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精霊剣士の物語〜Sauvenile〜  作者: 伊藤睡蓮
精霊剣士の物語〜Sauvenile〜
18/23

精霊剣士の物語〜sauvenile〜其の拾捌

作者の伊藤睡蓮です。ということで予告通り1週間後の投稿が無事に出来ました。よかったよかったε-(´∀`*)ホッ


それでは早速どうぞ!

32,〜風乱旋空(シェルトスカイ)

今までの悪魔たちとは明らかに違う魔力。たしか、牡羊座のアリエスって名乗ってた気がする。身体中モコモコとした白い綿の毛から作られたようなドレスを着ていて、まさに羊って感じ。


「春、無茶はしないでね?」

私の方をポン、と軽く叩く。私横に立っている花蓮ちゃんは「勝手な行動をしないでね」と言わんばかりにじっと見てくる。言ってることと少し感じが違う表情なんだけど。


「大丈夫だよ。花蓮ちゃん強いもん。アテナさんだっているし。」

花蓮ちゃんの精霊、アテナさんは花蓮ちゃんの中に宿ってる。普通、精霊は人間の体に宿ることはまず有り得ない。授業でも習った。精霊と人間にある魔力の質の違いから、肉体的負荷がかかって耐えられないから。でも、花蓮ちゃんは宿せた。詳しくはよく分からないんだけど、とっても仲良しで信頼し合ってるって感じがするから大丈夫そう。今のところ、なんともないみたいだし。


「さて、時間もないからさっさと始めましょうか。精霊使い………じゃないわね。見るからに子供じゃないの。そんな子供がなんで私に斬りかかってきたんだか、甚だ疑問ね。」

アリエスは鼻で笑って私たちを見た。ジェミニさんとは明らかに違う。イプシロンで戦ったラーナと同じというより、それ以上に嫌な感じ。


「アテナ、お願い。」花蓮ちゃんは独り言のように呟いた。花蓮ちゃんの体が輝き、光が収まる。右目は普段と変わらない青い瞳。だけど、もう片方の瞳は黄色の瞳だ。

「おっけー、花蓮。忠精学園に来た悪魔とは段違いみたいだね。」


最初からアテナさんと………。そのくらいしないと勝てない相手ってことだ。私も全力でやらないと。


「天神目Ⅲ(シエルトアイ)、最高速(トップ)。」思いっきり地面を踏んで、1歩前に出る。一瞬にしてアリエスの背後に回った。まだアリエスはこっちを確認できてない。今ならいける!


「疾風斬・双連撃(しっぷうざん・そうれんげき)!」

風を纏った2本の剣で交互にアリエスに斬りかかる。


「あら、やっぱりあなた速いのね。私でも目で追えない。けど、残念。」

目の前に突然雲が現れる。剣は雲を斬るだけでアリエスには届かない。まただ、さっきも同じように防がれた。


防雲(クラウディフ)。私に向かってくるあらゆる攻撃を全て防ぐことができるのよ。どお?便利でしょ。」

そんな魔法があったの?アリエスの能力かもしれない。


「あ、ちなみにこれ、能力じゃないから。晴明様に使うなって言われてるし。あなた達が使ってるのと同じ、魔法よ。こんな風にね、鈍雲塊(クラヴィティ)。」

私の上空に雲の塊が現れて、真っ逆さまに降ってくる。でも、このぐらいなら躱すのは簡単。もう一度地面を蹴って躱す。


雲の塊は私に当たることなく地面に衝突する。大きな振動が辺り伝わる。あれに当たってたら怪我じゃすまなかったかも。


「春、今度は私がやる。」

花蓮ちゃんが右手をアリエスの方に構える。


「術式展開、千針(サウラス)・三重奏。」

アリエスの周りに無数に光る針のようなものが現れる。


「全方位からの攻撃だから何?防雲。」アリエスの周りを雲が覆う。無数の針はやっぱり雲に吸い込まれるように消えていく。


「術式展開、連鎖爆裂(チェインクラスター)。術式展開、光の太陽(ライトサン)。術式展開、風魔核(テンペストコア)。」

とめどなく術式を展開する花蓮ちゃん。


地面から爆炎が吹き出し、アリエスの方へと向かっていく。上空からは光り輝く太陽のような球体が降ってくる。そして、握り拳ほどの小さな風の球体がアリエス目がけて放たれた。


