第十話 骸骨の吟遊詩人と歌好きの妖精 ディック&チャッピー
とある世界には、世界を支える大樹、世界樹と言う山よりも巨大な大樹がある。
世界を支えるのであれば世界樹とは世界そのもの。誰かが手に入れられるものでも、傷つけて良いものでもない。
しかしそんな世界樹に悪い虫が取りついた。世界樹の葉を、枝を、幹を食べて成長する悪い虫。
各国は総出で悪い虫の討伐に当たるが、世界樹の力を取り込み成長した虫を倒せず、世界樹から悪い虫を離すことは出来なかった。
そんな時に、流れの吟遊詩人が世界樹に登った。
吟遊詩人は悪い虫を相手にせず、世界樹そのものに歌で強化をかけて支援した。
それにより悪い虫は世界樹を食べることが出来なくなってしまった。
そして吟遊詩人の歌に釣られ、一匹の妖精が世界樹を登り、吟遊詩人の歌を邪魔する悪い虫に弱体化の魔法をかけた。
世界樹は強化され、悪い虫は弱体化した。それにより世界樹は自らの力で悪い虫を叩き落し、落ちた悪い虫は各国の精鋭によりタコ殴りにされ討伐された。
「そうして私は英雄に名を連ねることになりまして。世界樹にも気に入られまして、世界樹に住んで世界樹に歌を聞かせる毎日を送り、気が付いたら死んでいまして。世界樹の力で蘇生されましたがその頃にはすっかり肉もなくなりこの姿に。……種族的には私は、スケルトンになるんですかね?」
「私はディックの歌が好きだからねー。死んだときはもう聞けないのかと落ち込んだけど、こうして骨で復活したから良しみたいな? 妖精に寿命はないし、ディックもこの姿なら寿命がない、っていうか本当にないしー。ハッピーみたいな?」
そうして自分の世界といかにして英雄となったのかを語ってくれたのは、負けた方の骸骨のディックと妖精のチャッピー。
英雄物語、にしては地味な内容だったのかもしれないが世界を救った英雄なのは事実。
自己紹介と共に自身の英雄伝を話す必要があるのかと遠矢が恐れていれば、アラミタマのペアである和服の女性もやや困った様子。
「……ディックとチャッピーの健闘を称える。ああ、私は人間の天城遠矢だ。ディックたちは話を聞く限り戦闘は苦手なのだろう? 観客として見ていたが頑張っていたと思う。相手が悪かったのだ。こんな戦闘が得意と言わんばかりの姿をしている相手では。……ええっと、アラミタマさんでしたっけ?」
何に困っているのかそれまでは分からないものの、それを察知した遠矢は会話の中に自己紹介を入れて早々にアラミタマにボールを渡す。
「うむ。拙者はアラミタマ。種族は幽鬼。説明が難しいが怪物のお化けとでも思えば良い。そしてペアのクロミ。種族はフタクチ。種族についての詳細はクロミ本人に尋ねてくれ。拙者はディック殿たちと違い、大したことはしておらん。ただ暴れるのが好きで、誰からも怒られない裏の世界で暴れていたら、大まかな組織を全て潰していただけだ」
「何で彼が英雄として輝天祭に出られるのか不思議でたまりません。裏の秩序を破壊しただけですよ。まあ私はアラミタマに潰された組織のトップですから、単なる恨み言ですが。……やはり英雄とは程遠いと思うのですが」
アラミタマと和服の女性、クロミの話を聞いて遠矢はクロミが困っていた理由を理解した。
確かにディックの英雄伝を聞いた後では、ただの暴れん坊とその被害に遭っただけなどと話しにくかっただろう。
ただそれでもマシ。遠矢は身体を壊して引き籠っていた一般人。語るべきことすらないのだ。
「ディックさん、殺された時は痛かったんですか?」
「いえいえ、一瞬でしたから。気が付いたら貴方は負けましたと画面が表示されて、自エリアに倒れていただけですよ。この方法での対戦が続くと、私のように戦闘能力以外で英雄になった者には辛いでしょうね」
一瞬で負ければ痛くないのか、と遠矢は負け犬の思考で負けた時のことを考えていればディックの言葉に僅かに引っ掛かりを覚えた。
明確にどことは言えない、ほんの少しの違和感。
それからもアラミタマたちと話を続けるも、その間も遠矢の胸には違和感が残り続け、コロシアムに人が増え始めた頃に遠矢は静かに自エリアに戻った。




