精霊剣士の物語〜sauvenile〜其の弐拾
過去最大級のお久しぶりです。
作者の伊藤睡蓮です。
大変長い間空いてしまって読んでくださっている方には申し訳ないです。
正直自分もどこまで書いたか記憶にあまりない状態で、現在番外編として過去を振り返る話を投稿する予定です。
今回の話は、夏音たち元精霊神教会所属の3人が武精学園にやって来るところから始まります。
それではどうぞ!
35,〜それぞれの想い・それぞれの道〜
演台の横の袖から出てきたのは、夏音だった。それに2人の男女。どちらも生徒とは思えない感じだけど。このタイミング、夏音と関係ある人達なのは確実だった。
「ね、ねえ。しゅうとくん。何がどうなってるの?」
隣にいた詩織がつんつんと身体をつついてきた。
「俺にも、なにがなんだか………。」
夏音は確かに特務部隊の人達に連行されたはず。嬉しい反面、状況を把握出来ていないため困惑中だ。
「夏音さんには、弥生春香さん同様に1年の間、磨精学園にて留学的な感じで生活していました。理由としては家族の仕事の関係ということが1番の理由です。あとの2人は、家族の事情で武精都市に引っ越して磨精学園に通うことが難しくなったため………って感じなので、みなさん仲良くしましょう。」
生徒の大半は何も不審に思うことはなかったが、俺を含めた何人かの生徒は疑問を感じたままだった。
後でちゃんと聞かないとな。
「それでは最後に、これは武精祭を開催するにあたってなのですが、今回の武精祭は全校生徒強制参加です。」
全校生徒?!1クラス40人、それが4クラス。それが3年まで。合わせて…………?
「480人だよ。しゅうとくん。」
詩織が優しく微笑みながら教えてくれた。
「ありがとな、詩織。」
………………。あれ、なんか変な感じだ。優しく教えてくれたはずなのに、なんだろう、このバカにされたような感じは。詩織はもちろんそんなつもりで言ったんじゃないだろうけど。
複雑な気持ちになっていたが、吹雪先生がまた話し始めたのでとりあえず吹雪先生の方を優先した。
「前回は参加したい人、学力で一定以上の者を対象としましたが今回は全員の能力を向上させようと考えました。会場は、前回同様に武精都市のアリーナで行います。今回は改良に改良を重ねたので期待していてください。」
アリーナを改造したってことなのか?どんだけ費用かけてるんだ?
「そして、今回の武精祭ですが1チーム3人までとさせていただきます。全部で160チームですね。3名にした理由ですが、適当です。」
そこはちゃんとした理由じゃないのかよ。
全校生徒そう感じていた。
「チームに関してはこれまで同様、仲のいい人達でもいいし、先輩後輩関係なく組んでもらって構いません。また、来月の開催を予定していますが、今日から武精祭までの間、授業の参加は自由とします。武精祭に向けて鍛錬するも良し、授業を受けて知識を得るもよし。遊ぶもよし。そこはチーム各々で決めちゃってください。何か質問がありましたら、これから教室に戻った時にそれぞれ担任の先生にどうぞ。それから、夏音さん、イヴさん、カイくんは既にチームとして登録していますので、残念ながらこの3人たちは今から確定であなたたちのライバルとなります。」
夏音があいつらとチームを?どういうことだよ。てっきりまた一緒に戦えるものだと思ってたのに。
「チーム申請は今週の金曜まで。それを過ぎた者はとりあえず1000ページ分の課題がみっしりとあるのでそれをやってもらいましょうかね。」
(なにがなんでも参加させる気だよ、この人。)
また全校生徒の心の声が聞こえた気がした。
「それでは私からの報告は以上です。あとはそれぞれ教室に戻って各担任の話をよく聞きましょう。」
一礼して、吹雪先生は夏音たちと一緒に袖の方に歩いていく。
「ねぇ、しゅうとくん。なんだか大変なことになっちゃったね。」
詩織が心配そうな声で話しかけてきた。
「そうだな。なんで夏音、あいつらと一緒なんだよ。また一緒に戦えると思ってたのによ。」
詩織は軽く頷く。
「うん。それもそうなんだけどね、しゅうとくん。」詩織は他にもまだなにか言いたそうな顔をしていた。
「詩織、なんか他に気になることでもあるのか?」さっきよりも大きく頷いた。
「私たち今5人でチーム組んでるけど、3人で参加だから2人別のチームに行かないといけないんじゃない?」
………………あ。
ーーー教室に戻り、とりあえず自分の席について、改めて考える。夏音さん、別のチームなのね。ある意味助かったような感じもする。あの時、夏音さんが出てきたのは確かにびっくりしたけど、とても今は面と向かって話せる感じはしない。私は夏音さんをまだ許せていない。それと同時に、自分への苛立ちもあった。あの時にみんなと一緒に行けていれば………。
「よう、真冬。最近しゅうとたちと一緒にいないけど、なんかあったろ。」
そう言って私に話しかけてきたのは、同じクラスの今井拓人くんと小田俊哉くんだった。
「なに?今私ものすごい機嫌悪いんだけど。」
「だろうな。だから声かけたんだし。それにしゅうとたち、心配してんだぜ。しゅうとだけじゃない、春ちゃんとか美希ちゃんとか、詩織さんも。」
みんなが?
