バルザヤ
「ごめん、、、、、見つかった。」
「大丈夫、頃合です」
スパニエルさんが弩を構えながら呟いた。
庇ってくれた、今までずっと睨まれていたのに。
やっぱり目が悪いだけなんだろう。
高感度UP、良い人だ、
チラリとスパさんに視線を送った瞬間矢が放たれた。
”ギャウン” と声を上げ一瞬足をとめるも、胸から矢を生やしたまま再度向かってくる森狼、
再び放たれた矢が口内から頭を貫きようやく倒れた。
うん、視力はよさそうだ、、、、、、、、、、、。
その気配に半数の森狼が振り向き、こちらに向けて散開し移動を始めた。
スパさんの弩には2本の弓が張られていて其々矢を発射出来るようになっている、5~6秒で再装填し次々に矢を放っているが、木々を盾にしながらジグザグに走る森狼を捕らえるのは難しそうだ、放つ矢ほどに成果は出ていない。
「奴らの脅威はあの反射速度です」
私とシズちゃんキャバさんを庇うように立ちながらキングさんが説明してくれる、
「スパニエルの弓も相当強いのですが、それでもあの程度の速度では奴らは見てからかわします。
そのため、遠距離攻撃の場合1本目を牽制に使い2本目で回避予定地を先読みして攻撃する必要があります。近距離の場合は奴らの攻撃を先に受けその隙を突いて反撃するしか術がありません。」
そんな説明を受けて改めて見ると確かに弓が撃たれた後に動いているようだ、後に続く森狼を見てみれば最短距離で走ってきている、そんなギャンブルに近い攻撃方法にもかかわらず4本に1本は当てているスパさんには予知能力でもあるんじゃなかろうか、、、、。
森狼たちの動き自体は異常に早い訳ではない、昔、警察犬のデモンストレーションを見た動きと大差ないように思える、しかしその身のこなしは別次元で前や後ろや横に宙返りし、跳んだ先の木々を蹴って翻弄する、そんな動きから繰り出される牙と爪と鎌の攻撃は私の目では負う事が出来ない。
戦っている姿を見ているだけで目が回りそうな私はさておいて、皆は危なげなく的確に対処し倒していっている、
10分ほどで負傷者も出さずに撃退した。
残る半数はまだ仲間がやられた事にも気付かず、何かと戦っているようだ。
皆に断りを入れ数歩前に出る、サイレンサーを外し森狼の足元を狙い単発で3連射、”バンバンバン”と銃声が響く。
森狼が飛び退くと同時に後ろの皆も飛び退いた、、、、。
狼たちは何か相談するかのように顔を見合わせ、そのまま走り去っていった
引いてくれたようだ。
「ト、トーコ様、、、今のは雷の魔法か何かでしょうか」
尻餅をついてる人やへたり込む人、木々の陰に隠れている人をみて頬をかく、、、、
「ごめんなさい、、、コレが私の武器です、、、、音は小さくも出来ますが、今は威嚇のため音が出るようにしました、強力な弓矢みたいな物です」
その言葉を聴いてスパさんの目つきが又険しくなった、、、、
森狼達が何と戦っていたのか確かめるため、ソロソロと足を進める。
レーダーには何の反応も無いので逃げたのかもしれないが、森狼の死骸を回収する必要もある。
木々の隙間に大きな赤い物が見えた、刺激しないようソロソロと全体像が見える位置まで進む、
赤い物体は所々白の混じった赤い毛の生き物だ、数匹の森狼の死体の側で体を伏せて小さな黒い毛玉を舐めている、
黒い毛玉も動いている、子供だろうか?
”カサッ”
誰かが擦れた草の音に耳を動かし、黒い毛玉を庇いながらゆっくりと立ち上がる。
「ボルゾイや!」
「バルザヤだと?!」
思わず叫んでしまった私に、被せる様にスパさんが叫んだ。
ボルゾイやでボルゾイ、私は4匹飼っていたのだから間違うはずが無い。
ちょっと体が大きくて立ち上がったら大型バイク位ありそうだけど、あの目あの顔あの体つきはボルゾイだ。
隣ではスパさんが
「何故バルザヤがこんなところに、、、、、」
今にも逃げ出しそうな程真っ青になりながら呟いている。
いや、だからボルゾイやって、知ってる?ボルゾイ。
ロシア生まれの狼狩のために改良された犬種なんよ、かっこいいんよ。
ぐるりとあたり見回したボルゾイの視線が私で止まる、
ジッと二人見詰め合う。
やばい、
めさでっかい、
めっさかわいい、
めっちゃ頭よさそうな顔やん、
触りたい、触らしてくれへんやろか?