「あなた本当に凄いのね。けど、何かしらのデメリットはありそうね。ま、全部受けて見てから考えましょう。」再びアリエスの周りを雲が覆う。爆炎、太陽、嵐。それぞれの魔法が雲に直撃する。凄まじい衝突音とともに辺りが煙で全く見えなくなる。


「ちょっとやりすぎたかも。操風(タクトウィンド)。」花蓮ちゃんは人差し指を軽く動かす。その途端、辺りの煙はひとつの塊となるように集まっていく。暫くするとそのまま消えてなくなった。白い球体の雲を残して。


「残念でした。私には通じないわよ。」


「そんな……花蓮ちゃんの魔法でも届かないなんて。」どうしたらアリエスにダメージを与えられるの?


「アテナ、やっぱりここではあの術式は出来ないよね?」

(うん。忠精学園じゃないと無理。それに、あんな大きな術式、流石に時間がかかるよ。春香ちゃんも悩んでるみたいだね。こいつ、かなりめんどーだね。)


「手札は出し切ったのかしら?それじゃあ私も行かせてもらうわよ。雲星群(クラウデオ)。」

アリエスが空に右手を上げる。


複数の雲の塊が造られていく。でも、躱すことが出来ない数じゃない。それに、今相手は魔法を使ってる。もしかしたら雲バリアもなくなってるかも。


そのままアリエスに向かって全速力で走り寄る。

爆速斬(オーバーラック)20%。」

斬りかかる直前にアリエスの雲が現れる。また雲を斬っただけで手応えがない。そういえば、さっきも私が攻撃する直前にこの雲が現れてる。花蓮ちゃんの時も、もしかして………。


「またまた残念。さようなら。」

雲が消えると同時にさっきアリエスが造っていた雲が雲バリアを突き破ってきた。この距離じゃ避けられない。


雲星群が直撃する。そのまま後ろに吹き飛ばされる。


「春!」花蓮ちゃんの呼ぶ声がする。数メートル転がってようやく体が止まった。頭がクラクラしてうまく立ち上がれない。


「あなたもよそ見してる場合じゃないわよ。」アリエスは花蓮ちゃんにも同じ魔法を放った。


「術式展開、五属壁(エレメントウォール)Ⅹ。術式展開、範囲超回復魔法(ハイヒールエリア)。」

花蓮ちゃんは自分の目の前に5属性の壁を作り出し、鉛のような雲を防ぐと、私の方に手を向けて空中に一瞬にして術式を描く。数秒後には頭の痛みも治まって直ぐに動けるようになった。


「ごめん花蓮ちゃん。ありがとう。」

「私なら大丈夫。それより………アテナ、そろそろやばいかも。」

(もうそんな時間かー。前の悪魔との戦いで暴れすぎたかなー。雲雀学園長や吹雪学園長が言うには後数分生き残れば敵さんも活動限界みたいだし、それまで持ちこたえられればって思ってたけど。)


「花蓮ちゃん、もしかして時間が………。」

花蓮ちゃんの力は私が忠精学園にいる間に話してくれた。アテナさんの事、憑依の事も。その時間の限界も。


「春、今から私の残りの魔力であなたを強化(エンチャント)する。それで相手に攻撃の隙を与えずに向かい続けなさい。大変かもしれないけど。」

「大変の中の大変だよ。それって、花蓮ちゃんがその後なにも出来ないってことでしょ。自分の体を守ることも。」そんなのだめ。


花蓮ちゃんは暫く私をポカンと見つめて、少しだけ笑って諦めるように溜息をはいた。

「そうだったね。春はそうだった。ここはあたしが折れた方がよさそうだね。ごめん、それじゃあ"あれ"やってみる?実戦は初めてだけど。」

あれって………。


「いいの!?雲雀学園長に許可もらってないよ?」


「そんな時間ないでしょ。それに、私の魔力も残り少ないし、練習よりも力出なそうだから大丈夫。」

それって大丈夫なのかな?本当に。でも、確かに迷ってる時間なんてない。


「分かった。アイさん、力を解放するね。」

(いつでもおっけーだよ、春。)

