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√トゥルース -026 深夜の侵入者1



「...ん...ん?」


 真夜中、いつもはまず起きないだろう時間帯に急激に意識が覚醒してきた。こんな事は初めてだ。

 一体何故?と目を開けると、両脇に(・・・)温もりを感じた。んん?両脇に?

 いつもは大体左側にシャイニーが抱き付くように寝ている。じゃあ右側は?もしかしてフェマ?でもフェマは今夜はこの家で寝るのは最後だとお婆さんの部屋に寝に行った筈。それにフェマはこんなにも大きくはない。

 そう、右側は子供ではないのだ。


 しかし、確認しようと身を起こそうとすると激痛が。い、痛ってぇ~!!何だこれは!ま、まさか...

 俺はついさっきまで見ていた夢を思い出す。そう、夢の中で俺は人に蹴られて怪我を負った。それがこうして...


 しかしそれどころではない事態が更に。外からラバたちが騒ぐ声が虫の鳴き声の中に聞こえているのに気付いたのだ。別棟の納屋で何かが外で起きている?が、今は右隣だ。

 と思っていると、右側の温もりがガサゴソと動きだした。えっ!?ちょっ!今は体が痛くて動けない!

 すると寝具の中から人が出てこようとしているのが分かった俺は、思わず体を硬直させる。右腕に触れるその者が着衣してない事に気付いたのだ。それも柔らかい感じから女の人なのか?


 思えばこれまでも朝起きると誰かが入り込んでいた形跡があった。それは道中の宿でも野宿でも、更には実家の自分の部屋でもだ。その犯人が今隣にいる。

 何故このタイミングで!?外のラバたちもどうなっているのか気になるのに!!

 徐々に暗闇に目が慣れてくる中、寝具から出てくる艶かしい肢体...がフッと掻き消え、ぺしっと小さな身に覚えのある感触が顔に当たった。


「みゃあ!」ぺしっぺしっ


 えっ!?ミーア!?

 そう言えば王都でラバたちを選ぶ時に、ミーアがこれを選べと言ったと、人の言葉の裏が聞こえる呪いを持ったエスピーヌが言っていた。人の言葉が分かる猫。今まで考えが及ばなかったが、もしかしてミーアも呪い持ちなのか?と思っていると左側のシャイニーも目を覚ましたようで、モゾモゾと動きだした。


「うん...ルー君?何かあったの?」

(しぃっ!誰かが入ってこようとしている!夜盗だ!うぐっ!!)

(えっ!?ルー君、どうしたの!?)

(分からない。けど体が痛くて動けない)


 玄関の扉がカタカタっと小さな音を立てて開けられる。玄関には簡単な閂が掛けられていたが、解錠はそんなに難しくはない。現金も物も大した物はないからとフェマはあまり防犯には力を入れていなかったみたいだ。

 しかし本当に悪いタイミングだ。

 俺は周囲に誰もいない事を確認すると、痛む体に鞭を打って起き上がる。やはり俺の右隣にいたのはミーアだったのか?でも今の最大の脅威は家の中に入ってきた夜盗の方だ。


 俺はシャイニーに奥の部屋のフェマを起こすよう言うと、気付かれないように壁際にそっと寄る。

 くそっ!体が思うように動かない。何とか切り抜けなければ!そっと入ってくる者を覗き込むと、意外と背が低そうだ。物色しながら奥へと入り込んでくる所を見ると、目的があって入り込んだ訳ではないようだが、どちらにしても物取りである事には違いないだろう。それにしても...


 夜盗としては何かちぐはぐだな。普通、盗みに入るなら家畜等を騒がすのは悪手である筈。それに金品はそんな入口近くには置かない事の方が多い。

 未だに納屋で騒いでいるラバたちの声から察するに複数人なのだろうが、ハッキリ言って素人っぽいな。近くに来て後ろを向いた時がチャンスか。


 そんな風に考えていると、クイクイと寝衣を引っ張られる。フェマだ。手には二本の棒。その後ろ内の一本を俺に差し出してきた。これを使えと?中々攻撃的な幼女だな。

 ...まさか両親は夜盗に?もしそうなら納得だが、今はそんな事を考えている時ではない。それを受け取るとチャンスを伺う。あと少し。距離があれば逃げられるか反撃されるかも知れないからな。ま、逃げてってくれる分には良いけど、外の仲間を呼ばれると厄介だ。



 しかし、ジャリッジャリッと足音を消そうとしない者が外から入ってきた。うわっ!仲間か!?

