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√トゥルース -017 大捕物



「そこまで!一同、そこまでだ!皆動くな!」


 俺が殴り掛かってきた男を腕を取って捩じ伏せたと同時に、その場に割って入ってきたのは、この町の駐在さんだった。

 周囲には見慣れた制服を着た見慣れない人たちが、いつの間にか取り囲んでいる。勿論、用水に飛び込んだ孤児院の連中をもだ。先程、溺れそうになっていたシスターはやっと足が着く事に気が付いたようだ。

 てか、何故駐在さんが?


「ちゅ、駐在ぃ!この野郎を捕まえろや!傷害の現行犯だろうがぁ!!」


 なっ!こいつ、この期に及んで未だにこんな事を言って!俺の下で、俺が捩じ伏せた男が喚く。

 まさか俺、このまま捕まっちゃうのか!?

 今の状況だと、俺がこいつを押し倒したうえ組伏せていて、他の者たちも俺の乗っていたラバが暴れたせいで用水の中に落ちた、としか見えない。いや、実際にそうなんだけど。何も知らない人が見たら酷い事をしているのは俺の方じゃないか?


 慌てて俺は男を解放して立ち上がる。すると男が痛そうに(さす)りながら立ち上がり、ニヤリとした。


「てめぇ、おれたちにこんな事をしておいて、どうなるか分かってんだろうな。覚悟しろよ?」

「覚悟するのはお前の方だ」


 そう言うと男の腕を掴んで捻り上げる駐在さん。

 お?何だ?用水に飛び込んだ連中も他の官憲たちに引っ張り上げられた後、拘束されている。


「駐在ぃ!てめぇ、何をしているのか分かってるんだ?教会を敵に回すつもりか!?」

「ふんっ!何が教会を敵にだ、聞いて呆れるわっ!お前は等の昔に孤児院を出ていかなければならない立場だろうが!それをいつまでも孤児院で大きな顔をしおって!お前らには寄付金横領、幼児・未成年者保護違反、婦女暴行、恐喝、金品強奪、それと今、銀行強盗未遂が付いた。そっちの連中もだ。覚悟しろよ?」

「なっ!?」


 駐在さんの物言いに男が驚きの声を上げるが、そんなにも罪状があるのか。こっちの方が驚きだ。

 聞いた事のない罪状もあるが、シャイニーにした事や町での立ち回りを見ていれば納得も出来る。それに銀行強盗は厳罰だと聞いた事がある。それは業務中、外回り中の行員も含まれるのだ。こいつら、シャイニーを襲ったつもりだろうが、行員が同行しているなんて考えていなかったのかな?

 しかし、今度は水浸しの連中の中から声が上がる。年配のシスターだ。


「何ですって!?そんな馬鹿なっ!あたしたちを捕まえるですって?そんな事をしたら教会が黙ってないわよっ!?」

「教会が何じゃって?」

「あたしたちの身に何かあったら教会や信者が黙っていないって言ったのよ!」

「ほう?いつから教会は犯罪者を匿う所になったんじゃ?」

「...爺さんには関係無いでしょ!そもそも官憲じゃ無さそうだけど、誰よ!あんたもただじゃ済まないわよ!?」


 年配のシスターが憤慨しているが、もう俺はその爺さんが誰だか知らないまでもピンときていた。

 いやいや、話の流れ的に分かるだろ、普通。揃いも揃って連中は、その爺さんが誰なのか分からず勝手な事を言うなと騒いでいる。


「...駐在さん。そちらの方はどちらの(・・・・)教会の方(・・・・)なんです?」


 俺は目の前の男を締め上げている駐在さんに声を掛けると、駐在さんはほうと感嘆の音を上げるが、男やシスターたちはそれを理解出来ていないようだ。


「君は直ぐ分かったようだね。王都の教会本部の司教様だよ」

「えっ!?司教様!?そんな身分の高い人がこんな所まで!?」


 驚く俺の声が辺りに響くと、それを聞いたシャイニーや行員さんだけでなく、シスターたちも驚きの表情になる。ただ、孤児院で保護されている立場の子や駐在さんに捕まっている男は、その意味が分からずポカンとしていた。


