051_山脈の主たち4 闇龍と光龍
闇龍はいつものように洞窟内の見回りを終えたところだった。
異常はなし。
少し前まで、召喚したモンスターやドラゴンが何者かに倒されて激減するという事態が発生し、その時は軽いパニックになった。
倒されたモンスターとドラゴンを補充するために、光龍と二人で懸命に召喚し続けた。
今は安定している。
もう倒されて数が減るということもなくなった。
侵入者は諦めてどこかへ行ってしまったのだ。
でもまだ予断は許さない。
みんなを守るためにも、より強いモンスターを召喚できるようにならなければならない。
洞窟から逃げた人間たちが、もっと大勢で攻めてくるかもしれないからだ。
居住区に戻って来ると、そこには何匹かの光龍と、闇龍がいた。
みな小さな7歳から10歳くらいの子どもで、全員人型をしていた。
その中で、15歳くらいの個体が2人。
今さっき戻ってきた闇龍と、子どもたちの面倒を見ていた光龍である。
彼らは親を持たない。
気付いたらそこにいて、暫く経ってから、自分が発生したという事実にようやく気付いた。
召喚主や魔法陣なども見当たらないことから、自然発生したと思われる。
親はいないし、面倒を見てくれる者もいない。
生きていく術さえ知らない。
だから彼らは、生まれた場所であるこの洞窟から外に出ない。
数年するとレベルアップしなくても人型になることができる。
これが闇と光を司る、上位龍たる所以である。
彼らは生まれてからずっと洞窟に住んでいるので、この洞窟が彼らの家であり、故郷だった。
そこに侵入者が来ないよう、来ても撃退できるように毎日たくさんのモンスターを召喚させていた。
火竜や地竜など。
果てはアンデットまで。
それらの召喚モンスターを迎撃用にして洞窟に配置し、侵入者を撃退していた。
それでずっと安寧を保ってきたのだが、つい2週間前まで地獄だった。
侵入者に大量のモンスターが簡単にやられてしまった。
今までずっと寄り付いてこなかった人間たちが、ここを探索している。
見つからないように洞窟内で最も安全な場所を求めて住居を何度か変えた。
いつ人間に見つかるかわからないという恐怖。
倒されたモンスターたちのように、自分たちも退治されてしまうのではないか。
そんな不安に駆られていた。
疲労も溜まっていた。
食料も心もとない。
食べなくても活動できるが、それでも月に1度は洞窟の外で獲物を取って来なければならない。
洞窟の外には他の竜もいて、そこは彼らの縄張りなのだ。
だから外に出るのは、必要最小限で、できる限り短い時間でなくてはならなかった。
「異常はなかったぞ。倒されたモンスターやドラゴンはいなかった」
「お疲れ様。もう敵の侵入は無いのかな」
「分からない。強い敵が来くるかもしれない。もっと大勢で」
「だよね。僕たち、これからどうなるのかな」
「どうしようもないさ。これまで通り、みんなでここで暮らしていこう」
「そうだね」
ラシル達が訪れたのは、そんな中だった。
龍たちの運命が大きく動き出す。
「!!!」
年長の闇龍と光龍は、その気配を感じた。
警戒しすぎて、気配にとても敏感になっていたから気付けたのかもしれなかった。
どうやってか、何物かが近くに現れたのだ。
数は5人。
どうやら人間のようだ。
そしてこっちに向かってくる。
「やばい」
「この奥は行き止まりだ」
「迎撃する?」
そういう会話を始めた時、闇龍は違和感を感じた。
この近くには召喚モンスターなどは配置していなかった。
もっと入口のほうに重点的に置いたためだ。
俺たちを攻撃するなら、俺たちの目の前に出現することもできたのではないか。
不意を打つように。
それに敵意が感じられないし、こちらにやって来るスピードもゆっくりだった。
普通の、それこそ散歩するような速度。
闇龍と光龍は他の子供たちを奥の方に匿う。
でもここは最奥なので、そもそも逃げ場はない。
緊張が極限に達する。
そして5人は現れた。
5人のうち2人は奇妙な恰好をしていた。
人間をほとんど見たことが無い闇龍と光龍でさえそう思ってしまったので、それは本当にヘンテコな恰好だった。
「来るな!!」
「これ以上近づくな!!」
刺激をしないようにラシル達は止まった。
「君たちに襲い掛かったり、傷つけたりするつもりはない」
「嘘だ!!」
闇龍が叫ぶ。
「僕たちをどうする気だ!!」
光龍が叫ぶ。
「まさか、捕まえるつもりだな!」
「僕たちを食べるつもりか!」
ラシルは頭を抱えたくなった。
最後の2人の龍の居場所を発見できた。
そして2人一緒にいたので、これがこの旅の最後となる。
それに既に人型になっている龍たち。
レアな存在だった。
どちらも男の子だった。
将来イケメンになるだろう。
闇龍のほうは眼光が鋭く、ちょっとワイルドな感じ。
光龍のほうは女性の母性本能をくすぐるような、可愛らしい男の子だった。
しかし。
「話をしに来た」
「嘘だ!!」と、また闇龍が叫ぶ。
元気がいい。
思い込みが激しい。
そして人の話を聞かない。
龍たちはどうやらこの洞窟内で自然発生したらしく、親の存在が無かった。
子どもたちだけだった。
セシュレーヌも彼らの扱いに途方に暮れているようだ。