「どうして?」
「真冬が最近、学園長のことで悩んでたり、夏音のことで悩んでたりしたのを1番知ってるからだろ。俺たちに支えてくれと頼まれた。本来なら直接お前に言う必要なかったけど、みんなの気持ちも考えてみたらどうだ?」
俊哉くんが優しく私にそう話した。また、みんなに迷惑かけちゃって、………どうしよ、余計に話しかけづらくなったじゃない。
2人から視線を逸らすようにした目の先に、自分のバッグが提げてあった。
氷の結晶の形をした精霊石がストラップとして付いている。この精霊石は、忠精都市で夏音さんに貰った………。
許すとか許さない以前に、このストラップを今も外さずに付けている自分がいる。私はやっぱり、みんなと一緒にいたいと思ってる。
「俊哉くん。拓人くん。1つ、お願いがあるんだけど。いい?」
2人は目を合わせて頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような不思議な顔をしていた。
ーーー「どーしよー。私、なんにもわかんないよー。」椅子に座って足をバタつかせて悩んでいた。
真冬先輩のこと、夏音先輩のこと。チームのこと。私の周りの全てに悩んでいた。
「春、悩む気持ちは分かるけど、そんなにバタついてたらスカートめくれちゃうよ。」
と、私の席の前の美希が言う。少し顔が赤くなるのが自分でもわかった。それを紛らわせるかのように美希に話しかける。
「だ、だって、本当に悩んでるんだもん。美希はどう思う?」
「どう思うって言われても……。まぁ、夏音先輩とは話したことないから分からないけど、春が先輩たちのことで頭抱えるほど悩んでるのはよく分かった。だからこそ、一旦落ち着いて、深呼吸しよ深呼吸。」
美希に言われ頷く。深呼吸を何度か繰り返す。夏音先輩が戻ってきてくれたのは嬉しい。しゅう先輩もみんなも嬉しいに決まってる。でも、夏音先輩はチームに戻って来なかった。夏音先輩がやりたい事があるなのかな?