 そう思ったが、次の瞬間、思わぬ言葉が発せられる。


「何だ、やっぱり同業者か。どうだ?めぼしい物はあったのか?」

「えっ!?」

(((えっ!?)))

 

 その言葉に、先に入り込んでいた者も俺たちも驚きの声を上げてしまう。勿論、俺たちの声は小さく離れているので虫の鳴き声に掻き消されている筈。

 まさかの二組目の夜盗の侵入だ。

 俺たちは隠れたままその経緯を見守る。荒事は全く経験ないだろう女子供二人に体が思うように動かない俺。ハッキリ言って不利どころではない。このまま窓から離脱した方が良いだろうか。


「仕事場にまであんなものに乗ってくるなんて、人が住んでる家が近くにあったらどうするつもりだ?」


 ん?もしかして後から来た奴はここが留守だと?なら一旦ここから離れた方が良いか?そう考えていると後から入ってきた男が先に入って来ていた者に掴みかかった。どうやら拘束して横取りするつもりのようだ。


(窓から外に出よう。荷物は...お金と石だけ持って)

(えっ!?でもこの格好で?)

(今はやり過ごす方が先だ、ニー)

(む。あんな奴ら、撃退してしまえば良いではないか)

(今の俺には無理だよ、フェマ。身体中が痛みで思うように動けないんだ)

(む?痛み?寝る前はそんな事は一言も言っておらなんだじゃろ?)

(そうなんだけど...その事は後で話すから。今は自分たちの身の安全が優先だ)


 音を立てないよう荷物からお金と商材の石が入った袋を取り出すと、そっと奥の部屋へと行こうとしたところでフェマに呼び止められた。



(のう、あの捕われた者をどうにかできんかのう...)

(はぁ?どうにかって...助けるって事か?)

(うむ。どうやら捕まったのは子供の様での。対して後から入って来た者はどう見ても悪人面。あのままにしておいては、この場で殺められかねん)


 むぅ...確かに大人としては非常に小柄に見えたし、言われればその恐れもある。それにここは先日亡くなったお婆さんの家。そこで人殺しなんてあって欲しくはないと言うのは分かるんだけど...

 でも、この感じだと言い聞かせられそうにないな。俺は溜め息を吐くと、お金と石の入った袋を奥の部屋に隠して身軽にし、フェマから受け取った棒を構える。出来れば靴を履いておきたかったが、位置的にそれは難しい。さて、あとはこの身体が言う事を聞くかどうかだな...と振り向くと、棒はシャイニーの手に、フェマの手にはいつの間にか包丁が。


(ちょっ!フェマは何を持ってるんだよ!)

(ん?わしか?わしはこれの方が慣れておるからのぅ。毎日握っている物の方がええわい)


 お子様に包丁...怖すぎるな。アレを使わせないように俺が頑張らなくては。シャイニーは師匠から棒術も軽く教えて貰ってたから、全く使えないという事もないだろうが、ハッキリ言って荒事は全く向いてないと思う。さて、どうしよう...と考えていると、調理場のある土間で小さな夜盗を縄で縛り終えた男が奥の方へと上がり込んできた。あいつ、縄まで持ってたのか。


「うん?まさか住人がいるのか?一人もんのババアの葬式の後、息子夫婦が帰って行ったと聞いたが...」


 ラバたちが騒いでいるのに、何を今更...と思ったが、あの小さい子供?たちが乗ってきたと思われているのか。それなら辻褄は合うかも知れないけど、近くに仲間がいると分かっていて...大胆だな。


 男は土間から上がり込んだ後、俺たちが息をひそめている部屋を通り越して、フェマが寝ていた奥の部屋へと行こうとしている...が、ふと立ち止まって振り返った。うぇっ!?バレたか!?






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