第一章:穏やかな朝
高校二年 春−
「涼〜♪慶〜♪
見て〜桜もう咲いてるよ〜!」
始業式の朝
通学路には桜が満開に咲いていた。
でも俺達にとっては見慣れた景色。
なのに、葉月ときたら・・
「あ〜すごいね〜・・。」
「涼!何そのど〜でもよさげな態度は!
桜が泣いてるよ!?」
やっぱこいつバカだ。
桜は泣くんじゃねぇ、
散るんだよ。
しかも・・慶なんか答えるのも面倒くさいのか
聞こえないフリしてるし
俺だって朝っぱらから 葉月に付き合うのも嫌だけど、どっちかが相手にしないとうるさいしな〜。
でもなんだかんだ言っても可愛いいんだよな〜
葉月は。
小さな時から生き物に優しい目を向けて、花が咲く事に喜びを感じ、
動物が亡くなると涙を流し悲しむ。
そんな当たり前の事ができる葉月を羨ましく思ったりもした。
いつからだろう・・
葉月を幼なじみとしてではなく、゛女゛として見るようになったのは・・・
きっとあの雨の日からだろう・・・
中学の時小さい時から飼っていた葉月の犬が突然いなくなった日。
葉月は必死で走り回って探し、結局見つけた時にはストレスの溜まった学生らしき男に殴り殺されてぐったりしている所だった。
もちろん男は逃げ出し、犬のミルクは血まみれで死んでいた。
その頃俺は葉月を探していた。
その時、近所の公園あたりで犬を抱えながら
フラフラと歩いた葉月を見つけ駆け寄った。
葉月は俺を見るなり泣き崩れ、雨に濡れ、俺にしがみついた。
そんな葉月を見て俺は自分の感情に戸惑いを感じていた。
悲しいはずなのに、すごく葉月にキスをしたくて、壊れるくらい抱きしめたい衝動に駆られていた。
もちろんそんな事はしなかった・・。
葉月に軽蔑されたくなかったから。
それにそんな勇気もなかったし・・・




