√トゥルース -018 事後
両者が青くなる程の情報...それは、当の放り出された娘が、バレット村の者に保護されて旅に出たと言うものだ。
通常教会及び孤児院の運営は税金で最低限の生活が保証され、その上で寄付があってある程度の豊かさを確保するのだが、地方であるその町の規模から普通なら孤児院にまで手が回らない筈のところが、その町ではバレット村からの少なくない納税と寄付によって可能となっていた。
だが、バレット村がそれを理由に寄付どころか納税を渋れば、教会の運営は愚かそれなりに豊かな町は途端に過疎化が進むかも知れない。教会のせいで町が寂れる。教会としては何としてでも避けなければ教会全体が非難されてしまう。
そして官憲としてもバレット村がヘソを曲げるような事は避けなければならなかった。王族がバレット村の特産品であるレッドナイトブルーを気に入っているのだ。それでなくとも産出地でありながら国内に出回らない特産品など、滑稽でしかない。今でも国内の流通量が少ないのに、それこそ逆輸入しないと手に入らないなんて他国からの笑い者になってしまう。国の威信を官憲が守らなくて誰が守るのか、と。
こうして、王都から官憲の部隊と教会のトップ2がこの町にすっ飛んできた、と。
「あ~。それ、たぶんサフランさんですね。あの人、シャイニーの身の上話を聞いて憤慨していたし、シャイニーの事をそんなに詳しく知ってるのはザール商会のアガペーネさんとエスピーヌさん、後はサフランさんくらいしか知らない筈ですからね、それにサフランさん、軍の訓練に講師として顔を出してるって言ってたし。軍の指揮官に顔が利くなんて、もうあの人くらいしか思い浮かばない」
「...そこまで特定されては仕方あるまい。その通りじゃ。教会としてもザール商会には世話になっとるし、敵に回したくは無いのでのぅ。それでも、これ程遅くなってしまったのは本当に申し訳なく...」
司教さんが神妙な面持ちで言うが、シャイニーはもう蒸し返しては欲しくないらしい。
「私としても直ぐに対応して欲しくて、こまめに報告を上げていたのだが...かえって細かすぎて問題視さらなかったようだ。何とも皮肉な話だが、結果が全てだ。あの人数を一人で捕まえる事ができず手をこまねいていたんだ。今まで助けてやれんで申し訳なかったな」
駐在さんまでも頭を下げるのには、シャイニーも面を食らっていた。
「いやあ、焦ったぞ?やっと応援が来てくれたと思ったら、孤児院の者たちがチビたちを残していなくなってたからな。何日か前にバレット村への道が土砂崩れ起こして通れないと支店長が教えてくれてたが、今朝向かったと行員に教えて貰ってたからもしかしてと向かったら、案の定奴等待ち伏せしててな。どうせなら確実な罪状があった方が、と暫く様子見してたら...」
思い出したのか、クククっと笑う駐在さん。ずっと見てたのか!もっと早く出て来いよっ!
「成る程。やはり人が悪いですね。最近は丸くなったようですが、この町に赴任してきた頃はと言うと...中身はそれ程変わっては無かったようですねぇ」
「...ふんっ!それはお互い様だろうが」
行員さんと駐在さんが言い合うと、お互いクスッと笑う。
その後は、簡単な調書とサフランからの情報の裏をシャイニーに確認して解放された。
簡単に済ませてくれたのは、シャイニーには負担が大き過ぎると判断されたかららしい。物心付いてじきに虐げられてきたのだ、やっと解放された今、蒸し返すのは心の傷を抉るようなものなのだ。それに駐在が都度細かく報告を上げていたので、簡単な確認でも充分であった。
後は連中を裁いて貰うだけである。
「あの...みんなを許しては...」
「それはやめておけ、お嬢さん。そんな情けをかけたところで、また再犯したら被害者が増えるだけだ」
確かに今まで一緒に暮らしてきたのだ、多少の情も湧くだろうけど、それは優しすぎてまた自分に降り掛かってくるだろう。残酷なまでに。
今回あの場にいなかったこの町の孤児院に入っている孤児たちは、一旦王都の孤児院に移され再教育した後、地方に分散させると言う。一所に固まり続ける理由はない。
俺たちを襲いに一緒に来た子供たちは専門の所で更生を受けた後、王都の孤児院で成人するまで監視されるらしいが、中でも心を改めない者は更生の為の教育をいつまでも受ける事になる。
そして、教会関係者と成人済みなのに留まり続けた者たちは、その罪状からかなりの年数の重労働が課せられるだろう。厳罰にまではならなくとも、罪に応じた罰に加え今まで使い込んだ寄付金等の弁償が終わるまで解放されないと言う。
ブクブクと肥えた連中は当初のシャイニー位にまで痩せて、その辛さを体験して欲しいものだ。
俺たちは駐在所を出た後、食材を買い込んで町を後にした。
因みに俺たちと入れ違いになるようにバレット村の買い出し部隊がいつもより大勢で町に来ていた。大きく手を振ってきたので手を振り返して自分たちの進むべき道へとラバを向かわせた。
そして、それとは別に二つの影があった事には誰も気付いてなかった...
