表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/20

いや、あの…善意だったんです。本当です。

「はあ、疲れた」


 凝り固まった肩を回しながら、私は大きな溜息を吐いた。

 季節は4月。保育士にとって大忙しの時期だ。

 たくさんの園児たちに慕われるのは嬉しいけど、最近は5月のこどもの日の準備に追われて毎日残業だ。


「子供は可愛いだけどな」


 一癖二癖ある保護者に、嫌味な先輩。

 自分が選んだ道ではあるけど、子供に関わるだけが仕事ではない。取り巻く大人の事情が一番疲れる。まあ、それも子供たちの笑顔で帳消しになれるのだから、私は単純なのかもしれない。


「早く家に帰って小説の続き読みたいな」


 私の楽しみのひとつに、ネット小説がある。

 今の時代はプラットフォームがあるから便利だ。昔なんて個人サイトを探していたんだから、その時間の余裕を読書に使えるのはありがたい。


「どんな展開が待ってるのかしら」


 スマホをスワイプして、ブックマークを開く。

 今ハマっているのは、異世界転移物。聖女として召喚された女性が、王子様や騎士、見目麗しい男性たちに囲まれて学園生活を謳歌する恋愛ストーリだ。


「やっぱり、異世界ものって夢があっていいのよね。みんな可愛いし、頑張れって思っちゃう」


 アラサー女の潤いが子供と恋愛小説なんて、ちょっと淋しい気もするけれど、時間のない私にとっては最高の趣味だと思っている。


 スマホを見ながら歩いていると、前からやってきた女の子とすれ違う。

 短いスカートにブレザー。キラキラ眩しい女子高生だ。

 今では懐かしいその姿に、自分の老いを感じながらも、微笑ましい気持ちだ。


(暗いんだから、早く帰りなさいね)


 こういうところが老人臭い。


(今、20時だから、部活か遊び帰りかな?)


 自分の過去を思い出して、暗くなった周囲に目を配る。もし女子高生を狙った不埒なヤツがいたら容赦しない。

 鋭い目つきで周りを見渡すが、どうやら不審者はいないようだ。


(良かった)


 ホッとしたのも束の間、すぐ後ろから「キャッ!」と小さな悲鳴が耳に響いた。

 思考する間もなく、バッと振り返る。


「やだ、なにこれ!」

「え!?」


 女の子の足元に円形の光が煌々と輝いており、どうみても普通の状態ではない。

 女の子は、恐怖と戸惑いか、円から出れないようで助けの悲鳴も上げられない。

 胸に迫る不快な気持ちに立ち止まることなんて出来ず、私は彼女へ走り出した。

 こう見えて瞬発力には自信がある。

 大きく一歩を踏み出し、女性高生に手を伸ばした。


「掴まって!」


 私を見た女の子は、助けを求めるように躊躇いなく手を掴む。このまま不気味な円から引き寄せればいい。

 そう思って、ギュッと繋いだ手に力を入れる。しかしその瞬間、円から吹き出すような光が、一層輝く。


「なに?!」


 足元を光に絡め取られ、引き下ろされる感覚。とてもじゃないが、心地良いとは思えない現象を、女の子も恐怖しているのか私の手が白くなるほど握っている。


「きゃあ!」


 全身が光に包まれ、一瞬の浮遊。

 暗闇の街角で、私は消えた。



読んでくださりありがとうございます。

ブクマに追加、評価を頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