「春、参考になるか分からないけど、ちょっとアドバイス。だいぶ落ち着いて考えられてるみたいだし。」
美希が大きく深呼吸した。
「私は春と友達になれて良かったと思ってるよ。この間も言った気がするけど、何度でも言うよ。先輩達のことで悩んでるなら、改めて先輩たちと面と向かい合って話してみたら?」
「でも、夏音先輩は会ってくれなさそうだし。真冬先輩も、最近ちょっとなんとも言えない感じだし………。しゅう先輩や詩織先輩とは大丈夫だけど。」
頭を下げて落ち込んだ。そう、話したいのは山々だけど、今それが出来る状況じゃない感じがする。だから悩んでる。そう伝えようとする前に、美希が先に口を開いた。
「だったらさ、こういうのはどう?ちょっと助っ人が欲しい提案なんだけど。」
美希がニヤニヤしながら私を見ていた。
ーーー「やべー、どうすんだよこれ。夏音のことも武精祭のことも色々とわっかんねー!」自分の席に座ってすぐに現在の頭の中をさらけ出した。
「お、落ち着いてしゅうとくん。みんなびっくりしてるから。」
後ろの席の詩織が口を塞いできた。そしてすぐに慌てて手を離した。
「ご、ごめん。………しゅうとくんも色々と考えてるんだね。」
「それは俺が普段何も考えてないと?」
詩織が慌てて首を振る。
「あ、違うの。そういう事じゃなくて。しゅうとくんって、思いたったら行動!みたいな感じだからさ。今までも何度か悩んでたりしてたけど、今回のはしゅうとくんらしくないかなーって。みんなのために考えるのは悪いことじゃないと思うけどさ、なんていうか………その、ごめん。私もよく分かってないかも。」
俺らしくない、か。
「たしかに、詩織の言う通りな気もするな。みんなで話し合った方が解決するだろうし、1回みんなで…………って、どうするよ?春香と詩織に関しては問題なさそうだけど、真冬や夏音が今の状態で会ってくれなさそうだぜ?」
詩織も首をかしげて「うーん。」と考え込んでいる。
すると、俺と詩織の携帯が同時に鳴った。
同時になったのも当然だった。チーム192のグループに宛ててのメールが届いていたからだ。それも、2件。春香と真冬から。
「なんだろ?私は真冬さんの開くからさ、しゅうとくんは春香ちゃんのメール開いてくれない?」
「わかった。えーっと、…………ってなんだそれ?!詩織、春香が…………。」
「しゅうとくん、どうしよう。真冬さんが…………。」
2人が息ぴったりで口に出した。
「「チーム192を抜けるって言ってるんだけど。」」
ーーー
学園長室のソファに腰掛ける3人。沈黙の時間が流れる中、学園長室の扉が開き、学園のトップ、時雨吹雪が入ってきた。
「ごめんね、ちょっと小林先生のところに行ってて遅れちゃったわね。」
スタスタと歩いて学園長は自分の椅子に腰掛けた。
「いえ、問題ありません。早速ですが学園長、やっぱり私にはこの学園にいる資格はありません。」
きっぱりとそう言った。
「いきなりね。それに、前にも言ったはずよ?あなたたちは私が監視するという名目で、特務部隊本部の檻の中から外に出られてるんだから。私の命令は絶対。」
学園長が私に優しく微笑んだ。
「あの〜、別に私はあそこから出してなんて一言も言ってないし〜。戦える場所があるって言うから出てきただけなんであんたの命令聞く必要はないんだよね〜。」
隣に座っている女の子、イヴ=スマリクスは手で短刀をくるくると回して、学園長につきつけた。
「あらあら、それじゃああなたがここにいるのはどうして?それも説明して納得したからここにいるんじゃないの?」
イヴは学園長を睨みつける。
「確かにその通りです。しかし、私とイヴが特務部隊本部に自首したのはあくまでも夏音を助け出すため。今、あなたの命令を聞く必要はなくなりました。」
長髪でメガネをかけている男子、カイ=シンが敵意むき出しで学園長に槍を向けた。
「あのさ〜、カイ?私は夏音側に付けばもっと面白い敵と戦えると思ってあそこに行ったんだよ?勘違いしないでほしいな〜。」
2人は睨み合いながらも黙って学園長に武器を突きつけている。
「2人とも、落ち着いて。私たちがここにいられるのは、学園長が言ってる通りのこと。それに、今の私たちが3人相手でも勝てないよ。だから、武器をしまって。」
私の言葉に2人とも渋々武器を下ろした。
「ありがと、夏音さん。助かったわ。」
私は軽く頭を下げた。
「すいませんでした。ですが、2人の気持ちが分からないわけではありません。監視するだけなら、それこそ檻に閉じ込めておくほうがいいのではないですか?学園内で監視するにせよ、好き放題出来ますよ?」軽く脅すように話す。私は、ここにいてはいけない。だから、檻の中にいた方がよっぽどいい。少しでも、罪を償っている気がするから。
「そうねぇ。でも、これからの戦いの戦力として、あなたたちに居てもらった方がこっちとしては助かるの。それも話したはずよ?特にイヴさん、あなたは戦いたいんでしょ?それなら、ここにいた方が悪魔の情報も入ってくるし、さっき発表した通り、武精祭もあるし……ね?」
