心変わり
2キロほどの生肉を平らげたピャーチが膝の上に乗りスヤスヤと寝息を立てている、そんなピャーチを撫でながら出そうなあくびを噛み殺す。
議論は延々と続いていた、
この世界の言葉にも随分慣れたので日常生活に支障はないが所々知らない単語が飛び交う、軍事的な専門用語なんだろう。
それでも大凡の話の流れは掴める、
捜索隊を出すか出さないか、今すぐ助けに行くか様子を見るか。
二次災害は既に起きてしまっている、ミイラ取りがミイラにされてるかも知れない、助けに行ってもミイラが増えるだけかもしれない、白ヤギさんと黒ヤギさんの様にそんな議論がずっと繰り返される、それでも内容は同じだが様々な角度カラアプローチされた意見が止まることなく飛び交う様に感心する。
ノックと共に新たな食事が運ばれて来た
「夕食の用意ができました」
マジが、、、、
時計を見ると18時を回っていた、6時間も経っていたがここに座っていただけなのでちっともお腹が空いてない。
議論をしていた5人は勢い良く平らげていく
頭を使うとお腹が空くのは本当なんだなと、その様を見てまた感心する、
隣に座るシズちゃんと目で共感を取り、入れ直されたお茶で喉を潤した。
クンクンと夕食の匂いに釣られピャーチが目を覚ます、私の太腿に立ちテーブルの上を物色する、言われるがままに食べさせているとすっかり空になってしまった。
肩に抱き抱えると途端私の耳や口を舐めて甘えて来るのがたまらなく愛おしい、
「思えばピャーチのお母さんもこの国にやられた可能性が有るんよね、、、ホント神様、天罰与えてくれないかなぁ」
私の口を舐め続けるピャーチを見つめながら、そんな愚痴を小さく呟いた。
“ガシャン”
キャバさんがコップを落とした、流石に疲れたんだろう。
「失礼しました、トーコ様長々と申し訳有りませんでしたわ、話が纏まりましたら又ご相談させて頂きますわ」
何の意見も出せずに完全空気でしたゴメンナサイ
だけどやっと解放されてホッとした。
夜、バージョンアップから復帰した先生に相談する、
「先生、レーダーとか上手くいった?」
[予想以上に権限が深く、当初予定していたMAPへの敵対表示は勿論、通話機能とも連携して電話帳登録者の位置も表示できるようになりました、最もこの機能はwi-mc圏内である必要があります]
「おぉ凄いやん、私にも魔細胞出来たら楽やのになぁ、、、、」
[女神様が仰っていた通りトーコはこの世界を構成が異なります、魔細胞が発言する可能性は先ず無いでしょう]
「まぁ、分かってるって単なる愚痴やん、そう言えばもう一個機能追加するとか言ってなかった?」
[外部機器との接続ですね、これは私のトーコの視覚、聴覚情報を共有できる機能です、例えば、、、、]
突如目の前にMAP画面が表示される、目の前に表示されているが視界が遮られてるわけではない、なんだこれ?言い換えれば第三の目でMAP画面を見ているというか、直接脳内に映像が投影されているというか、両目から入る情報とは別の視点でMAP画面を見る事ができる、二画面のモニターと見ているような感じだろうか?しかし目線を移動するわけでははないので片一方の画面に注目していてももう一方が疎かになる感覚はない。
「なんなん先生、すんごい気持ち悪いこれ、、、、」
[キモ、、、、、、、、、トーコと私の視覚情報を共有した状態です、同様にトーコの視覚も私に見えています、従来のようにカメラを解して視覚情報を得る必要がなくなりました。]
「おぉ、やってる事は凄いんやろうけど、、、なんか地味やな、、、、」
「私としては逐一外部情報を映像にて得る事ができるので大変ありがたい機能です、それに直接取り出して使う必要がなくなったため、落としたりなくしたりする可能性が減りました」
「うわ、信用無いなぁ、ちゃんとどこかしらに紐繋いでるから無くさへんよ!」
私がどうというよりも先生に恩恵高い機能のようだ、確かに最近は先生かばんに入れっぱなしだったし、、、、。
[もう一点、魔素からの電力供給が可能になりました、魔素袋や魔細胞所持者と繋ぐ事により充電が可能です]
「それありがたいな、太陽光パネルも正直いつ壊れるかヒヤヒヤしてたし。魔素袋、基地に無いか明日聞いてみるわ、、、、、、、、、、、、、、 んでな先生、捜索隊お願いしようかと思うねんけどどうやろ?」
[トーコが参加しないなら、賛同します]
「いやいやいや、言い出してついていかへんとかありえへん!」
[しかし危険です]
「追っ手が何処まで広がってるのか、そもそも追っ手が掛かってるのかも分らへんやろ?
