√真実 -013 守りきる!
「何だコイツ!このヤロウ!」
ボコッバコッ!
「キャーーー!!」「うぐっ!!」
一方的に男たち三人から俺に蹴りが入ってくる。何発も何発も。
そうだ、瑞穂。声を上げろ!
光輝、誰か人を見付ける事が出来たか?誰でも良いから助けを呼べ!
「このヤロウ!この前の借りだ!フクロにしちまえ!」
更に蹴りが入ってくる。三人がかりで。これで光輝の心配はしなくて良いが、俺が倒れたら今度は瑞穂が危ない!絶対守りきらなくては!!
ボコッ!バコッ!ベコッ!
うぐっ!ぐうっ!いつまで続くんだ?十分以上も続いているようにも思えるし、まだ一分も経ってないようにも思える。ヤバい、マジでキツい。これはいつまでも持たないかも。歯を食いしばりながら瑞穂に被害が及ばないように体の力を弛めるような事はしない。いや、出来ない。それは瑞穂を、お腹の赤ちゃんを傷付ける事を意味するから。この際、俺の事は二の次だ!
「だ、誰かーーーー!!」
しかし、終わりは必ずやってくる。
「おいっ!コラッ!!何している!!」
「お前ら、やめろ!!」
「くっ!人が!ずらかるぞ!」
くっ!や、やっと人が来てくれた。光輝が呼んできてくれたのか?それよりも...
「うぐっ!!瑞...穂...さん、だ、大丈...夫...です...か?ゴホッ!」
「マー君!あたしは大丈夫!それよりもマー君がっ!」
「お腹の...あ、赤ちゃんは...ぐふっ!」
「大丈夫、大丈夫よ!マー君が守ってくれたから!それよりもマー君の方が...」
良かった、何とか守りきれたみたいだ。でも念の為、検査は受けた方が...
って、言っている場合じゃないかも、俺が。
瑞穂に覆い被さった状態から動けない。動こうとすると体中が軋む。ってか、じっとしていても痛いぞこれ。どうすれば良いんだ?
すると俺の鉄壁のガードから抜け出した瑞穂がその場に座り直し、お返しとばかりに俺をそっと抱き寄せる。あ、すっげえ楽になった。道場でのミサのようなある意味暴力的な柔らかさじゃなくて、ふんわりと包み込まれるような柔らかさ。それに香水のキツい匂いじゃなく優しい香りが...
女の人に包み込まれるって今までミサとかに無理矢理やられて何か苦手な感じだったけど、こんな優しい感じもあるんだな。って、あっ!
「み、瑞穂さん!これ、お腹の赤ちゃんに、良くないんじゃ!?離れます!うぐっ...」
「大丈夫、大丈夫だから。このままじっとしておきなさい。ん...不味いかな、蹴られたところが熱を帯びてる...誰かタクシーを...いえ、救急車を呼んで下さい!」
瑞穂が近くに寄ってきた人に119番を頼む。えっ?蹴られたところ?やっぱり瑞穂が蹴られていたのか!?と思ったら俺の事でした。言われれば確かに体が熱いような気がする。ま、この痛みに比べたら熱なんて大した事じゃないけど。
救急車を呼んでくれた人とは別の人が警察にも電話してくれたようだ。次第に騒ぎを聞き付けた人が集まってきている。周囲にはこんなにも人がいたんだな。そんな事を思っていると数分で救急車が来た。蹴られていた時間よりも短いんじゃないのか?
「打撲に切創、擦過傷。頭も蹴られたのか?」
「何発か。それよりも、こっちの人は、妊婦なんです!先に、こっちの人を、見てやって、下さい!」
救急隊員からの問診を受ける俺は、やはり自分の事より瑞穂の方が気になる。当然救急隊員もそれを聞いて気を引き締めるのが伝わってきた。
「他に同乗する方はいませんか?」
「あっ!光輝...光輝は!?」
救急隊員に言われて一緒に帰ろうとしていた黒生の事を思い出す。すっかり忘れていた。
辺りを見渡すと、通りから小道に入って直ぐの所に佇んでいる黒生の姿を見付ける。良かった、黒生は無事だ。
しかし、その表情には生気が感じられない。怪我はしていなさそうだが、このまま置いていくのは不味いと思い、救急隊員にあの娘もと名指しする。
救急隊員もその表情に危機感を抱いたのか、拒否する事なく連れてきてくれた。しかしその足取りは思った以上に重そうだ。
救急車が出る直前にパトカーがやっと来た。搬送される地元の病院名だけ警官に告げると、けたたましいサイレンを鳴り響かせて走り出す救急車。
...救急車なんて初めて乗ったな...なんてぼんやりと思うが、そんなのんびりした考えは痛みで掻き消される。特に左半身から背中に痛みが集中している。横から瑞穂に覆い被さったので、左半身を集中的に蹴られた。骨までいってなければ良いが...
くぅっ!と呻き声が漏れてしまう度に瑞穂が心配そうな眼差しを向けてくる...が、黒生は放心状態だ。
「うっく!光輝、は大丈夫、か?」
そう声を掛けると黒生は手で顔を覆い、ワッと声を出して泣き出した。
「ウチ、ウチ、何も出来なかった!真実くんに言われたのに!人を呼ぶ事も出来なかった!」
泣き喚く光輝を瑞穂が宥める。そうか。光輝は人を呼ぶ事が出来なかったのか。でも...
「でもさ、頑張って、呼ぼうとして、くれたんだろ?ありがとうな、光輝」
あまり痛みのない右手を伸ばして光輝の頭をポンポンと優しく叩く。するとチラリとこちらを見た黒生が、更に声を出して泣いた。いや泣き止めよ、黒生。ここは救急車の中だぞ?救急隊員も困っているじゃないか。
その後、病院に運び込まれた俺は処置室で身ぐるみ剥がされ表面上の傷を処置して貰うと、レントゲン、CTを取らされた。ああ、ケツは勿論、前まで丸出しにされて見られちゃった。オッサンの先生や看護師さんたちに。恥ずかし~。
幸いにも骨折は無かったけど、頭も蹴られているという事で入院して様子を見る事になった。今日は初体験ばかりだ。
ベッドに寝かされて廊下に出ると、瑞穂と黒生、それに師範が待っていてくれた。何故に師範が?と思ったが、連絡を受けて身重の瑞穂が心配で駆け付けたんだろう。
しかし、黒生はちょっと心配だな。泣き張らした顔で憔悴してさえいるようにも見える。そんなに気にしなくても良いのに。
「マー君、本当にありがとうね。あたしもお腹の子も無事だったわ」
「真実。オレからも礼を。よく瑞穂を、お腹の子を守ってくれたな。本当に、本当にありがとう!」
瑞穂に続いてガバッと頭を深々と下げて礼を言ってくる師範に、俺は少し照れながらも漸くホッとする。
あれ?今になって何だか急激に眠くなってきたぞ?一息吐けた事で気が抜けたのかな?
何れにしても二人とも無事で何よりだ...と思いながら意識が薄れていく中、何かがドサリと音を立てたのと同時に、師範と瑞穂が黒生の名前を呼ぶのが聞こえた気がしたが、それを確認する事なく俺は意識を手放すのだった。