イヴはその言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻していた。
「戦えるのはいいんだけどさ〜。…………私たち言っちゃえば罪人、だよ?」
イヴの口調が変わる。さっきまでのおちゃらけたような口調ではなくなった。
「イヴの言う通りだ。罪人を檻から出してまで悪魔と戦う戦力が欲しいのか?精霊使いのトップが10人いれば解決できる気もするが。」
そうか、この2人はまだ知らないんだ。
「イヴ、カイ。今回の敵はその精霊使いの中でも1位の人だよ。それに、第4位も倒されて今は空席。そして、その人は悪魔とも通じている。それもかなりの上の位。」
2人は目を見開いて驚いた。特にイヴ。
「早くそれ言ってよ〜。夏音〜。だったら、私はここに残る〜。」イヴは楽しそうにしている。
「なるほど。しかし、だからと言って私たちが開放される理由が分からない。私たちよりも強い精霊使いはいるはずだ。」
そう、カイの言う通り。私もそこが気になってる。私の魔力もジェミニのおかげで元通りになりつつある。さすがに無限とはいかないし、前の魔力に戻ったとしても戦力になるかどうか。
「あなたたちが疑問に思うのもわからなくはない。でも、あなたたちは自分たちの強さを低く見すぎている。あ、イヴさん以外の2人ね。今はまだ花が開いてない蕾の状態。それを開くことが出来れば、精霊使いのトップに並べる力を秘めてると、私は信じてるわ。以上。」
そんな事の理由で?ますます話にならなくなってきた。
「私はここでのうのうと生活しているわけには………しゅうや、春香ちゃんや、真冬さん、みんなに酷いことして、それでまた一緒になんて、そんなの無理です。」
学園長は優しく微笑んで、ゆっくりと頷いた。「春香ちゃん、ね。前はそんな風に言わなかったのに。」
「あなたの中でチーム192の評価が随分と下がったみたい。まぁ、そこはあなた自身が考えるべきところよ。夏音さん。」
学園長室のドアがノックされる。
「学園長、少しお話があります。」
副学園長の声だった。
「ごめんなさいね。また今度お話するわ。今からちょっと副学園長とお話をしないと。」
学園長に一礼して、私たちは学園長室を後にした。
私は一体、これからどうすればいいんだろう?しゅう。
ーーー
副学園長と入れ替わるように3人が廊下へと出ていった。ゆっくりと学園長室の扉が閉じる。
「ありがとうございます。おかげで助かりました、副学園長。」
手に持っていた紙が床に散らばる。右手に、力が上手く入らない。めまいや頭痛に襲われる。立ち上がろうとしたが、めまいのせいもあり、床に倒れそうになる。
「学園長!」
副学園長が肩を支えてくれたおかげで、なんとか倒れずにすんだ。
「すみません………。」ゆっくりソファに移動し、横になる。
「やはり、神谷晴明との戦いの時の傷が治っていないのでは?」
私は首を横に振った。
外傷はもうない。
ただ、あの戦いが終わった後から、小林先生に右手に力が入りづらい時があること、頭痛やめまいが2,3時間おきに襲ってくることなどを相談していた。
「晴明の攻撃を防いだときから、違和感があった。吹雪や桐崎千にはこの症状は出ていない。これが3人ともだったら、流石にやばかった。小林先生の考えだと、やはり毒の類のようです。」
「毒、ですか。しかし、一体いつそんな事が出来るんですか?」
私に毒を仕込むタイミングがあったとするならそれは、
「4学園会議。その可能性が高いです。まだ、具体的な方法は分かっていませんが私が気を許していたタイミングがあるなら、そこ以外考えられません。今は毒を仕込まれたことよりも、この毒が治療出来ないということが、1番考えるべきところです。」
左手で頭を押さえて痛みに耐える。ほんとうに、少しでも気を抜いてしまうと気絶してしまいそうだ。
「小林先生でもだめでしたか。一応私も優秀な医者を探しているのですが、やはりこのような状態は初めてだとのことで………。」
無理もない。
このことに関してはしゅうとくんたちにも伏せている。あの子たちも、今たくさん考えて、悩んでいる。そんな時に私の心配をさせてはいけない。精霊使いトップ10の方たちには一応情報としては伝えてある。ついこの間も雲雀が来てくれた。そして、今回この学園に新しく来てもらう………。
「邪魔するぜ、吹雪。」ノックなしでズカズカと足を踏み入れてきた。
「相変わらずその品のない態度はどうにかならないのかしらね。でも、来てくれて助かったわ。凱。」
36,〜向き合って笑顔で笑い合うために〜
詩織と俺は、しばらく見つめ合ったまま動けなかった。夏音だけでなく、春香や真冬もかよ。
「すいません、詩織先輩としゅう先輩はいますか?」廊下から美希の声がした。
廊下を出て美希と合流した。
「何がどうなってんだよ?」
「はい、真冬さんのことは私にも分からないんですけど、おそらく春と同じ理由だと思います。」美希は少し笑っていた。
「あのですね、実はこの提案をしたのが私で…………。」
美希の提案?