両手を広げ無害をアピール、おいでおいでと小声で呟く。
見定めるように構えていたボルゾイが、一歩近づく。
その瞬間ガタガタと音が聞こえそうなほど震えながらも私を庇おうと前に出て構えるキングさんとスパさんを制止し更に前に出る。
(先生大丈夫やんね?)
[敵対表示にはなっていませんが十分気をつけてください]
なら大丈夫、ボルゾイに悪いボルゾイは居ない。
私を庇うように前に立つ二人を制止してゆっくりと歩み寄る、手を伸ばせば鼻先に触れそうな距離で足を止め両拳を握りゆっくり前に突き出す、先ずは臭いを嗅いで安心してもうのが礼儀だ。
拳に鼻先が近づいてくる、かと思うとそのまま通り過ぎて足元に寄り添う黒い毛玉を咥え、そして私の両手の上にそっと添えた。
「子供、、、さわっていいの?」
破格の待遇に伺いを立てる。
頷くようにゆっくりと目を閉じ開く。
そっと受け取る、サラサラの毛並みの真っ黒な子ボルゾイだ、
暖かい。
親ボルゾイは優しく子ボルゾイを舐めている、両手の上で『キャウンキャウン』と嬉しそうに子ボルゾイが鳴いている。
ひとしきり子ボルゾイの毛並みを整えた親ボルゾイは私に目を移す、
何かを強く訴えるような瞳でじっと見つめられる。
親ボルゾイは数秒の緊張で満足したのか、顔を近づけて私の鼻先をペロンと舐め、、、、、、
そのまま地面に倒れた。
何事かと子ボルゾイを地面に降ろし、親ボルゾイの体を触る、
”ヌチャリ”と長い毛が指に絡む。
毛を掻き分けて良く見れば深い切り傷から今もなお血が流れ出ている、
乾く事無く流れる血が鮮やかな赤を維持していた。
探ってみれば全身切り傷だらけだ、どれもこれも浅くはなさそうだ。
白い毛が赤く染まっていた。
慌てて傷口を塞ぐが手が足りない、恐れる皆に頼み込み手を貸してもらうが血は止まらない。
力なく呼吸すらままならないにも拘らず尻尾を動かし、じゃれつく子ボルゾイをあやしている。
胸の動きはもう確認できない、口元に耳を当ててようやく感じるほどに息が弱まっていた。
それでも尻尾だけは動かし続ける。
やがて尻尾は子ボルゾイを包んだ。
最後の感触を噛締めるようにゆっくりと優しく包み込む。
子ボルゾイが包まれた尻尾から脱出するべく顔を出したとき、尻尾はふわりと脱力した。
動かなくなった親ボルゾイの尻尾に何の疑問も持たずじゃれ付き続ける子ボルゾイをみて涙が溢れ出た。
水筒と干し肉をキャバさんに渡し、子ボルゾイを預ける、
私はエジメイ草栽培計画のために買い揃えていたスコップを持って穴を掘る。
縁も所縁も無い出逢ったばかりの犬だけど、元の世界に置いてきたあの子達と被ってしまい一度流れ出した涙を止める事が出来ない、初めは何をしているのか解らないといった顔だった皆も次第に石や木や自分の武器を使い手伝ってくれた。
1時間ほどで血豆ができ、直ぐに潰れた、「後はお任せください」そう言って兵士の方が代わってくれた。
「これを見てください」
兵の人にそういわれて見ると、親ボルゾイの後ろ足が片側酷く焼けただれていた。
「本来、バルザヤは子連れだったとしても森狼の群れの一つや二つで倒せる相手ではありません、
この火傷は魔法に寄るものでしょう、この負傷のため満足に動けなかったのだと思います。」
キャバさんの操る干し肉に何度も飛びつく子ボルゾイを横目に見ながら、親ボルゾイから毛を切り取り小さなミサンガを作る、この子が大きくなったら渡してあげよう。
流石は鍛えられた筋肉達だ、十分な道具も無いのに2時間ほどで3メーター程の深さの穴を掘ってくれた。
親ボルゾイを穴に運ぶ、最後の別れと子ボルゾイを抱きかかえ見せるがどうにも解ってない様だ、
しきりに私の顔を舐めている。
数人の兵士の方が
「掘り起こされにくくなるでしょう」
とミント様な臭いの強い葉を集め親ボルゾイの上にかけてくれた。
流石に砂をかける所は見せたくない、後を皆にお願いして子ボルゾイと共にその場を離れた。




