第二十三話 反イケメン同盟の商売
「ついに出来ました」
「おお、ついにか」
第二回戦最終日。それなのに遠矢はコロシアムに来ていながらも戦いの様子は見ずに、反イケメン同盟のメンバーとコロシアムの隅で話をしていた。
遠矢が話していたのは夢人。他人の夢を渡り歩き、良い夢を見させたり悪夢を食べたりする希少種の英雄。その見た目は二足歩行の鼻が非常に短い象。
夢の中であれば無類の強さを発揮できる夢人だが、寝て戦いに挑む者などいるはずもなくその戦闘能力は遠矢並に無力。
そんな夢人は寝ている者の記憶を見ることが出来る。夢とは記憶と意識の断片。さすがに記憶を弄ることは出来ないが、その人が思い出す以上に鮮明に記憶を見ることが出来る。
そして他の反イケメン同盟のメンバーの中に埴輪姿の地底人がおり、地底人の世界には記憶をそのまま映像化することできる石があった。
そんな希少種族と、石の存在を知った遠矢は反イケメン同盟のメンバーを集めて大きな商売を始めることにした。
それが今までの戦闘記録の販売。
遠矢は第二回戦で情報とそれを隠すことの重要性を語った。遠矢の戦いに目を向けていた者は反イケメン同盟以外では少数だろうが、いることに違いはない。
それに時が経てば情報の重要性に気付く者は他にも出てくる。
そんな者が出てくる前に遠矢たち反イケメン同盟が情報を売る。幸い、第一回戦初日は遠矢が見ており、それ以降はディックが見ている。その記憶を覗けば全ての対戦の情報が揃う。
価格は勿論高めに設定し、更にアラミタマのように好調に勝ち進んでいる者の情報は更に高い値段に設定する。そして反イケメン同盟のメンバーの情報も非常に高く設定する。
「それでは遠矢さんの戦闘記憶だけは販売しない方向で」
「ああ、それで頼む。売り上げは全員に還元する形にする。場所も運良くコロシアム内の店が取れたからそこで第三回戦から情報の販売を始めよう。ああ、勿論夢人と地底人の取り分はやや多めだから安心しろ。他に質問は?」
「特にはありません。……遠矢さん、貴方も悪ですな。強者がダンジョンを獲得したポイントを弱者の私たちが情報の販売で奪い取る。いやはや、実に気分が良いですな」
へっへっへ、とこれからのことを考えて止められない笑い声を上げていれば。
「箱を返しに来たのだが、何をしているんだ?」
いつの間にかグルガが背後にいた。そしてそのグルガが肩に担いでいるのは第二回戦で遠矢が使った細工を施した箱。
「……気付くのが思ったよりも遅かったな。昨日には気付くと思っていたよ。それより早く気付ければ良かったのにな」
文句を言いに来たのか、遠矢は一瞬焦るも先程の会話について聞かれる方がまずいと気付き、あえて挑発的な態度を取ることでグルガの意識を自分に向けさせ。
「そうだな。それより今の話だが」
ることは出来ず話を逸らせなかった。グルガは遠矢の挑発に一切乗らず、担いでいた箱をその場に下ろしてじっくりと話し合おうとばかりにその場に座った。
「お前に噛ませる話はないぞ。ずっとこっちで進めてきた話なんだからな」
「それは、当たり前だ。俺はたまたま話を聞いただけだからな。それより戦闘記録の販売と聞こえたが、まさか今までの予選全ての情報を持っているのか?」
てっきり敵対業者なしの独占市場、超高額な情報の販売を咎められると警戒していた遠矢だったが、グルガが食いついてきたのは意外にも別の所。
情報の出所でも探っているのか、別に痛くもない腹だが探られて良い気分になれるはずもなく、遠矢はどこかに行けとばかりにグルガを邪険に扱う。
「持っているよ。どこに、どうやっては秘密だが。というかこの箱を返しに来たんだろう。返したんだから帰れよ。あのエルフ、ラフラースが待っているだろう」
「ラフラースはお前たちの所が開いている女の集いに行っている。……一度行って以来、気に入ったのかダンジョンに潜らずにその集いに行ってばかりでな」
あー、と遠矢と夢人は互いの顔を見る。反イケメン同盟は名の通りイケメン参加者に対して敵意を向けるモテなかった者たちの集まりだ。
しかしりりあが中心の女子会はただ集まってお茶を飲んだり菓子を食べたりするだけ。今では自分の世界の動物や可愛いものを見せあう場になっているが、参加条件は一切ない。
そんな緩い条件の所為か、それとも輝天祭の殺伐とした環境から少しでも逃れるためか多くの女性が参加。現在の最大勢力となっている。
遠矢が知る限り派閥として存在しているのはその女子会と反イケメン同盟だけだが。
「あそこは心地良い沼みたいなものだ。リザのように女を捨ててない限り一度行けば抜け出せないぞ。諦めろ」
「ああ、やはりそうなのか。かつては敵対し、今は共に戦う仲間として尊敬し頼りにしていたのだが。……そんなことはどうでも良い。情報だ。ラフラースからも話を聞いたが、お前は本当に情報を重要視しているのだな」
「当り前だろう。お前は目を隠し、耳を塞いで戦うのか? 情報が揃えば目や耳以上に相手が見えてくる。相手が見えないで戦うような奴ならそれだけで負けないな」
遠矢に頭の悪い人を見るような目で見られながらも、グルガはその言葉に満足したように僅かに笑いながら顔を手で覆う。
「そうだな、そうだよな。俺も情報ってのは大事だって知ってる。相手がどこにどれだけいるのか。どこを拠点にしているのか。そんな情報に助けられてきた。戦争の時だけじゃねえんだな。戦う時にも使えるんだな。そこの認識が甘かったから、遠矢が俺たちの情報を完全に握っていると分かった時に俺は狼狽えて。挙句にこんな簡単な箱の罠に気付かず、ラフラースは転移魔法何て嘘に騙されて」
「いつ嘘だと言った? りりあは使えるぞ?」
箱を叩いて後悔するようにグルガが言うも、すぐに遠矢の言葉を聞いて驚いた顔に変わる。
「え、いや。使えないから、箱に細工をしたんだろう?」
「使えるさ。ただあの時は使わなかっただけだ。必要がなかったからな。それとも、グルガはりりあが転移魔法を使えないと言う情報を得ているのか?」
「いや、得てないな。この箱を使うから……。そうか、そうだよな。情報が大事だって今話したばかりだものな。なら、情報を隠すのも大事だな。結局、使えるのか使えないのか分からないままってことか。あっはっは」
勉強になった、感謝する。グルガはそう言って箱を置いたまま帰っていった。
負けて、騙されて。それでいて勉強になったと礼を言って帰る。随分とカッコいい、余裕のある様子。遠矢が絶対に持てない余裕だ。
遠矢は勝ったはずなのに負けた気分になったが、すぐにその気分は上を向く。
「遠矢さん。この箱なんか入っていますよ? 果実酒?」
夢人が気を利かせて箱を運ぼうとしたが、その時に想像よりも重かったため中身に気付いた。
箱の中には果実酒があり、二重底の方には何かあるのかと側面から開けてみればそちらには葉に包まれた肉が入っていた。
グルガとラフラースの礼の品だ。セットで送らえてきたのだから、相性は良いのだろう。
久しぶりに酒と肉が食えると知り、遠矢の機嫌は一瞬で治った。
そして明日、第三回戦のルールと対戦相手が発表される。




