子ボルゾイ
パチパチと弾ける焚き火を眺めながら膝の上で眠る子ボルゾイの背中をなぜる。
皆は野営の準備をしたり、森狼を解体したりと忙しそうだ、そんな中キャバさんが静かに横に腰掛ける。
「トーコ様、お気持ちは解りますがバルザヤの子を連れ帰る訳にはいきませんわ」
バルザヤと呼ばれる生き物は大型竜種と並び”特殊指定危険生物”に指定されてるそうだ。
個体数は多くなく、この大陸には多くて10匹程度だと推測されている。
全長は大きくても3メートル程、ライオン位の大きさだ。それが何故体長20メートルを超える大型の竜種と同列で危険なのか、第一の特徴は姿を消す、第二に触れれば致命傷を受ける打撃力、第三には衝撃波を飛ばし広範囲に遠距離ダメージを与える事も可能であるという。
先生の情報によると全力で走った場合5秒程で音速を超えることが出来るためソニックブームを操っているのだろうとの事だ。
勿論そんな速度は長く維持できないがそれでも30秒程度は走れるらしい、
単純計算1秒間に240km/h加速出来るのだから人の目には消えたように見えるだろう、そしてその加速を生み出す脚力は大型竜種にすら致命傷を与えるという。
キャバさんの説明は更に続く、
史実としてバルザヤの子を調教目論み攫った国が2匹の親に襲撃され滅亡している、因みにその滅亡した国跡は現在もバルザヤの主な生息地となっていて立ち入り禁止だ。
縄張り内に入り込み無事戻れた者は殆ど居ないという。
更に大前提としてバルザヤに限らず、この世界の大型雑食及び肉食動物はたとえ赤子から育てたとしても消して懐かない、”バロゾース”と呼ばれる馬種の中では一番小型の馬と”マリザザル”というアルマジロ種だけが先人の犠牲の下、なんとか調教技術を確立できたに過ぎない、その手段すらも完全ではなく事故は後を絶たないそうだ。
そんな状況下でこの危険な生物が大きく育ち、コントロールから外れたら、、、、、?
言わんとすることは大いに理解できるし気持ちも分かる、、、、、、
でも、、、、、、、
「ごめんキャバリアさん、それでもやっぱりこの子は私が育てたいです。見たでしょ?あの親の行動、私には託されたとしか思えません、とはいえ皆さんの危惧も解ります、一度戻ったら置いてきた私物だけ回収して出て行きますので安心してください。」
「そんな訳にはいけませんわ、兄に怒られてしまいます。それともどこか当てがございまして?」
「いやぁ、流石に当てはありませんけど、最悪はこの子の仲間の生息地まで行って放そうかと思ってますけど、、、、、、」
「それも不可能ですわ、国境を越える為にはシャンク共和国と繋がる南の谷かバンヒルス王国と繋がる東の谷しかありません、東の国境は南ほど厳重な警備ではありませんが、たとえ国境を抜けてもバンヒルス王国はドクガ国の親密な同盟国です、手配の手が緩むことはありませんわ。
縦んばバンヒルス王国をも抜けたとしてもルイニー帝国まで2ヶ月の道のり、バルザヤが成獣になるのは十分な時間です、危険には変わりありませんわ」
「いや、バイクとかあるし結構早くいけると思いますよ、乗ったキャバリアさんならあの速さ解るでしょ?」
「特殊な液体がないと長くは走れないと仰ってましたわ、そしてそれを買うには魔細胞所持者近づく必要があるとも、街に近づけない状況でどうされるのですか」
ギャフンちくしょう、、、、、ああ言えばこう言う、、、、、酒の勢いで色々話し過ぎた。
キャバさんの言うことは全て正しいのだけど私だって譲れない、、、、、、。
互いに平行線を辿る、
キャバさんは守るべき同胞を危険に晒す訳にいかない、かといって私を投出すのもいい気はしない。
私は既に元の世界に置いて来てしまった4匹の犬たちと被せて見てしまっている、あの子達を置いてきた以上この子まで放置は出来ない、、、、、、それに一応勝算はあるつもりだ、
あの時の親ボルゾイは一瞬たりとも敵意をむき出す事は無かった、先生にログを見てもらい確認済みだ。
子供を守って抵抗も出来ずに傷を負っていた、そんな状況で現れた新たな存在に一時も敵意を出さずにいるなんて野生動物には不可能だし、良く躾された犬でも無理だろう、更に言えば人でも警戒し殺気を飛ばすだろう。
つまるところ私はあの親ボルゾイが相当頭が良いとふんでいる、私よりは賢いだろう、あの状況を理解し更には私たちの顔色まで読まなくては出来ない芸当だと思える、心を読めると言われても驚かない。
そんな生き物だとしたら、きっと共存は可能なはずだ。
[それは勝算とは言いません、、、、、、]
(先生五月蝿いし、、、、、それよりバルザヤの知能とかの情報無いの、、、?)
