何故ここに? ダンジョンに潜らないのか? ……もしや拙者らよりも早く対戦を終えて……!」


「違う。俺は七日目、最終日だ」


 ならばダンジョンに潜らねば、と武者が遠矢に言う前にコロシアムに新たな人がやってきた。

 全身をローブで包んだ怪しい風貌。しかし遠矢はその風貌に見覚えがあった。


「……誰だ?」


「あんたが斬った相手だよ」


 武者のボケに遠矢は突っ込み、後ろでは和服の女性が呆れたように頭を振っていた。

 そんなことをしている間に怪しい風貌の者はこちらに小走りでやってきて、そのローブを脱ぐ。


「先程はどうも。アラミタマさんはお強いですね。何も出来ませんでした」


「ねー」


 ローブの中から現れたのは骸骨。そしてその頭蓋骨を住処のように目玉の所から淡く光る小人、いや妖精がいた。


「いやいや、そなたも……。あー、うん。うん!」


 どうやら骸骨の方はきちんと相手を調べていたのに対し、武者のアラミタマは知らない様子で力強い返事で誤魔化した。

 それをフォローするように、和服の女性が前に出て挨拶をする。


 戦いが終わった英雄同士の交流。その真ん中で様子を見ていた一般人の遠矢はその四人に抱いていた疑問をぶつける。


「で、あんたらは誰なんだ?」


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