「ニーはあれで良かったのか?」
ポクポクとゆったりしたラバたちの足音を聞きながら、俺はシャイニーに問い掛ける。
既にシャイニーは孤児院を出ていて、本来ならああして絡まれさえしなければもう関係のない話だった。しかし、こうして知っている者が捕まっていく様を実際に目にして何か思う所があるのでは、と。
実際、シャイニーは刑が軽くなるよう口添えをしようとしていた。駐在さんにそれは止められたが、少なからず思っていた結果とは違う筈だ。
「ウチは...ルー君に出会えて、ルー君とこうして旅が出来て、ルー君にとても良くしてもらって、今がとても幸せに感じているの。今までがああだったから比較なんて出来ないけど、ウチは今に満足してるからあの人たちの事は何も考えたくない」
だから、何も知らなくて良い。知りたくもない。ただ、自分のような人が増えさえしなければ、と。
それにしても十年以上も司祭不在で教会を運営していたのか...管理がまるでなってないんだな。町の教会には早々に新しい司祭が着任するそうだ。ただ、孤児院は暫くは閉鎖すると言っていた。管理する者の再教育が全体的にも必要だと判断された為、それが済むまでは再開させる事は無いと...
「そうか...ま、二度と関わりたくはない相手だったしな。後は官憲と教会に任せよう」
それと、と俺は続ける。シャイニーが教会を毛嫌いしてないかと少し心配したのだ。
しかし、シャイニーはそれには否定で返した。自分が不遇な目に遭ったのは、出会いが悪かったのと自分のこの顔のせいだ、と。どちらかさえ良ければこんな事にはならなかったのではと。なので教会自体は関係ないと断じた。良かった、今まで教会を避けて寝泊りしていたけど、今後は安全の為に教会にお世話になるかもしれない。その為に司教さんから良い物を貰ったし、とシャイニーの胸元を見る。
そこには俺があげたネックレスと、もう一本。それは別れ際に司教から貰った、プレートの付いたネックレスだ。
ぶっちゃけタイミング悪っ!と悪態を吐きそうだったけど、聞けばそのプレートには世界中の教会でVIP待遇されるという滅多に発行されない物だった。これから国外へと出て行く俺たちにとって、それは結構有用なものとなるだろう。宿代わりにもなれば人を紹介して貰ったり保護して貰ったり争いを納めて貰ったり。
...これ、人探しをしようとしてる俺たちにはお宝だよな。長年に亘って気付けなかった詫びだという。
良い物を貰ったな。俺がアガペーネに貰った、ザール商会の優遇して貰える木札より良いんじゃないか?これを持ってると教会だけでなく一般人からも一目置かれるというし。
「それはそうとルー君、ウチが前に打たれた時、駐在さんに嫌味言ってたけど...今回の事ってその時のルー君の呪いが掛かったんじゃないかな」
「えっ!?俺、何て言ったっけ?」
「確か...『いつまで経っても解決しなさそう。その内に教会が世界を牛耳るようになるんじゃない?でなければ官憲は教会より弱いって言われるかも...』みたいな事だったと...違ったかな?」
「そんな事言ったっけ?」
「うん。正しくはないかもだけど、あの時ウチはルー君の言葉に、あれ?これってもしかして...って思ったから。それと...言い難いんだけど...」
今はラバたちの休憩を兼ねて買っておいた昼飯をたべていたのだが、シャイニーが少し言い淀んで視線を外す。まさか他にも?
「その、バレット村に入る時、門の人にも嫌味を言ってなかった?直ぐにでも出て行くって。少し離れてたから良く聞こえなかったんだけど...」
「ん?そういえば言ったような言わないような...まさかあの土砂崩れでの足止めって...俺のせい!?」
確かにそう言われれば言った覚えが...
「今までのルー君、嫌味を言う時に心を込めた時に反対の事が起こってるような気がするの。アガペーネさんの時とかもそうだったような...」
むう。そうなのか?確かに今まで嫌味を言う時って、思わず力を込めて言ってたな。
と言っても、意識して言っていた訳じゃないからなぁ。意図的にだなんて本当に出来るのだろうか。実は俺のは呪いじゃないんじゃないかって未だに思っている。認めたくないのだ、未だに。
しかし母さんにあれだけ念を押されたので、今一度本当に俺にそんな力があるのか検証する必要がある。
まあ、今回の旅は長いんだ。ヘマをしないように気を付けながら気長に確認していこう。
俺は昼飯を食べ終わると、旅を再開する為にラバに乗ろうとして手を止めた。
...この駄ラバめ~!散々暴れたから未だに息が荒いじゃないか~!今日の移動はほぼ絶望的だ~!!