「春香を抜けさせたのか?」
美希はこくりと頷いた。
「一時的にです。武精祭が終わるまでの間、チームを離れてみたらどう?って。そして、思いっきりぶつかってみな!って言っちゃいました。」
あー、なるほどね。
「つまり、夏音のチームや俺たちのチームと戦える。そうなれば向かい合うしかないもんな。そしたら、同じような考えだと思われる真冬も抜けちまったと。」
美希がまた頷いた。申し訳なさそうにちらちらとこちらの様子を伺っている。
「しゅうとくん。あのね、美希ちゃんは………。」
「そっか、だったらこっちも思いっきり春香や真冬、夏音とぶつかるまでだーーー!やるぜ、美希、詩織。俺達が優勝するぞ!」
美希と詩織はきょとんとしていた。沈黙の時間が流れる。
「ん、どうした?」何かおかしなことでも言ったのだろうか?すると、今度は詩織がクスクスと笑いはじめた。
「そうそう、これこれ。このぐらいじゃないと。しゅうとくんらしくないよね。ね、美希ちゃん?」
「はい、しゅうと先輩らしいです。」美希も笑っていた。どうやら間違ってはいなかったらしい。考えてみれば、今まで1度も春香と夏音とは面と向き合って戦ってない。真冬とは1度イプシロンでバーチャル対戦?みたいなやつをしたけど、機械がぶっ壊れたからな。
「それじゃあこの3人で優勝しようぜ。改めてよろしくな、美希。詩織。」
「うん。頑張ろうね。」
「はい、一生懸命頑張ります!」
3人で手を重ね合わせた。
ーーー
「失礼します。双葉生徒会長はいますか?」
生徒会室にゆっくりと入る。
「いるけど。あなた副会長なんだから普通に入ってくればいいじゃない。」
そういえばそうだったと思い、自分の行動が一気に恥ずかしくなる。
「そ、それもそうですね。次からは気をつけます。」双葉生徒会長は武精祭に関しての書類であろうものを積み重ねていた。
「て、手伝いますよ?というか、言ってくださいよ。いつでも手伝いに来ますので。」
双葉はしばらく考え込み、
「それじゃ、今度からそうさせてもらう。今日はもうこれで終わりだから大丈夫。それよりも、私に話があるんじゃないの?」そうだった。
「双葉生徒会長も武精祭、出るんですよね?良かったら私と一緒に出場しませんか?」
双葉生徒会長の手が止まり、私の目をじっと見ていた。
「あなた、自分のチームはどうしたの?」
「抜けました。一時的にですけど。真冬先輩や夏音先輩と話すには武精祭で向き合った方がいい気がしますから。みなさんと、本気でぶつかるために。」
双葉生徒会長はため息混じりに額に手をついた。
「それで、私のところに来たってことね。まぁ、確かに私もまだメンバー集めてなかったしあなたが加わってくれるのは、正直助かるわ。」
双葉生徒会長は多分分かってる。それでも、深いことまでは聞かないでくれた。
「ありがとうございます。あと一人、どうしましょうか?」武精祭に参加するには3人で登録しなければならない。
「その点については大丈夫。同じクラスの子が一緒に出てくれるから。後で紹介するわ。」
「そうなんですね。それなら安心ですね。武精祭、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げた。
「こっちこそ、よろしく。……………。」
双葉生徒会長はそういった後、何か考え込むように下を向いた。
「何かお困りですか?」
「あ、違うの。困ってるというか、今回の武精祭の人数を減らしてあるんだけど、見てこれ。」さっき双葉生徒会長がまとめていた書類の1枚を見せられる。