「君たちは何どうしたら話を聞いてくれるんだ?」
「騙されないぞ」
「話なんて聞かないさ!」
ふむ。
人は不機嫌な時にはいくつか理由がある。
例えば、寒くて、疲れていて、お腹が減っているとき、必ず人はイライラしている。
寒そうには見えない。
多少疲れてはいるだろう。
では最後か。
アイテムボックスの中からバスケットに入ったサンドウィッチを取り出す。
アイテムボックスはそのまま時間を止めたように保存されるので、作られた料理をいつでも食べられるように、大量に保存している。
そのうちの1つだった。
「ほら」
近づいて行くのは彼等を刺激しすぎるから、バスケットを浮遊させて送る。
「なんだそれは!」
「罠か!!」
バスケットから良い匂いが辺りに立ち込める。
「それをしまえ!!」
ぐぅー
ぐぅーーー
ぐぅーーーーーー
龍たちのお腹が大合唱した。
「いいから食べろ、そして落ち着け」
奥から顔を見せた、小さい光龍の女の子が、我慢できずにバスケットに走り出す。
「こら!!」
闇龍の制止を聞かずに、サンドウィッチを頬張る。
「美味しい!!」
残りの子たちも奥から出てきて、サンドウィッチ目がけて走っていく。
バスケットには次から次に手が伸びてきて、沢山の小さな口がかぶりつく。
「無くなるぞ?」
「う、うるさい」
ぐぅー。
またお腹が生った音がした。
あと食べていないのは年長の闇龍と光龍のみになった。
「ほら、ステーキもあるぞ」
アイテムボックスから一口サイズに切られたステーキを何皿か出して、食べやすいように爪楊枝を指して差し出す。
龍の子どもたちは肉の美味しさに目を輝かせて喜んでいる
「くっ……」
「毒とか入ってないから」
「本当だな?」
「あぁ、本当だ」
闇龍と光龍は恐る恐るバスケットに手を伸ばす。
手に取ったはいいものの、まだ食べるかどうか迷っているようだ。
先に動いたのは光龍のほうだった。
「ん!!!」
サンドウィッチを一瞬にして平らげた光龍は、肉にも手を出した。
「ちくしょう!!」
闇龍もサンドウィッチを一口。
そこから猛烈なスピードで食べる。
パンと肉を交互に頬張る。
ジュース出して、飲ませる。
「ま、まさかお前、いい人か?」
闇龍がなんか言っている。
子どもたちがひとしきり食べ終え、お腹も満たされたところで、いよいよこっちのターンだ。
「はい、それではそろそろおじさんたちは帰ろうと思います」
小さい龍たちがみんな悲しそうな眼をしている。
今まで食べたどんな食べ物よりも美味しかったのだろう。
皿も綺麗に舐めつくされていた。
「帰っちゃうの~?」
最初にサンドウィッチに走ってきた女の子だ。
「そろそろ家に帰る時間だからね。おじさんの家は安全で、快適で美味しい食べ物もいっぱいあるんだ」
「ふ~ん」
女の子が悲しそうにしている。
「じゃあ、おじさんに付いてくる人!!」
「はい!!!」
みんながけ元気よく手を挙げた。
年長の闇龍と光龍までもが目をそらしながらも手を上げていた。
勝った。
ちょろいな。
連れ去る前に説明した。
配下になってほしいこと。
ギルドの仲間になれば、毎日美味しいご飯が食べられること。
仕事はとりあえず強くなること。
強くなって大きくなってからやりたいことを見つければいいこと。
安全は保障すること。
などだ。
説明を終えると子どもたちは目をキラキラさせていた。
年長の二人は少し逡巡していたようだが、ヘルメットを外したうちの闇龍と光龍と話し、信じることにしたようだ。
うちの闇龍と光龍が同族だと明かすと、みんな泣き出して抱き着いた。
これまで同族の大人がいなくてとても心細かったようだ。
というわけで、子どもたちは竜王城まで連れていき、闇龍と光龍が責任を持って面倒を見ることになった。
龍王城の会議室でワールドマップを確認した。
洞窟と山脈地帯の攻略により、ワールドマップの規模が広がっていた。
闇龍と光龍が進化の種を食べて、正式に仲間になったのが反映されたらしい。
洞窟は地上にそびえる山脈の地下に蜘蛛の巣状に南北に広がっていた。
北側の出口は禁城付近。
そこから山脈を潜るようにして南まで。
因みに、広大な山脈の中心にセシュレーヌの拠点があった。
そこからずっと南下していくとベッフィーの拠点がある。
そのさらに南東にエアノワリスの拠点。
禁城の西の森の先にはロメリアの拠点。
さらにそこから南西に下ったところにメルバコルの拠点があった。
まだそれぞれの拠点の周りやその間は暗くなっている。
冒険の余地があるから楽しみだ。
闇龍と光龍たちと別れ、ミイが現場監督に復帰し、セシュレーヌと二人きりになったタイミングだった。
「そ、その、ご主人様」
「ん? 何?」
「ご主人様の匂いを忘れそうになるので、確認をしたいのですが」
セシュレーヌを見るとモジモジしていた。
仕方ない。
許可することにしよう。
「いいよ」
「本当ですか!」
セシュレーヌが嬉しそうにクンクンと匂いを嗅ぎ始める。
ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。
ガシッと力強く抱きしめられる。
こちらは儀式が終わるまで眼を瞑ってやり過ごした。
気持ち、水竜の時より若干長いと感じたのは気のせいだろう。