私の周りを風が舞う。私の魔力。


アリエスは私たちの方を見て余裕の笑みを見せている。レオと同じだね。今度は私たちが笑ってやる番だ。


「アテナ、春と魔力を結合する。手伝って。」

花蓮ちゃんは右手を私の方に差し出した。私はその手を握る。

(怒られても知らないよ〜♪)

「アテナもノリノリじゃない。」


私から溢れる魔力が花蓮ちゃんの魔力と合わさっていく。


「結合完了。結合術式展開、風乱旋空(シェルトスカイ)。」

私たちから放たれる魔力によって、辺り一体を結界で覆う。結界の中は、大草原が広がっていて、空には明るい太陽が昇っている。


「なにこれ、結界?てか結界の中に空があるってなんか不思議ね。そろそろ時間ってこともあるから、私もちょっとだけ本気、出そうかな。」

アリエスも魔力を解放した。おそらく全力じゃないけど、私たちよりは圧倒的に質が違う。


「花蓮ちゃん、行くよ!最高速(トップ)天神目(シエルトアイ)Ⅲ。」


「任せて。結合術式展開、舞風(スカイ)。」私の体が風に包まれる。最高速よりもさらに上の速さ。まだほとんど誰にも見せたことがない技。私も一瞬でも目を閉じることを許されない。少しでも目を閉じれば思ったとおりの場所に辿り着けない。


地面を軽く蹴ってアリエスの背後に着く。

「いくら速くても私の防雲に防がれるって。無意味よ。」

アリエスの言葉を無視して両手に握りしめた剣に魔力を注ぐ。


「疾風斬・弍十弍奏(しっぷうざん・ヴェンドゥーエ)。」

一撃目がアリエスの造った雲に防がれる。その後も斬り続ける。


「無駄って言ってるでしょ。」


「結合術式展開。風身一体(コールドワン)。」

花蓮ちゃんが術式を唱えると同時に私はアリエスの目の前にいた。


アリエスは止まっているように動かない。実際にはゆっくりと動いている。本当に、遅い。この感じ、電車ジャックの時、真冬先輩を守ろうとした時に使えた魔法。自発的には出来なかったけど、花蓮ちゃんが力を貸してくれたおかげで使えるようになった。


「私たちの世界に入った時点で負けだよ。爆速斬・双連撃(オーバーラック・そうれんげき)。」

アリエスの体を十字に斬りつける。すると、世界は再び動き出したかのように風が吹く。

アリエスは突風で飛ばされていることに暫くしてから気づいた。斬られていることも。地面に膝をついて私たちを睨みつけた。


「こいつ、私の防雲よりも速く動いたっていうの?全く見えなかった………。」


「花蓮ちゃんのサポートのおかげです。本当なら完成形で使いたかったですけど、身体中悲鳴あげてるよー。花蓮ちゃん。」

関節を少し動かしただけで痛みが体を駆け巡る。


「私も魔力ないから、ごめん。我慢して。それよりも、アリエスを倒せてないからまだ気を抜かないで。」

今にも気絶しそうなんだよ、私。


「流石に舐めすぎてたね。今度会う時は全力で相手してあげる。小さな精霊使いさんたち。」

アリエスが立つ真上、空がひび割れて、黒い塊が溢れ出す。その塊にアリエスは飲み込まれる。結界がいとも簡単に壊された。


一体あれは何?


「どうやら時間だったみたいね。まるで、この世界で悪魔が活動出来る時間が決まってるみたい。」

花蓮ちゃんが呟く。


「それって、ジェミニさんも………。」

ジェミニさんが危ない。


「春、私たちはもう動かない方がいい。それに、恐らくだけどあなたたちと一緒にいた悪魔、時間制限のこと、分かってるわよ。」

アリエスが倒そうとしていた学園長たちを触れずに時間制限を守ったってことは、相当なリスクがあるはず。それでもジェミニさんは………。


夏音先輩………。


33,〜裏切りコンビ〜

ヴィルゴ、6番目に強いのか。12体の上位の悪魔がいるというジェミニの言う言葉を信じるなら、こいつはその中間の実力ってことよね。能力は使わないとか言ってたから大分なめられてるみたいだけど、それでも悪魔の力を測れる。