「もちろんこれはまだ生徒には配られていないんだけど、おかしいと思わない?」
見せられた紙に書かれているものは特におかしいとは思わなかった。首を傾げて双葉生徒会長をみた。
「どこがです?」
双葉生徒会長は紙に書いてあるチームメンバーを記名するところを指さした。
「ここよ。この欄。どうして記名するところが"4名記名できるようになってる"のか。」
確かに、そこにはメンバーを記入出来る枠が4つあった。でも、吹雪学園長は全校集会では3名と言ってた。それは間違いない。
「これって、吹雪学園長が前回のやつを似せて作ったから、間違えて1つ多くなったとかじゃないでしょうか?」
「私も最初はそう考えたけど、ほかの文章を読む限り、前回と同じように書いてる場所が見当たらなくて、新しく作ったのかなと思ったんだけど。気にしすぎてたかな。ごめんなさい。変なことに時間を取らせて。」
首をぶんぶんと横に回す。
「大丈夫ですよ。それよりこの書類、いつ配るんですか?私、今なら時間空いてますし一緒に配りますよ。」
「そう。それなら少し手伝ってもらうわ。色々とありがとう、春香さん。」
春香さん、か。なんだかやっぱり聞きなれない。それに、なんだか最近の双葉生徒会長は話しやすいというか、どこか楽しそう。神崎先生と一緒にいられるからかな?私ももっと仲良くなりたい。
「双葉生徒会長、私のこと"さん付け"しなくて大丈夫ですよ。詩織先輩にも言いましたけど、なんかくすぐったい感じがします。」
「そ、そう。それじゃあどう呼べばいい?」
「そうですね、夏音先輩は"はるちゃん"とか、美希や真冬先輩は"春"ですかね。しゅう先輩は春香ってそのままです。」あだ名で呼んでもらっていいんだけどなー。
「春、でいい?」すこし照れながらもその名前を呼ばれ、とても嬉しかった。
「はい!」
「それから私のことも生徒会長と呼ばなくていい。聞いてるこっちも長い。」
長さの問題なんですかね、それ。
「それじゃ私は双葉会長で。やっぱり先輩よりも高級感ありますし。」
双葉会長はそう言われてまた顔を赤くした。
「それじゃ、春。配りに行く。」
「はい!双葉会長!」
そう言って、2人で生徒会室を出た。
ーーー
屋上で早速授業をサボった3人組。正確に言えば転校初日で見学、ということになってるけど、3人にそんなつもりは毛頭なかった。
「いい感じにあの学園長に言いくるめられたけど、これから本当にどうするのー。」
イヴは柵の間に足を通し、宙に浮かせるようにバタついている。
「学園長が言ってたじゃない。今後の悪魔と戦う時のための戦力として。ただそれだけ。」
イヴはバタつかせている足を止め、私を見た。
「このままつまらない生活なら、私がこの学園で暴れればちょっとは楽しくなりそうだね。」笑顔で微笑むイヴに睨みきかせる。それだけは絶対に許さない。
「おー、こわ。冗談だってば〜。」
少なくとも私には半分冗談ではないように感じていた。
私とイヴの会話を出入口のドアの横で手を組んで立って聞いているカイは、目をつぶって黙っていた。
(悩んでいるようですね、夏音。)
ミズハノメ。今は私の精霊として手に持つ1冊の本に宿っている。
(迷ってる、迷ってるよ。これから先どうしたらいいのか。)
(曖昧に答えるのね。私が聞きたいのは悪魔との戦いの事じゃないわよ。しゅうとや、他の友達、あなたが私と契約する前の、あなたと本来ともにいるべき精霊のことについて。どう考えているのかを聞きたいのだけれど?)