2,3日で合流できるつもりやったのにもう2週間やで、期待してた外の情報が止まってしまった以上動くべきやとおもうんよ」
画面の先生は椅子に座り机に足をかけのけぞる頭でこちらを見ている、態度が悪い、、、かなりご立腹だ、、、、。
「ペルーさんを見つけられたら通話も出来る、そうしたら皆の位置情報も取れるんやろ?
敵対者の詳細位置も詳細に分かるようになったし、回避しながら進めるやん?」
[、、、、、、、、、、、、、、、、]
実際のところ昨日の些細な愚痴のつもりの言葉が引き金になったようで、ドクガ国に対する憤りがどうにも収まらなくなり始めていた。
[捜索隊に同行する形ならば良いでしょう、、、、、]
渋々先生の同意を得る、タブン説得できたわけじゃない。
自分で言っててなんだが穴だらけな理屈なのは理解できている、私の言い出したら聞かない部分を感じ取ってくれたんだろう。
最も捜索隊を断られても一人で行くつもりだ。
どうやって説得するか頭が痛いが、今は捜索隊を編成して貰えるよう説得方法を考えよう。
夜更けまで説得シュミレーションを繰り返し就寝した。
「キャバさん、朝食の後少し時間を貰えません」
翌朝、食前の祈りを終え、キャバさんに伝える
「私もご相談がありましたの、ちょうど良かったですわ」
そう言って快諾してくれた。
食後の祈りを終えて席を立つ、キャバさんに続きいつもの迎賓室に入る。
少し遅れてスパさんがやってきた所で話を始める。
「「えぇと、実は」」
、、、、、、被った、、、、、
目を伏せ両手を差し出し無言で譲るジェスチャー
「コホンッ、それでは失礼しまして、実は捜索隊を編成する事になりました、つきましてはトーコ様に捜索隊に加わって頂けないかとお願いしたいのですわ」
「あぁ、それは是非こちらからもお願いします」
「仰ることはごもっともなのですが、、、、えっ???
宜しいのですか?????」
「えぇ、私からの話もそれをお願いしようと思ってましたので」
「まぁ、良かったですわ、、、どの様にお願いしようとずっと悩んでおりました」
なんとしても同行させようとしていたのは先ほどのずれた回答から伺えた、
普段の私の言動からすれば予想外だろう、自分でもそう思う。
昨晩の努力が完全に無駄になってしまったが、一人で行く事を先生に説得する事に比べれば些細な事だ、有り難い肩透かしだった。
夜になり、志願兵の基地内での役割を補填する調整等から始まり、捜索隊の指針などが共有された。
早速魔力袋が無いか聞いてみたが、この基地には無いらしい。
考えてみれば魔細胞所持者が居ないんだ、充電できない電池を当てにして生活はしないだろう。
活動的というか無頓着と言うかなんというか、キャバさんも普通に捜索隊に参加している、
出合った時のことを思えば十分な戦力なんだろうけど、この基地の最高責任者だった気がするのは勘違いだったんだろうか?
それで良いのか姫様???