[該当情報は見当たりません]
(、、、、、、先生の全知って、なんか百科事典みたいやね、、、、広く、浅く、、、みたいな、、、、、)
[深い情報は深い階層にあるためまだ探し出せていない可能性を信じて情報整理を継続してますが、、、、、正直私も期待ハズレ感が、、、、、]
(、、、、、、、、、、、、、)
気がつけば皆其々の仕事を終え焚き火の周りに集まり私たちの終わり無き言い合いを観覧している、同時に同一内容での討論も始まっていた。
そんな熱に押されて私とキャバさんは何時のまにか聞く側に回ってた、
皆の討論は激しさを増す。
そして私とキャバさんは手を引かれ焚き火を挟んで対峙するように座らされた、
そしてその背後に並ぶ各々の賛同者、、、、、
テレビで見たことある奴だ、、、、、、
キャバさん10:6私 で始まったこの戦い
私の味方してくれる人が6人も居る事に驚愕する。
素直に嬉しい。
キャバさん側は統計的な数字を持ち出し理論的に危険性を指摘する、
私の側は愛を説き情に訴えかけるようだ。
12:4と追い詰められ9:7と盛り返す、
皆の言葉は出尽くして、支持率は8:8と真っ二つに分かれる
愛を取るか実利を取るか、知恵と感情がある限りどんな世界でも共通の課題なんだろう。
でも、半数の人が感情重視で判断してくれている暖かさに感動する。
沈黙からやがて、終始中立位置に座るキングさんに皆の視線が集まる。
初めから一言も意見せず、じっと成り行きを見守るようだった。
「、、、、、、女神の為に使わされた光の使途、光の粒になり敵を貫く獣。バルザヤに似てると思いませんか?」
そんなキングさんの言葉に周囲がざわつく。
「僕はトーコ様とあの親バルザヤのやり取りを見て奇跡を感じました。
トーコ様が我々の世界に光臨された事も、
バルザヤにこの様なところにで出会う事も、
ましてや我が子を人の手に託すなんて、
誰に言っても信じて貰えないような、あり得ない事じゃ無いでしょうか」
「確かに、一つ一つが偶然だとしても一連の流れを見れば奇跡と言えるかもしれないな、、、、」
「そこの女神様の意思が存在しているのなら我々の常識の範疇で判断する事はできないぞ」
「そうだ、何よりトーコ様のご意見だ、我々はそれに傅きお助けすれば良いのではないか」
周囲は再び混雑し意見が飛び交う。
なんだか異常に私を持ち上げてる人がいるが今はそっとしておく。
流れ的には子ボルゾイ養護の方向に向いている様なので助かるが、
理屈も感情も飛び越して神様次第で話が纏ろうとしているのだから、皆信心深いのだなと感心する。
信仰心も情の一部なのだろうし私が言えた義理ではないんだろうけど、皆それでいいのかと思わないでもない、、、、、
私は女神の意思なんて聞いてへんし、傅かれるような存在になった覚えも無い、、、、
そう言って叫びたいが正直私一人で逃亡生活出来る自信は皆無だ、、、、、、
自分の小心加減に悪態をつきながら流れに身を任せる。
取り合えずあれだ、躾だけはしっかりしよう。