「教会のお偉いさんなら話が早い!おれたちを放すように言ってくれ!」

「まだ言うか!お前らはやり過ぎた!とことん絞ってやるから覚悟しろ!」


 駐在さんが一喝して連中を連行するように官憲たちに指示を出す。流石にもうじき夏だからと言っても、服が濡れたままでは風邪をひいてしまうので、早々に着替えさせなくてはならないからだ。

 建物の影に隠されていた馬車に押し込まれる連中を見やりながら、その司教が近寄ってきた。


「本当はここの教会の司祭が不在になった時に後任を置くのが最良だったのじゃがのぅ。この地区の担当司教が不要じゃと申して、理由を聞くとシスターが上手くやっているのと、何かある時は司教が赴くと言い張ってのぅ...それ以降も問題無いと報告が続いて、まさかこんな事になっとるとは思いもせなんだぞ。嘆かわしい!」


 え?ちょっと...言っている意味が分かりませんが...

 その後、檻付馬車で連中が連行されていくのを見送ると、残った五人で駐在所に移動した。

 本当は教会に行こうとしたのだが、シャイニーが酷い拒否反応を示したので仕方なく駐在所に変更したのだ。

 因みに移動する直前までミールが暴れていたのは閉口したが。

 ミーアよ、ミールの上で遊んでるんじゃないよ。乗りこなせるのがそんなに楽しかったのか?そうなのか?



「先ずはシャイニーさん。長年辛い思いをさせてしまい、申し訳なかった」


 駐在所のテーブルに着いた途端、司教が立ち上がって頭を下げる。シャイニーは慌てて司教に下げられた頭を上げて貰う。


「本来なら大司教が自らここへ来るべき案件じゃったがのぅ、別の案件で今は王都から離れられぬ。ワシは云わば大司教代理としてここに参った次第じゃ」


 こう冒頭に断りを入れた司教は経緯を話してくれた。



 先ず、情報はある信徒からの陳情だと言う。


 この町の孤児院で幼い頃から虐げ続けられた娘が着の身着のまま放り出された、と。話を聞けば、その娘一人が炊事洗濯掃除等、暴力の上で孤児院の全てをやらされていたと言う。その孤児院は先に話したように地区の担当司教から問題無いと報告されていた為、国の中でも遠隔地であるその教会はおざなりにされ続けたらしい。そしてその陳情者からの訴えは、相手が誰か分からなかった司祭見習いが話を聞いていた事もあって、信じられていなかった。まさか教会内でそんな事はあるまい、と。


 一方、官憲の中央である王都の本部にもその情報がもたらされ、よくよく調べてみるとその町の駐在から報告が上がっていた事が分かった。しかし、やはり遠隔地での些細な出来事だとして無視され続けたと。事ある毎に報告されたそれは、一件一件見れば本当に大した事のない案件だったのだ。

 それがたった一人の幼い娘に起きていた事に気付かれずに。


 それでも動かない官憲や教会に痺れを切らしたその陳情者は、あろう事か軍にも陳情しようとしたらしい。実際、軍の指揮官クラスの人間から非公式の問い合わせがそれぞれにあったと言う。それも複数から。

 教会としては身内の恥を、官憲どころか国の直轄である軍にまで手を煩わせたとあれば、世界に広がる教会たる力は一国に劣る事と同義であり、許容出来ない。

 官憲にしても、本来なら官憲の領域(テリトリー)に軍が入ってくる事は官憲が無能だと言っているようなものなので、絶対あってはならないのだ。


 慌てた両者が協力し合い、先ずはその地区の担当司教を拘束、問い質してみれば、出るわ出るわ不正の数々。

 賄賂に汚職、癒着...私利私欲が禁じられ婚姻が認められてない聖職者であるにも関わらず隠れて妾を作ってさえいた。

 また、この町の教会のシスターはその司教の姪で、可愛がるあまりシスターの言いなりだった。町の者たちも遠隔地の小さな町でありながら、何かあれば司祭ではなく司教が大きな町から態々出てきてくれるとあって、問題視するどころか喜ぶ程であった。司教も普通より多い布施を貰い、それを懐に入れて肥やしていた。

 地区の担当司教は即罷免、更迭された。

 

 しかし、更なる陳情者からの情報で両者は顔を青くする。






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