その事についてはなるべく考えないようにしていた。思い出すのが苦しかったから。辛かったから。自分がもっと嫌になったから。
(私に友達なんていない。前の精霊のことも、今は私なんかとは真反対のいい子が契約してる。私が会う必要なんてないよ。)
ミズハノメからの返答がしばらく返ってこなくなった。今のこの変なモヤモヤを取り消したい。
(夏音、あまり直接言いたくはなかったけれど………)
ミズハノメが何かを言いかけた時、屋上のドアが勢いよく開かれた。近くにいたカイも咄嗟に距離をとっていた。私やイヴが気づかなかったならまだ分かる。でも、カイの反応からしても気づいていなかった。
誰?誰なの?
「おうおう、お前らか。噂の監視対象ってやつら。間違いないな。吹雪の言った通り、やんちゃしそうだぜ。」
男の声がした。
見た目は20代から30代の男。身長はカイと同じくらいの170ちょっとかな。黒い髪、所々赤く染めている。なんかムカつく。
「おっさん、誰?」
イヴがゆっくりと立ち上がる。
「おいおい、いきなりおっさん呼ばわりかよ。まぁいいや。吹雪からの伝言だ。お前たちのクラスは3年2組。他にもあったけど、お前ら見た感じめんどいから…………以上。俺は帰る。」
…………。何しに来たのこの人?それに、見たことない先生?もしかして、この人。
「あのさ〜。話聞いてる?あんた誰だよ?」
イヴの右手にはいつの間にか短剣が握られ、柄頭からは蠍の尻尾のようなものが腕に巻きついている。
「待て待て。俺は別に戦いに来たわけじゃねぇぞ。言ったろ。伝言だって。それに、お前らみたいなやつに名乗る必要ないだろ。」
「は?うるさ〜い。」そのまま飛びかかるように男に向かっていく。
カイもいつの間にか男の真横まで移動していた。そこから槍を構えている。完全に男の挑発に乗ってる。あの男、一体何がしたいの?
「2人とも落ち着いて!」
そう言葉を発するも、2人の耳には全く届いていない。
2人が武器を男に向けて振り下ろした。
しかし、そのどちらも男の身体に傷をつけることはなかった。イヴの短剣は片手で白刃取り、カイ槍は刃先から下の方、口金の部分をがっちりと掴まれている。
男はそのまま槍ごとカイを持ち上げて床に叩きつけた。
「よしよし、まずは1人。ほれ、動かせるなら動かしてみろ。やんちゃなお嬢ちゃん。」
さらに挑発する男。必死に動かそうとするがイヴの短剣はピクリとも動かない。
「ぶっつぶす。トイ、溶毒。」
そう唱えた瞬間に男は刃先から手を離した。
「危ねぇな、まじで殺す気か。ったく。だから嫌なんだよ、吹雪に任せれば良かったか。」
イヴは躊躇なく短剣を振り続ける。男はそれを避ける。イヴが空いている左手で殴りかかるも男の手で掴まれた。イヴは左足を上げて左手の拘束を解こうとしていたが、男のもう一方の手で止められる。
「女が簡単にスカートめくれるような動きするもんじゃねえ。みっともねぇからよ。」
男は手を離した瞬間に、イヴの背後に回った。
「お前ら2人とも、確かに強い。けど、リーダーの命令も聞けないんじゃその強さは偽物だ。」そう言ってイヴの首の後ろを叩いて気絶させた。
判断の早さ、そして無駄のない動き。間違いない。精霊使いトップ10の中の1人ね。
「さてと、リーダーはあんたみたいだな。大体予想は出来ていたが。悪いね、急に押しかけるような感じになっちまった。」
男は私に向かって心にもない笑みを浮かべていた。私もそれに合わせるように愛想笑いを浮かべる。
「わざわざ何組か言いに来させるほど、吹雪学園長は人遣い荒くないです。本当の目的はなんですか?」
男は自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「お前に会いに来た。精霊の加護を使えるんだってな。学生で使えるやつがいるってのが珍しいもんだから、どんなものか見に来たってわけよ。そしたらいきなり襲いかかってくるもんだから、ついつい反撃しちまった。」