「それじゃ早速、風神の剣。」

右手を高く上げる。真上に風が集まり、巨大な剣が造られる。


「相変わらず、あなたすごいわね。」

ジェミニが感心しながら見ている。


「あんたは全力で戦うんでしょうね?雷神の剣。」左手を隣にいたジェミニに向ける。

ジェミニはとっさに私の左手を右手で合わせた。


「ちょっと、やるなら言いなさいよ。危うく大ダメージもらうとこだった。雷神の剣。」ジェミニは左手をヴィルゴに向けた。雷がジェミニの手から放たれ、集まる。剣を模した巨大な剣。


「知ってるわよ、ジェミニ。あなたの能力。触れた魔法を1つ、自分が使用出来る。私より下位の悪魔の魔法なら情報が来てるからね。対処法はいくらでもある。」

ヴィルゴはその場から1歩も動かずただ私たちが攻撃するのを待っている。


「そんなに死にたいなら死になさい。」ジェミニと同時に巨大な剣をヴィルゴに振り落とした。


烈風鎌鼬(スタムカット)。」

ヴィルゴは右手を上げる。鎌鼬が巨大な剣を木っ端微塵に切り刻む。2つの巨大な魔法が消え去った。


「あら、割と全力で振ったつもりだったんだけど。綺麗に切り刻まれたわね。かのん、今度は私が先行するからね。双光爆斬(ツインブラッシュ)。」

どこからともなく光の剣がジェミニの前に現れる。剣を手に取り、ヴィルゴに向かっていく。


「悪魔が私に命令しないで。風神の矢。」

ヴィルゴの頭上から無数の風の矢が降り注ぐ。


「無駄よ。烈空鎌鼬(スカイカット)。」

全ての矢がバラバラに刻まれる。ま、時間稼ぎには充分でしょ。元々ジェミニを倒せなかったあんな技で倒せるなんて思ってないし。


その間にジェミニがヴィルゴに近づいて剣を振りかざしていた。

ヴィルゴは少し目を見開いて、右手を前に出す。そこから黒い霧が溢れ出し、槍が造られた。あれがヴィルゴの武器。


槍と剣がぶつかる。金属音が辺りに鳴り響いた。ヴィルゴとジェミニは互いに薄笑いを浮かべる。


ジェミニの剣からは光の球体が溢れ出す。槍とぶつかったことによって現れたみたい。

「爆ぜなさい。ヴィルゴ。」

光の球体が次々と連鎖するように爆発する。


「その程度の攻撃では私は…」

「知ってるって。あなたが向かってくるように誘導しただけよ。双光破穿(ツインブラストエクスキューション)Ⅱ。」

左手をヴィルゴの前に構えると、光の粒子のようなものが集まり、高密度の光線を放つ。


今が攻め時みたいね。

「風雷の剣。」

ヴィルゴとジェミニの上から風を纏った巨大な雷が落ちる。


「やば、これ離れないと私も死ぬやつ。あの子、絶対わざとやってるわね。触れて消そうものならヴィルゴにとどめ刺せないし。」

ジェミニはヴィルゴから距離をとった。


風を纏った雷がヴィルゴに直撃する。手応えはあった。けど、多分倒せてない。思った通り、ヴィルゴは全身を風で造った鎧でダメージをほとんど受けていない。流石は上位悪魔といったところね。でも、まだ全力じゃない。


「ねえジェミニ、下がっててくれない?相手がどのくらいの力があるかまだ判断できないんだけど。」

ジェミニは呆れたように私を見る。


「あんたねぇ、状況分かってないの?力とか測ってる暇なんて私たちには…」

「あるよ。私もまだ本気出してないし。それと、やっぱりこの本の精霊と話したいから、少しだけ足止めしといて。」そう言って1冊の魔導書をバックから取り出した。


「この子、私に対する扱い雑すぎ。これでも上位の悪魔なんですけど。」


磨精学園でジャックから渡された魔導書。この魔導書から感じる微かな魔力。やっぱり間違いじゃない。どうしてレイクが欲しがっていたかは分からないけど、この本だけは絶対に渡せなかった。


「ミズハノメ、私に力を貸して。」

改めまして、作者の伊藤睡蓮です。

まだまだ悪魔との戦闘は続きます。次回はいよいよ夏音とジェミニが、ヴィルゴに挑みます。夏音の最後の発言に関しては次回をお楽しみにということで………。正直忘れ去られている感じもありますけど、多分、わかる人には、わかる…………はず。


次回もなるべく早く投稿しますのでお楽しみに

それではまた!

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