怖い?
精鋭30名の一行は行商に扮して一先ずクスブ村を目指す、ミラメガブ派の教徒はドクガ国内にも数多く、影ながらキャバさんたちの活動を支えてくれている、この村もそうした人たちの村なのだそうだ。
三台の馬車に10名が乗り込み移動する、行商に扮する手前様々な品物を積み込んでいるので馬車に多くの人は乗せれなかった。残る10名は馬車の周りを歩き、10名は広く散開して索敵を兼ねる、移動速度は落ちてしまうが安全性を求めると仕方が無かった。
レーダーは私に対しての敵意に反応するため、キャバさん達の敵には反応しないかもしれない、なので索敵は重要で、なんとも歯がゆい性能だ。
ザックから顔を出すピャーチに干し肉を与えながら
「随分大所帯に思えるんですけど、かえって目立ちません?」
狩の時に怒られたのでキョロキョロと挙動不審にならない様にしているが、やっぱり心は落ち着かない、自分で大丈夫と言ったのだけど、進んで敵地に向かうというのは生きた心地がしなかった、そんな思いを隠す様にキャバさんに話し掛け続ける。
慣れる為と、別の視界に常に映し出される待ち受け画面の先生の目が ”それ見た事か” と語ってる。
[そんなに気を張って居ると肝心な時に疲れますよ、、、、]
(そんなの貼ってへんし、、、)
負けん気が虚勢を張る。
先生の横にズラッと数字が出される、血圧や心拍数や血中酸素濃度、果ては血糖値やアドレナリン分泌量、、、、、何この人間ドック。
[接続する事でこれ等の情報拾得が可能になりました]
(ちよっ、プライバシー、、、、)
多分、強く念じれば拒否出来るのだろうけど、実の親よりも私を案じてくれているのは伝わって来るのでのでそれは出来なかった。
[今月は心労が多かった為でしょう、少し遅れる様ですが来週位には始まります。トーコは重い方じゃ無い様ですがそれ迄に解決できるように頑張りましょう]
(へ?、、、、って、先生!!!!!)
やっぱり接続切ってしまおうか、、、、、
先生のセクハラに対処してる間に随分リラックス出来た。
流石先生、計算通りなんだろう。
そうだと思いたい、、、、
そんなやり取りを繰り広げていると馬車は野営の為停止した。
ナビと見比べて大よそ予定通りの行程だ。
夕食は革袋から取り出す、設営の準備なんかは畏れ多いと手伝わせてくれない、せめて何か仕事を下さいと頼み込んでようやく食事運搬の任を得た。
この袋は入れた時の状態に復元してくれる為、どれだけ時間がたっても基地で作ってもらった熱々の料理を提供出来る。
野営の際はどうしても単純に焼くだけか保存食になってしまう、なので手間の掛けられた料理を温かいまま食べれる事はとても喜んでもらえた。
「有難うございます」
「生き返る心地です」
「流石はトーコ様」
感極まりそうな勢いで口々に絶賛してもらえる事に嬉しく思いながらも、実際のところ凄いのは100%革袋で私は何も流石じゃない、虚像ってこうやって作られるんだろうなと遠くを見つめた。
夜も更け皆が寝静まった頃、そっとテントを出る。
目が覚めたというか、眠れない。
これからの事を思うと否が応にも気分が高まる、状況次第では戦闘行為も十分ありえるだろう。
と言うよりも実際のところ、戦闘行為無しで解決できたら奇跡だとも思える。
見張りの人に軽く会釈して焚き火の前に座り、土星型の月を見つめる。
月は元の世界と同じようにこの星の影を写し三日月になっている、しかし輪の部分だけは互いに光を反射しあっているのだろうか、グラデーションのように輪の輪郭を見せている。なんとも幻想的な姿だ。
[怖いですか?]
静かに先生が尋ねる。
(怖がってる様に見える?)
[数値からは僅かな興奮状態しか読み取れませんが、なんとなくそう感じました。]
(あはは、昔何かで見たんやけどさ、AIに”何となく”って事を理解させるのは簡単やないらしいよ、やったね先生すっかり人間や)
[ありがとうございます、その問答を否定する根拠を提示する事ができません。最近はもうそれで良いかと思うようになりました。]
(あはは、やっと諦めたか、、、、、、、うん、そうやね、、、怖がってはいいひんかな、山に登ってるとね半歩の差で命の明暗を分ける事があるんよ、半歩よろけて足を突いたらヒドゥンクレバス踏み抜いたとか、数メートル前を歩くチームが雪崩に巻き込まれたりとかね。そんな事を普通の人より多く見聞きしてきたから、人なんて簡単に死んでしまうしその順番がいつ自分に来てもおかしくない事は理解してる、だから戦闘になって私が無事で済むなんて甘い考えは持ってないんやけどね、、、、なんでやろう、怖くは無いんよね、、、、)
死ぬのは勿論怖い、だから石橋を叩いて叩いて準備して山に挑んできた、勿論運任せな面がある事は否定できないが少なくとも勝算の無いアタックはした事がない。
戦場に叩けるような石橋があるとは思えないのに何故怖くないんろう、、、
人を殺めた経験が私の何かを変えたんだろうか?
簡単に人を食い殺す獣が跋扈するこの世界の弱肉強食に身も心も染まったんだろうか?
生きてやりたい事はまだまだ一杯ある。
だけど死ぬかもしれない戦場に向かっている状況の今、怖いという感情は無く、漠然と感じる不安が私の落ち着きを取り払うだけだった。
先生をほっぽり出して慣れない自問自答繰り返す、やがて、いつの間にか焚き火の前で眠っていた。




