第二十六話 悪魔以上の悪魔
目を覚ますと同時にりりあは寝過ぎたことを理解し、絶望しかけたがすぐに輝天祭に参加していることを思い出した。
悪魔王、父が雇った教師を相手に時間に追われる日々ではないことを思い出す。
輝天祭に参加して半月以上が経過しているし、今までの生活に比べれば常に寝過ごしている状況。なのにどうして今になって過去に引きずられたのか。
「トーヤ、いますか?」
何となく寂しくなりりりあは遠矢を呼ぶも応える声はない。
ただそんなことはりりあも分かっていた。遠矢は何だかんだと忙しく動いていることが多い。対戦が決まった時は特に。
それに今回の遠矢は非常に気合が入っていた。何をするつもりなのかはりりあには分からないが、今までの実績を見れば淫魔程度は軽く倒せるはず。
……普通の淫魔であれば。
突然変異の異常種というのは全てを根底から覆す存在ばかり。りりあの知る限り、歴史に深く名を残しているのは突然変異の異常種ばかり。
それが二人もいるのだ。本当に遠矢だけに任せて大丈夫なのかと心配になり、りりあはコロシアムに向かう。遠矢は用事がない限りそこにいることが多い。
それに遠矢がいなくても女子会の参加者はいるので井戸端会議でもしていれば良い。今はこの不安をどうにかしたかった。
商業エリアに行けば、珍しいことにほとんど人通りがなかった。
いつもであれば人で賑わう活気のある場所。ただ第三回戦はルールが決闘なので道具を必要としている人が少ないのだろうとりりあは考えてコロシアムに急ごうとしたが。
「おや? りりあさん、こんにちは。昨日ぶりですね」
絶対に会いたくない淫魔のリッテに出会った。りりあにとって淫魔は自己中のナルシスト。最悪の生き物なのだが、このリッテはその反対にいるため調子が狂う。
ただ妙に馴れ馴れしかったり、すぐに兜を脱いで素顔を見せたりと淫魔らしいところはあるので嫌悪感が消えることはなかった。
「げっ、リッテ。何でここに? ダンジョンに潜ってポイントを集めた方が良いんじゃないの?」
「警戒されていますね。まあ、仕方ありませんか。私たちは現在二勝で負けなしですから、ポイントには幾分か余裕があります。まあ、そちらが始められた商売を見ると、ポイントを集めた方が良いのかもとは思いますが」
始めた商売、と言われてりりあは首を傾げる。
その反応にリッテはおやっと首を傾げる。
「ご存じないのですか? そちらの遠矢さんが旗頭となっているイケメン同盟、でしたっけ? そこが第一回戦と第二回戦の戦闘記録を法外な値段で売っているんですよ。チラッと見ましたが、凄いですよ。今までの全試合の記録がありましたから。相手のことを知っておきたいと考える人は絶対に買いたいでしょうね」
へえー、とりりあはリッテの話を聞き流す。遠矢の同盟が何やら動いていたのは知っていたが、戦闘記録の販売だとは知らなかった。
だが基本的にりりあは興味がなかった。遠矢が稼いでくれるならお小遣いが貰えるかもしれない程度。遠矢が何をしていようが、あまり気にならなかった。
「目の付け所はさすがですね。誰も扱っていない商売で、他の者が真似をしようとしても昔の情報が手に入るわけではない。それに同盟と言う複数人の協力体制が素晴らしい。誰かが予選に参加していても穴埋めする人がいる。それだけに、残念ですね」
「残念?」
「ええ。非常に残念です。何故ならその商売が悪徳だからです。相手の足元を見て値段を上げる。更に買う相手も見て更に上げる。そして身内にはこっそりと回す。普通の商店だと思って考えてみてください。悪徳としか言えないでしょう」
普通の店が、客の足元をみて、客を見て商品の値段を上げていたら確かに良いとは言えない。最悪とも言える。
ただ、りりあはリッテの言葉に首を傾げる。
それの何が悪いのか?
「それの何が悪い? リッテ」
いつの間にかリッテの後ろにとてつもなく機嫌の悪そうな遠矢がいた。
「おっと、遠矢さん。今の言葉のままですよ。客を見て値段を変えるなど普通の店――」
「知っているか? 普通の店は金で商品を買うんだ。ただここに金はなく、代わりにポイントがある。そのポイントはダンジョンで理論上は無限に手に入るんだ。つまりお前たちは無限の金を持っているに等しい。無限にポイントを持っている奴から万単位の商品を売って何が悪い」
いや、その理屈はおかしい。りりあはすぐに気付くもわざわざ指摘はしない。
それに現実では遠矢とりりあだけはダンジョンに潜っても魔物を倒せず、ポイントを得ることは出来ない。だからりりあたちから見れば、他の参加者は無限の財布を持っているようなもの。
「待って欲しい。それは無茶苦茶だ。時間は有限であり、ダンジョンに潜る体力も」
「そもそも、何で良心的な価格で売ってやらなければならない? 間違った認識をさせようとしているのかもしれないが、客じゃないんだよ。未来の対戦相手かもしれない奴だ。少しでも有利になるためにポイントを奪って何が悪い? それに全員で分配するから万単位で売っても取り分は数百ポイント程度。これからもっと価格を上げる可能性もある。……ああ、今の内に買うことを勧めよう。お前は全勝組なので通常の十倍。更にイケメンなので五倍。よって五十倍の値段で売ってやる」
通常価格の五十倍。一万ポイントが五十万ポイントの買い物になる。悪魔以上の悪魔がそこにいた。
遠慮しておくよ、とリッテは主張することを諦めて全面降伏とばかりに両手を上げる。
そんなリッテを見て遠矢は詰まらなそうに見てから、りりあへと視線を向ける。
「りりあ、手を貸せ。売り子が必要だ。働きによっては一万ポイントやるぞ」
「え、本当に!? やるやる」
思わぬ臨時収入の可能性にりりあはすぐに飛びついた。
遠矢の下に移動したときにはりりあの頭にあった不安や商売の話などは消え、ポイントを何に使うか考えるのでいっぱいになっていた。
そういえば、人のいない商業エリアにリッテは何の用があったのかと思い、りりあは振り返るがそこにはすでにリッテの姿はなく。
どこかから舌打ちだけが聞こえた。