嘘、ではない気がする。なんとなく。
「つーわけで、見せてくれよ。精霊の加護。」
ニコニコと笑ってはいるが、やっぱり本心で笑っているようには思えない。
「いいわ。ミズハノメ、精霊の加護・水天。」全身を透き通るような水が包み込む。
私の姿をじろじろと見てなにか独り言を呟いていた。私には聞こえないような小さな声で、かつ早口に。
「見せた変わりに、お名前をお聞きしたいんですけど。吹雪学園長の言っていた精霊使いのトップの方ですよね?」
私の問いかけに反応し、また頭を掻き回した。
「悪い悪い、そう言えば自己紹介がまだだったな。精霊使い第6位、狩屋 凱。今日からこの学園の教師として働かせてもらう。表向きにはな。」
やっぱり。6位ってことは雲雀学園長の1つ下か。
「そうですか。それなら凱先生、ですね。私の精霊の加護はどうでしたか?なにか独り言のように喋っていましたが。」
すぐにその返答が返ってきた。
「いや、どうもこうもないだろ。未完成にも程がある。もう1人の"しゅうと"って奴も似たような感じなら、がっかり通り過ぎて興味すらなくなってるよ。よく、そんな状態で悪魔なんか倒せたな。お前らよっぽど運がいいらしい。」
水の剣を投げつける。凱先生は表情一つ変えずにそれを躱した。
「しゅうの事を馬鹿にするのは先生でも許しません。訂正してください。水造武連戰。」水が刀や槍、斧など様々な形の武器に変化する。
「精霊の加護を使えない人達に、この力を馬鹿にする権利なんてないです。」
凱先生は溜息混じりにこう言った。
「おいおい、馬鹿にしてるのはそっちだろ。よくそんな状態で完成してると思えてるな。それに、精霊の加護が使えない?誰がそんなこと言った?よく覚えとけ、少なくとも精霊使いのトップ10に入るやつらは全員精霊の加護を習得してる。精霊の加護ってのは人と精霊の絆によって強く結ばれた時に初めて使えるようになる。絆がない人と精霊でトップ10なんかに入れるかよ。」
周りに浮いていた水の武器が全て弾けるように消え去った。この人は今何をしたの?
「そんな、はず。だって、吹雪学園長や雲雀学園長だって1度も使ってなかった。ジャックさんの秘密の技も精霊の加護だった………。」
ジャックさんは精霊の加護を使ったとは聞いたけど、あの人の場合は精霊がいない。
「ジャックは特別だ。あいつは戦闘タイプと言うより知能タイプ。そして自分自信に精霊の加護をエンチャント、付与することでそれを可能にした。まぁ、ある意味では使いこなしていたな。そして吹雪や雲雀、他の精霊使いトップ10に関して言えば、悪魔との戦闘開始直後から精霊の加護使ってるぞ。"完成された"精霊の加護でな。」
私やしゅうの精霊の加護はまだ未完成と言ってる。こんなに魔力が倍以上に膨れ上がってるのに。
「それなら、精霊の加護について、あなたが知ってることを教えてください。」
「そうだな。教えてやってもいいが、それじゃあお前らのためにもならない。今までだって吹雪や雲雀が教えたか?教えてないだろ。精霊さん、あんたも教えてないだろ?」
どうやらミズハノメに話しかけたらしい。
(ミズハノメは知ってたの?)
(…………。)
ミズハノメは何も言わずに黙っていた。
「ってわけだ。精霊が答えないなら俺にも答える権利はねぇ。」
そのまま私に背中を見せて屋上から立ち去っていった。きっとあれ以上は何も聞き出せない。ミズハノメからも無理そう。
きっと、私に足りない何かがある。それを見つけないと。
改めまして作者の伊藤睡蓮です。
というわけで、次回からは第2回武精祭編が始まります。とりあえず、次の投稿はおそらく早くなります。余裕が少しずつ出来てきたのでお昼休憩がてらにちょこちょこ書いてるのでいいペースで進むのです。
Twitterでも生存報告やら投稿状況などつぶやきますのでそちらも確認していただけるとありがたいです
それではまた。




